2017.08.12
《プロフィール|石崎優氏》
Empag (Thailand) Co., Ltd. CEO
東京大学・大学院卒業。大学在学時に不動産ベンチャーの立ち上げとバーの運営を経験。大学院在学中に語学留学先のシアトルで発光ダイオードの特許を持つドクターの学生と出会い、技術の法人化を支援。大学院卒業後はマッキンゼーアンドカンパニーでコンサルタントとして活躍。2016年よりEmpagにCOOとして参画、2017年11月からCEO齋藤氏の退任に伴いCEOに就任。
Empagの現在の事業
一つの事業作り込みか、多事業創出か
ーEmpagの事業やビジネスについて教えてください
ミッションは東南アジアで農業・食品のインフラを作ることです。しかし、最初から悩んできたことがありました。それは、1つのプロダクトを徹底的に作りこむのか、キャッシュフローを回しながら事業として成立するユニットを増やしていくのか、どちらにするのかということです。
例えるなら、Facebook(1プロダクト作り込み)か、リクルートとかサイバーエージェントのように複数の事業ユニットを増やしていくかというものです。考えた結果、後者の形を取ろうと決めました。
以前取材していただいたときにやっていた産直野菜宅配サービスのEmfreshも、その後はじめた飲食店マーケティングのサービスもありましたが、売り上げ成長に限界が見え、17年度、何か新しいものに勝負をかけないと非常に厳しい状況になってしまいました。
戦略的に動画制作事業へ
そこでやろうと思ったのがSNS向けの格安動画制作サービス(特にレシピ動画)のMoveAsiaです。これをやるに至った理由は主に二つあります。
一つは、世の中の大きな流れとして、動画を用いてマーケティングをする市場が成長してきているということです。日本でもレシピ動画のサービスが人気ですよね。一昨年くらいからFacebookタイムライン上で動画を配信できるようになったことから、今までYouTubeしかなかったストリーミングがSNS上でも消費されるようになり、動画の市場が広がり、特にTVCMのように一本の作り込み動画よりも、日常的に流れてくるようなコストを抑えて大量制作するタイプの動画市場が急速に成長していました。
もう一つは、それが自分たちが持つ強みを生かす事業だったからです。半年間で売り上げを伸ばすには、自分たちが持つ明確な強みを活用しないといけません。そして2017年頭の時点では、その強みは恥ずかしながら「東南アジアでビジネスをしている日本人である」というアイデンティティしかなかったんですよね。その強みを活かす、つまりタイのリソースを生かしたサービスを日本に提供するのが一番合理的であろうと判断しました。
この二点を踏まえて、コスト競争力が求められる成長中のSNS向け動画市場に、デザイナー・クリエイターの質が高いタイでのオフショア動画制作をサービスとして提供したらいいのではないかというのが着眼点です。
この工夫により、高品質な短尺動画制作をこれまで動画制作相場の約3分の1の価格で行うことができます。
Empagが運用するFacebookメディア「Aroi Thai Recipe」より
Empagの今後の目標
2024年には2000億企業へ!
ーEmpagの長期的な目標を教えてください
最終的にミッションを達成するという大目標がある一方で、組織としてはリクルートのような会社にしたいです。どういうことかというと、組織の人材力をドライバーに、様々な領域で複数の事業を回して、それぞれがあるからこそそれぞれのシナジーが生まれるような企業にしたいと。具体的な数字でいうと、2024年に2000億企業にというのが長期的な目標です。
あまりに壮大すぎてまだそのルートは見えませんが、とにかくコツコツ目の前で事業ユニットを作っていきたいです。
石崎さんがアジアに来た理由
成長するアジア市場に挑戦したい
ー石崎さんがASEANで起業をされたのはどうしてでしょうか。
今後、日本の市場はほぼ確実に縮小していくだろうと思っていて、世界に出て挑戦したいという気持ちがもともとありました。その中でも伸びゆく成長市場を見たいと思ったので、ASEANで挑戦することにしました。また、ASEANの方が欧米よりも日本人アイディンティティで勝負しやすいので日本人として有利な点があると判断したのも理由の一つです。
成功した事業家の下で、新事業を作り出すというコンサルティングではできないことをしたい
ー東大を卒業して超一流企業のマッキンゼーを辞めてまで起業するということは、何か強い思いがあったのでしょうか?
