クラブ経営の失敗からスナック事業で復活!大きな挫折も経験した起業家Jonathan Shenさんが語る、「起業家が大切にすべきコト」とは?

《プロフィール|Jonathan Shen(写真左)》

シンガポールで有数の技術系専門学校を卒業後、兵役を経て仲間とイベント事業で起業。数々のクラブパーティのマーケティングを担い、成功へとに導く。イベント事業を売却後、クラブ経営を始めるも4ヶ月で閉鎖を余儀なくされる。その後、塩漬け黄卵チップスを提供するThe Golden Duckを創業。Forbes 30 under 30 2017に共同創業者のChris Hwangとともに選出

シンガポールで大流行中の「塩漬け黄卵チップス」製造の大手、The Golden Duckを共同創業してForbes 30 under 30 2017にも選出されたJonathan Shen。一見華やかな経歴にも見えるが、実は過去に大きな挫折を乗り越えた経験があるそうです。どんな挫折を経験したのか、そして彼が起業家として大切にしていることとは?

 

経済的理由で大学進学を諦めて、ブランディングを武器に仲間と起業!

ーThe Golden Duckについて教えてください!

簡単にいうとポテトチップスのようなスナックの生産・販売を行なっている会社です。普通のポテトチップスとの違いは、弊社の商品が「塩漬け黄卵フレーバー」であることです。今シンガポールでとても流行っているんです。

私自身はこの会社の共同創業者で、今はデザイン、ブランディング、マーケティング、海外展開を統括しています。ほとんどの時間はこちらの会社に注いでいますが、夜の余った時間などでブランドコンサルティング事業をやっています。マーケティングやブランディング、そしてデザインが自分の得意領域ですので、こちらはもはや趣味といった感じですね。

The Golden Duckのスナック

ーいつからブランディングに興味を持ち始めたんですか?

小さい頃からですね。昔から、他のシンガポール人の子供とは少し違いました。シンガポールの教育は、化学や数学、そして物理などの理系を学ばせたがるのですが、私はそれらの科目があまり面白いと思いませんでした。逆に、文学やアートや音楽など、一般的に世の中で役に立たないと言われる科目が好きでした。

高等専門学校(ポリテクニック)でマスコミュニケーションを専攻したおかげで、ジャーナリズム、広告、マーケティング、デザイン、ブランディングなど多様な分野を知ることができ、その中から自分が本当に熱中できることを見つけることができました。それがデザインやマーケティングで、その頃の将来の夢は広告代理店のクリエイティブディレクターになることでした。

そして、高専を卒業して大学に入る前の2年間はシンガポールの男性は必ず軍で訓練をしないといけないんですが、そこで何名かの起業家を目指す友人と会い、マーケティング担当として一緒に事業をやらないかと誘われました。

軍隊に所属していた時の写真

ーそれで、軍隊を卒業してからすぐ起業を?

はい、結果的にはそうですね。しかし、もちろん普通のシンガポールの学生は軍を卒業したら大学に進学しますし、私も当初は起業ではなくまず大学に進学しようと思っていました。実際にいくつかの大学に応募して、メルボルン大学などから合格をいただいていました。

しかし、費用を計算してみたところ、あまり裕福ではない私の家族が払える額ではありませんでした。唯一の方法が「ローンを組む」ということでしたが、数千万円のローンを親に組ませて大学に行くなんて、そんなことはできないと、目が覚めました。そして「大学に行けないなら、起業しよう」と軍にいた時代に誘われた仲間との起業を決意しました。

 

クラブパーティ事業を展開、大手企業に買収

ーどのような事業をやったんですか?

簡単にいうと、ビーチパーティをするイベント事業です。

自分たちの貯金をかき集めてやってみたら、なんと1,300人くらい集まったんです。お金周りを厳しく管理していなかったので、赤字になってしまいましたが、「やってみれば意外とうまくいく」という学びや、メディアからの注目を得られました。

特にメディアに取り上げられたのが大きくて、パーティの数週間後、シンガポールの有名なウォーターパークから「マーケティングのエージェントとして手伝ってくれないか」と誘いを受けたんです。

