シンガポールの有名大学を卒業後、普通に就職するのは絶対に自分には合わないと思い起業したKarl Makさんは、面白コンテンツを中心としたメディア事業で従来のメディア業界に革新を起こそうとしている。彼の経営するHepmil Media Groupと彼自身が考える「起業家とは何か」について伺った。
《Karl Mak | プロフィール》
Hepmil Media Groupの共同創業者CEO。Singapore Management University(SMU)を卒業後、コールセンター向けのサービスを開発するスタートアップを創業するも1年で撤退。その後Hepmil Media Groupを創業。香港発のギャグサイト9GAGのシンガポール版のSGAG、マレーシア版のMGAGを展開。Forbes 30 under 30 Asia 2017に選出。
目次
面白コンテンツを自社で量産し、分散型メディアを運営
ーHepmil Media Groupについて教えてください。
メディア運営を主に行っています。香港の9GAGをご存知ですか?特にFacebookでよく見かけると思うんですが、面白い画像や動画などのコンテンツをひたすらソーシャルメディアに投稿する分散型メディアです。
弊社は9GAGのシンガポール版であるSGAGとマレーシア版のMGAGを運営しています。
社員のほとんどがコンテンツクリエイターで、日々面白いコンテンツを作ってメディアに投稿しています。
ー9GAGとの違いはどのようなところですか?
「誰に向けたコンテンツか」というのと「誰がコンテンツを作っているのか」という違いです。
9GAGのコンテンツが主に英語がわかる人や誰もが面白いと思う国際的なジョークなどを投稿している一方で、SGAGやMGAGは徹底的に「ローカライズ」を意識しています。
「現地人ならわかる!」ようなネタを中心に制作しているんです。9GAGのターゲットが「全世界」で、SGAGやMGAGは「現地の人々」に向けて発信している、という違いです。
さらに、9GAGは基本的にユーザーの個人の投稿を集める「キュレーション」をしています。つまり彼らは自分たちではコンテンツを作っていません。一方で、私たちは自社でコンテンツクリエイターを雇ってオリジナルコンテンツを0から作っているんです。彼らが「Curation(キュレーション)」をしていて、私たちが「Creation(クリエーション)」をしている、といった感じですね。
クリエイターに自由に楽しくコンテンツを作って欲しい
ーコンテンツを全て自社で制作しているんですね!飽きてしまいそうですし、コスト的にも効率悪そうですが、いかがですか?
もちろん大丈夫ですし、これが楽しいんです。
私自身、こういう面白いことを考えるのが若い頃から好きでした。高校の時、クラスに17人女子がいたのに、男が5人しかいなかったんです。だから女子と仲良くするよりも、その5人組でいつも教室の後ろに固まってジョークを言い合ったり、お互いをからかいあったりしてたんです。こういう何気ない日常が本当に楽しくて。その5人組の中の1人に共同創業者がいます。
この会社を彼と創業してから、コンテンツは自分たちで楽しく作るというのを決めていて、それは今も変えていません。
また、自社制作をしているのには、コンテンツクリエイターが抱える悩みを解決したいという思いもあるんです。YouTuberやクリエイターなど、個人で活動している場合は自分で作れるコンテンツの数も限られますし、それがヒットするとも限らない。コンテンツクリエイターとして食べていくのはかなり難しいんです。特に企業で働きながら副業でそれをしようとするとなると相当難しくて、せっかく面白くて良いアイディアを持っている人がコンテンツクリエイターとして生きていくのを諦めてしまうというのを何度も見てきました。
しかし弊社はそのようなコンテンツクリエイターを雇用して、自由にコンテンツが制作できるエコシステムを作ることに成功しました。これによって彼らは好きなようにコンテンツを考えられ、かつ安定した収入やキャリアも得ることができるんです。
自社でコンテンツを作るのは、こういう想いがあるからです。
シンガポールの多様性を活かして東南アジアを制覇する
ーHepmil Media Groupの将来について教えてください!
まず国内市場での将来の目標は、伝統的なメディア産業を革新していくことです。
シンガポールのメディア業界は過去50-60年間、国営企業によって独占されていました。
テレビニュース、新聞、ラジオなどを提供する会社、全てが国営だったんです。今までは民間企業が入り込む余地がありませんでした。
しかし、ここにきて大きな変化が起きていて、チャンスが訪れています。それが「モバイル化」です。国民にスマホが普及して、プラットフォームがテレビや新聞やラジオなどからスマホに移行しています。それに伴い人々はソーシャルメディアでコンテンツを消費するようになってきています。にも関わらず伝統的な国営企業はその流れにあったコンテンツを正しく提供できていません。
一方で私たちは、現在人々がコンテンツを最も多く消費するソーシャルメディア上で、継続的にローカライズされたコンテンツを提供しています。順調に私たちのメディアのフォロワーも増えてきていますし、この調子で長年国営企業に独占されてきたメディア産業を革新し私たちが席巻できればと思っています。
次に、グローバルでの目標ですが、今後はしっかりと東南アジアに根をはって活動していきたいと考えています。東南アジア諸国は世界で最も急速に発展する地域の一つですが、進出するのが本当に難しいんです。東南アジア諸国は地理的に離れているのはもちろん、その地域内で使用される言語は数百、政治情勢も様々、ビジネス環境も全く違う、といったように、どこの国に挑戦するにしても他国展開するのは一筋縄でいきません。
しかし、シンガポールには東南アジアに進出し、他国展開するチャンスがあると思います。どの地域も飛行機で3時間以内のアクセス圏内であるのに加え、シンガポールは多言語・多文化・多宗教な様々なバックグラウンドを持った人々が共生しています。この特徴をフルに活用することができれば、東南アジアを他国横断することも可能なのではないかと考えています。
6億人を超える巨大なマーケットである東南アジアを攻略するのは、その圏外から来る国にとって相当難しいのはもちろん、圏内であってもシンガポール以外は無理なのではないかと思っています。だから、そこにHepmilは挑戦したいです。
ー確かに、シンガポールに来てみて多様性が豊かだと感じました。シンガポールの魅力について詳しくお聞かせください!