もちろんマッキンゼーのことは好きですし、仕事自体とても充実していましたが、同時にコンサルタントとしての限界も感じていました。というのは、あくまでコンサルティングは成功した前例をクライアントの課題に当てはめて価値を生み出す仕事なんです。つまり「こういう良い事例があってこれを当てはめればあなたの企業でもきっとうまく行きますよ」というのがコンサルティングの仕事です。
そういう意味では、新しいものを作る、新たな価値をゼロから生み出すというのはコンサルティングではなかなかできないことなんですよね。何か新しいものを生み出し、事業家として成功したいという思いがあったので、マッキンゼーという環境をやめてアジアでの事業に挑戦するという決断をしました。
またEmpagの親会社であるREAPRAグループのCEOである諸藤(エスエムエス創業者)さんの存在も大きいです。0から事業を始めて大成功している事業家のコーチングを受けられるというのはとても魅力的だったのも決め手でしたね。
実際にASEANで働いてみて学んだこと
コンサルタントと経営者は全然違う
ーなるほど。今はコンサルタントではなく経営者として仕事をされているわけですが、新たに学んだことはなんですか?
よく言われていることですが、やはり勤め人と経営者はやることが全くもって違うということです。従業員のモチベーション管理から組織、総務管理まで、今まで他の人が担っていた機能を全部自分でやらなければいけません。だからこそ新しく学ぶこともたくさんありました。このような変化が大きいベンチャー企業という環境で、日々PDCAを回しながら事業を作っているので、事業を見る違った視点が身につきましたし、以前と比べてはるかに学習速度が速くなっていると感じます。
タイの雇用市場は流動的で、それに合わせたマネジメントが必要
大きな学びとしては、タイの雇用環境・市場がいかに日本のそれと違うのか、そしてそれに合わせてマネジメント方法をいかに柔軟に変えなければいけないか、というのを実体験ベースで知れたことです。
タイの雇用市場においては終身雇用に全く価値が見出されておらず、それどころか逆に転職すればするほど給料が上がり、キャリアアップにつながります。つまり、雇用が非常に流動的なんです。
そういう環境では、日本のように「あなたが食べていくためにはこの会社にいなきゃいけないんですよ」という外圧がないので、いかに雇用者の満足度をあげるかというのが重要になってきます。
例えば、我々のオフィスでは常に音楽が流れていてタイ人社員の話し声が常に聞こえるという状況です。生産性が落ちているのなら止めるべきですが、そうでない限り、日本人の価値観で「仕事中は音楽止めて」というふうに押し付けたりはしないようにしています。
事業選択の面でも、数字を徹底的に追って給与やボーナスを対価とした営業重視な事業をするよりも、動画制作のように、アウトプットが目に見えてわかりやすく、かっこいい動画を作りたいというふうにタイ人のモチベーションが上がるような事業を選ぶようにしています。
このように、アジアでは日本のマネジメント方法が通用しないというのは日本にいる時からも理論的には知っていましたし、みなさんご存知だろうと思います。しかしそれを実体験ベースで知れたことは大きいです。
ASEANを簡単に他国横断できるわけではない
ーASEANについて、来てからの気づきはありますか?
伸びゆく市場であるのは間違い無いですが、現状はまだ全部足しても到底中国には及びませんし、日本と互角か互角じゃないかという境目くらいだと思います。また、よくASEANというくくりで該当国をまとめがちですが、各国の文化は全く違うというのをよく覚えておく必要があります。ASEANはASEANスケールで考えないと市場として魅力的なほど大きくはないですが、だからといって簡単に他国横断でビジネスを行えるわけではありません。いかにASEANを攻めていくかというのを考える際には、その辺りは重々自覚しておく必要があると思っています。
e27のTop 100 Startups in AsiaにEmpagが選出され、シンガポールで開催されたEchelon Asia Summit 2017に出展(石崎さん撮影)
学生に向けて
学生のうちに自発的な行動力をつけよう
ー石崎さんは学生の頃からかなり活動的だったようですが、今の学生が学生のうちに身につけるべきスキルは何かありますか?