その誘いを承諾してそこの企業のマーケティングを手伝いながら、今度はナイトクラブを貸し切ってパーティを開きました。今度はキャパの倍以上の人が来場し、クラブ内のドリンクが完売というレベルの大成功を収めました。その成功を見た別の有名なクラブから、マーケティングのエージェントにならないか、という誘いを受け昼はテーマパークのマーケティング、夜はナイトクラブのマーケティングというようなタイムスケジュールでほぼ一日中働いていました。

そんな時、ナイトライフおよび飲食系の分野のシンガポール国内で一番有名な大企業が私たちに買収の提案をしてくれたんです。起業家として「誰かの下で働く」というのはあまり気の進まず、少し迷いましたが、こんなに大きな企業とともに働くのは学びも多そうだと思い、買収を受け入れました。

約4年間はその企業で働き、その経験から自分特に飲食とナイトライフのマーケティングやブランディングが本当に好きで得意なんだということを認識しました。ちなみに、当時は若くてハングリー過ぎたので、その企業で働くだけでなく、副業でシンガポールやマレーシアのブランドのマーケティングサポートもしていました。

 

 独立、そしてクラブ経営の失敗。そこで出会った共同創業者

ーかなり事業が上手くいってたんですね!

失敗談はこれからです。

最初のビーチパーティから大企業に買収されるまでずっと軍で出会った仲間3人とやっていたんですが、大企業で4年間働いた後「何かまた自分たちでやりたいね」ということでクラブを開くことになったんです。

起業して以来ずっとその分野に携わってきて、知見も資金も溜まってきていますし、悪くないなと思いました。

超大手のリース会社から物件を借りるため、初期の資金がある程度必要でしたので、投資家などから150万ドル(およそ1.5億円)を調達しました。最初は上々で、開店日の夜なんかは会場から溢れるくらいの多さの人が来場したり、滑り出しはよかったんです。

しかし、数週間すると地主の方から土地代についての問い合わせが何回も来たので不思議になって調べたところ、その超大手のリース会社は多額の負債を抱えていて、その地主に全くお金を払えなかったんです。さらに、その会社は倒産することを考えているということが判明しました。

そして一番失敗だったのが、その会社との契約書の大事な部分を見逃していたというところです。「外部的な要因で会社が倒産せざるを得なくなった場合、それによって起こるいかなるものにも責任を負わない」ということを。

結局、開店から5ヶ月後にその企業は倒産し、私たちのクラブもあえなく閉めることになり、調達した資金を失いました。流石にこれはショックでした。

ーそれはショックですね。そこから何か学んだことはありますか?

このような本当の逆境に直面した時、良い意味でも悪い意味でも人間の本性が見えるのだなと思いました。

私は3人の仲間と事業をしていたのですが、その中の2人がこっそり別のビジネスを始めていて、クラブが潰れた瞬間にそのビジネスをやり始めたんです。そして、私たちとは組みたくないと。

このように人間の悪い本性も見える一方、素晴らしい人も見つかりました。それが現在のThe Golden Duckの共同創業者Chrisです。彼は私たちがクラブの開業資金として200万ドル調達した際の投資家で、30万ドルを出資してくれていました。その金が一瞬でなくなってしまったので、彼も当時は相当ショックを受けていましたが、「どうやったらこれを乗り越えられるか」というのを彼と2人で考えているうちにとても親しくなりました。

そんな時、塩漬け卵フレーバーというのが流行っているというのを聞いて、そのフレーバーのチップスを作ってみようということになり、The Golden Duckを創業しました。

会社近くにはスナックを配送する車がありました(シンガポール市内)

ー創業からは順調ですか?

今の所はかなり順調だと思います。

創業してからおよそ2年半ですが、シンガポールに工場2つ所有、9つの実店舗、400のセブンイレブンと50のスーパーマーケットに卸しています。

今月から香港のセブンイレブン1000店舗でも販売を開始する予定です。

 

今まで培ってきた飲食分野のマーケティングスキルを存分に発揮

ー拡大してますね!ここまで順調にいっている秘訣は何でしょうか?