そうですね。やはりシンガポールの魅力は多様性です。そして、多様性がある他の諸国と違うのが、その多様性が上手に調和をとって共生しているという点です。
教会の隣に寺、その隣にモスクが並んでいてもそのことを巡って人々が物を投げ合い争うことはありません。お隣のマレーシアなんかはシンガポールほど調和がとれているようには見えません。
多民族が平和に共存していく土壌ができているのがシンガポールの魅力です。
さらに、それは会社内レベルでも言えて、弊社の強みにもなっています。
弊社にはマレー系、中国系、インド系、フィリピン系、日系など、様々なバックグラウンドを持つコンテンツクリエイターが集まっています。そしてこれはとても素晴らしいんです。多様性は一つの物事に対して様々な見方をもたらしますから。Hepmilが継続的に面白コンテンツを提供できているのも、弊社社員の多様性が貢献するところがとても大きいです。
他の人の意見は気にせず、自分のやりたいことを突き詰めたい。たどり着いたのが起業
ーもともと起業に興味があったんですか?
特に起業にこだわりがあったわけではありません。ただ、他の人がなんと言おうと自分の意志に従うということは相当大事にしてきました。小さい頃から、大人や世間や先生、また親のいうことさえも気にせず自分が正しいと思ったことをするような性格でした。だから、何千人もの従業員とともに同じようなスーツを着てオフィスで働くというような「一般的に正解とされる働き方」は自分の人生にはあまり合わないと考えていました。さらに、両親は香港からの移民で父親は起業家なので、他のシンガポール人の親と比べてもかなり自分になんでもやらせてくれるような家庭だったんです。小さい頃から、努力をすればなんだって達成できるというふうなマインドセットになるように教育されていました。
そういう背景もあり、自分がもともと他の人よりもエネルギーがあり、アイディアを生み出しそれを追求することが好きだったので、起業しようと思いました。
ー実際に起業して、ビジネスをする上でのマナーなど、大事にしていることはありますか?
私が正しいと思ったことを常に人生で選択してきたのと同じように、この会社でも、外部要因に惑わされずに、自分たちが正しいと思うことを選択しそれに向かって突き進むガッツを非常に大事にしています。
個人的にもう1つ、大事にしていることは、特にコミュニケーションにおいて「理解されるように話す」ということです。自分の起業家人生の中で素晴らしい起業家に多く会ってきたのですが、彼らと繋がりコミュニティに入っていくためには、自分のことをちゃんと理解される必要があります。自分の言いたいことを的確に伝え、それによって自分のポジショニング(立場)をはっきりさせることが大事です。また会社を経営していく上でも、資金調達、商談、採用などすべて、自分および会社がしっかりと理解されないとうまくいきません。たとえあなたが若くても、これは意識すべきことだと思います。
私も今はアメリカ英語をあなた(インタビュアー・飯田)に話していますが、これは「あえて」そう選択しているんです。最初にあなたとあった時に、アメリカ英語を話しているのを聞いて、「これはシングリッシュ(シンガポール英語)を話すよりもアメリカ英語を話すほうがちゃんと理解されるだろう」と思ったからです。このように、相手のバックグラウンドなどを理解してそれに合わせて適切な話し方をすることで、より理解されるようになります。
なぜ起業したいのか?が大事
ー若くして起業をしようとしている人たちに対して何かアドバイスはありますか?
Think Twice(よく考えろ)ですかね。あなたが「なぜ起業をしたいのか」というのをはっきりさせる必要があると思います。起業してからの人生、ほとんどが辛いことだらけですから、それに耐え抜く何か理由が必要だと思います。もしあなたが、金持ちになって裕福な生活をみんなに見せびらかしたいという理由で起業をしようとしているんなら、考え直したほうがいいかと思います。
お金持ちになりたいんなら金融業界でトレーダーとかをしたほうが割りがいいですから。
自分は「自分が誰かに指示されることなく自分の好きなことをできる自由」そして「自分の運命は全て自分の手にかかっている」というのが好きでたまらないので、たまに起きるとても辛い出来事なども含めて起業家という選択をとても楽しんでいます。
もしお金を超えた何かが理由であるなら、起業家よりも良いキャリアはないと思います。頑張ってください。
ー個人的な目標は何かありますか?
特に具体的にはありませんが、とにかく会社を成長させていくこと、そしてそれと一緒に自分も大きく成長していくことです。
もっと上手に組織をマネジメントしたいし、社員とコミュニケーションも取りたい。素晴らしいリーダーにもなりたい。私生活では良い夫になりたいし、良き父にもなりたい。とにかく自分のいろんな面を成長させていきたいですね。
編集後記
彼の英語があまりにも流暢なアメリカ英語だったのですが、これは私がアメリカ英語を意識して話しているのに気を遣ってわざとそのように話しているというのを聞き、ビックリしました。「他の人がなんと言おうと自分がやりたいことをする」という強い信念がありながらも、ビジネスを進めていく上では自分の考えを徹底的に理解してもらえるように意識しているというところに彼の柔軟さと賢さが見えました。
シンガポールにいるということを活かして東南アジアを制覇しようとしている話も共感できました。多様性の豊かなシンガポールだからこそ、柔軟に東南アジア諸国の文化に対応してビジネスを拡大していくチャンスがありそうです。