自発的な行動力ですね。
細かい事業スキル(ロジカルシンキング、レポーティング、資料)なんかは就職後でも身につけることはできます。しかし、自発的な行動力は違います。なぜなら、会社に入って特に最初の3年間は指示に従って動くことが多くなるからです。自分の頭で考え、考えを発信し、かつ行動で実践し、ファクトをとり、次の仮説につなげるといった実行を伴ったPDCAを回す力は学生で身につけられなかった人は社会人になっても身につけるのは難しいです。特にグローバル社会やスタートアップ業界では行動の質が肝で、自分の頭で考えて素早く行動できない人は全く求められていないというのが現状です。
こういった行動力はグローバルでもスタートアップでも働かない、と思っている人も身につけるべきだと思っています。今後社会がグローバル化していくのは間違いないですよね。個人的には10年以内にはiPhoneにはデフォルトで全自動翻訳機能がつくと思っています。そうなると、言語の壁に守られているものが完全になくなり、否が応でもグローバルで戦っていかなければなりません。そうなった時に、自分の頭でものを考えず、言われたことしかできない人は必要とされなくなります。
ですので、学生は学生のうちに自分の頭で考えて行動する力を身につけるべきだと思います。
肌感覚だと、日本の大学生の中で行動力があるのは全体の3%くらいですね。何せ、やりたいことがあったとしてもその枠を超えて手を出していくのが構造上難しいような成長過程を踏みますから。
しかしこれは逆に言えばチャンスなんですよ。行動力がない学生がほとんどという環境の中で、少し行動力がある学生になればすぐに他の学生よりも目立つことができます。経営者からしたら、「会いたい」といってくれる学生の数が少ないので、それをいうことができればかなり高確率で会うことができます。
私自身、たまたまフリーペーパーでみつけて面白そうと思った社長に直接手紙を書いて合わせていただいた経験もありますし、しっかり会いたいということと会いたい理由を伝えられれば学生でも経営者に会うことはできます。こうすることによって行動力も身につきますし、視野も大きく広がります 。
ー学生に向けて何か一言お願いします
どんなに論理的に考えても人と変わったことをする方が得なんだからやった方がいいですよ。みんなと同じことになったら目立ちませんしスキルも埋没します。学生という立場は非常にリスクが小さいので変わったことをするにはもってこいです。命さえ失わなければ限りなくローリスクでハイリターンな環境ですからね。ぜひ皆さんも1歩踏み出して自分のコンフォートゾーンの外にでる決断をしてみてください。
インターン募集
ーインターン生がEmpagで働く魅力はどのようなものですか
Empagの極めて特徴的なところは、とても近い距離に全然キャラクターの違うCEOとCOOがいるということです。
何でもかんでも言語化するタイプの私と、基本放任主義の齋藤。
ミッション重視な齋藤と、ロジック重視の私。
齋藤に仕事を任せてもらいつつ、私にロジックで詰められるという(笑)。
世の中のマネジメントの両端をじっくり見ることができるというのがEmpagの面白いところだと思っています。
さらに、1プロダクト押し切りではないので、事業がうまく行っていても新規事業を構築して行くため、新しいものを作れますし、新しい市場をみることができます。
自発的な実行を伴ったPDCAを回す力などを経営者直下で学びたい人など、成長志向の強い人はぜひご応募ください!
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インタビューに答えてくれた石崎さんのFBはこちら
石崎さん「興味持ってくれた人はFacebookとかでキャリア相談でもなんでも気軽に連絡をもらったらちゃんと返しますよ。これで実際どのくらいの人が連絡してくるのか楽しみにしてます笑」
Empagでは2週間に1度、石崎さんがマッキンゼーでの学びを独断と偏見によって解釈して還元する「Mamokinsey」を開催しています。タイに来ていて参加してみたい人は石崎さんにご連絡!