たくさん競合がいる中で、味はもちろん私たちがベストだと確信しています。
ただそれに加えて、手前味噌ですが、ブランディングが功を奏しているかと思います。

普通のベンチャー企業はプロダクトに集中してマーケティングやブランディングに手を回すことって少ないんですが、私自身の得意領域でもありますので、The Golden Duckは初めからブランディングやデザインを重視してビジネスを設計していました。

ターゲットは私と同じくらいでミレニアル世代と呼ばれる層のオフィスワーカーです。飲食分野でこの年齢層をターゲットにするブランディングは長年やってきていたので、その経験を活かして上手く彼らに浸透させられたかと思います。

弊社のスナックは1袋7-8ドル(7~800円)で、スナックの相場よりも値段をかなり高く設定しています。

このように相場よりも高いスナックを買う場合って、消費者はただそのスナックを買うだけでなく、「買う」というアクションの前後の「経験」を買っているんです。いわゆる「モノ消費からコト消費へ」といわれるやつですね。私たちはマーケティングやデザインに凝るのはもちろん、カスタマーサービスや実店舗でのスタッフの教育にかなりの費用と時間を割きました。そういう点が、今まで好調な秘訣だと思っています。

さらに、共同創業者Chrisの存在も大きいです。彼は連続起業家でありながら弁護士でもあるので、工場を持つときの契約書や法律周りは全て彼が持ってくれています。彼が、私の苦手な職務の全てを担ってくれているので、私がのびのびとブランディングなどに専念できるんです。良きパートナーですよ。

 

 自分の手が汚れるのも厭わない泥臭さと失敗を恐れないことが大事

ー起業して会社を経営していく上で大事なことってなんですか?

ビジネスに関しての価値観やしっかりとしたスキルがあるのはもちろん大事ですが、私は「自分で手を汚す覚悟とガッツがある」ということが一番大事だと思います。

創業初期でまだお金がなかったとき、スナックを作る機械のパイプにしょっちゅうゴミが溜まってしまっていたんです。ゴミを取り除かないと正常に作動しないのですが、それを直してくれる掃除の人やエンジニアを雇う金もなかったので、パイプに私の素手を突っ込んでゴミをほじくり返してました。ビジネスが伸びてキャッシュが貯まるまでは自分でパイプに溜まったゴミを取り除いていました。

あと、創業してまだ従業員がほとんどいない中、最初に迎えた中国の旧正月。シンガポールに住む人にとって旧正月はとても大事で、みんな実家に帰省してしまいました。工場で働く人も配達する人も足りなくなってしまって、このままでは休業しないといけないという状況になったんです。そこで私と共同創業者のChrisは工場に行き、ポテトをスライス・フライしてパッケージに詰めて配達するといったところまで全て自分たちでやりました。

このように、ビジネスをしていると、問題を解決するために精神的にも肉体的にも辛い仕事をしなければいけない時があります。そういう時になりふり構わずそれをできるかどうか、というのが大事だと思っています。いまの若い世代の特にテクノロジー企業は、大量に資金を調達して人を雇い、汚れ仕事を他人に任せるような起業家が多いように感じますね。別にそれを否定するわけではありませんが、事業を継続させていくために必要な仕事はなんでもやってやる、というくらいガッツがあった方がいいよね、と個人的には思っています。

ー若い世代に何かアドバイスはありますか

単純ですが、失敗を恐れるなということと、いい意味でバカになれということですね。

私は若くしてたくさん挑戦してきて、たくさん失敗してきましたが、大きな学びは全て失敗からきています。

今日の人々はみんな「いかに失敗しないようにするか」を考えますが、それでは大きな成功は得られません。失敗してもいいんです。また次のことに挑戦すれば。

私は今まで身の丈知らずに色々挑戦できるくらい愚かであったことをとてもよかったと思っていますし、たくさん失敗してよかったと思っています。若い人も、失敗を恐れずに挑戦してください。

 

編集後記

話し方は非常にパッションがこもっていて「アツい」人でしたが、非常に地に足ついた考え方をする人だと思いましたし、参考にすべき点が多いと感じました。特に最後の部分の「泥臭さ」や「バカであれ」といったことは、技術が進歩していく現代においては逆張り的な考え方だと思いますが、こういうことこそが人として大事になってくると思います。

生き方が純粋にカッコいい人でした。




ABOUTこの記事をかいた人

飯田 諒

筑波大学で休学2年目に突入 ベトナムをDJしながらバイクで2,500km縦断したり、バンコクで8ヶ月間インターンしたり 最近はスタートアップにどっぷりです。 英語が得意なので外国人インタビューなど積極的にしています! 英語翻訳の仕事もやっているので、何かあれば連絡ください。 ryoiida9507@gmail.com