「旅で世界に友達を」ー 今春、世界中の旅行者が現地の人々と交流しローカルな体験ができるマッチングサイト「Travee(トラヴィ)」を立ち上げた池田賢一氏。学生の頃から思い描いていたアイディアを形にし、サイバーエージェントベンチャーズとウィルグループインキュベートファンドからの資金調達も決まった。これからどのようにTraveeが新しい「旅」の目的を提案していくのか、池田さんに取材した。
《プロフィール|池田賢一氏》
立教大学観光学部'13卒。NPO法人ASEAN相互支援協会理事。高校2年次に初海外「韓国」で感じた「個と個の繋がりに国境はない」という想いをモットーに、「世界大"交流"時代」を築き上げるべくTraveeを立ち上げる。
目次
よりローカルでコアな体験を−新しい旅のかたち
−「Travee」のサービス内容を詳しく教えてください。
Traveeは、「旅先では現地の人と交流」 という旅の楽しみ方を誰でも可能にすることを目的としたサービスで、個人旅行者に現地の人がローカルな体験を提供する旅のマッチングサイトです。
現地の人(ホスト)が独自に旅行プランや値段を決めてサイトに掲載し、旅行者から申し込みがあれば当日も実際に付き添います。「現地の人との交流」にフォーカスしており、旅行者は現地の人々に直接案内してもらい、ガイドブックには載っていないようなローカルでコアな体験ができます。
また、ホストはプランが実行されると収入が得られ、外国人と交流する機会ができたり、学習中の言語のアウトプットができたりというメリットがあります。現在のベータ版ではタイの旅行プランのみを扱っていますが、バンコクだけですでに100個近くのプランがあり、インストラクターによるムエタイ体験や現地キャンパスツアーなど内容も様々です。これから東南アジアを中心にプランのある地域を広げていく予定です。
旅行者の中にも、単なる観光ではなく「その国のローカルな部分に触れたい、現地の人と交流してみたい」というニーズは多いです。一方で、現地の人々の中にも「外国の人と交流したい、外国語を練習する機会が欲しい」というニーズも高い。しかし、お互いに安全かどうか、言葉は通じるのかなどといったことは、アナログ、すなわち街の中ではわかりえないため、それらのニーズがマッチしていないのが現状です。アナログで確認できない部分をオンラインで出来るようにし、心理的なハードルを下げるというのがこのサービスが果たす機能です。
実際に、飛行機とホテルのみのパッケージを選択する人や、ホテルではなく現地の家に泊まりたいと思う人が多くなってきており、よりローカルな体験を求める人が増えています。普通の観光地はメディアを通して消費できてしまっているんですよね。僕自身もホストとしてフランス人を家に迎えたとき、カラオケなど日本の若者が普段行くようなところに連れて行ってあげたらとても楽しそうだったんですよ。個人旅行者の増加と共に、ローカルでコアな経験へのニーズが高まっており、こういった体験は普通の旅行代理店が提供できるパッケージではないと思っています。Traveeは現地の人と一緒だからこそ楽しい時間を提供することで、旅の思い出を最大化します。
−なぜ「Travee」という名前にしたのですか?
第一に、聞いた瞬間にどんなジャンルのサービスかわかるようにしたかったので"travel"という言葉をもじりました。それに「Travee」って音が短くて、可愛くてかっこいいじゃないですか。シュッとしてます。言うと口角が上がって笑顔になるし!このサービスのキャッチコピーである”Travel with local smiles” にも合っていると思いました。
—なぜ東南アジアなのでしょうか?
第一に個人的に好きだからです。大学生の時から東南アジアを旅して、日本とは全く異なるあの雰囲気にずっと魅了されています。また、東南アジアの友人も多いのでサービスを展開していきやすいと感じました。好きじゃなきゃ楽しめません。
第二に、マッチングのモデルで重要な「安全なイメージ」の確立が早くできると考えたからです。ユーザーが何を見てこのサービスを「使って大丈夫なのか」と判断するかは、やはりマッチング数、盛り上がり具合なんですよね。東南アジアは、全体で年間1億2000万人もの旅行者が訪れており、これからも市場は伸び続けます。母数が多いのでおのずとマッチング数も増える→ユーザーはマッチング数やレビュー数を確認し利用する→SNSへの投稿も増える→マッチング数が増える。このサイクルが最も適するのが東南アジアだと思ったんです。
—なるほど。このサービスにはもう一つ大きな意義があるとお伺いしました。
はい。Traveeにあるプランは多くが30ドル前後くらいで楽しめるものばかりです。なぜこの価格が可能なのかというと、東南アジアの人々の時給って現地の物価と比べてもとても低いんですよ。バンコクのセブンイレブン店員の時給は1ドル未満だったりします。物価は日本の約3分の1程度と言われているのに、時給は日本の10分の1以下。こうした人々がプランを作っているので、先進国から来る旅行者からすれば安いと思えるプラン価格になるんです。
それでも現地ホストからすると、このサービスを使って得る収入は非常に大きい。先進国のお金が旅行者を通して発展途上国の若者にそのまま流れるシステムです。大手旅行代理店のパッケージで有名な観光地やレストランばかりに旅行者が集まると、お金が集まる場所も限られていきます。そうではなく、現地の人やローカルの人しか行かないようなお店にそのままお金が落ちていくシステムを作り、発展途上国にいる彼らがある種経済格差を活かして旅行者から収入を得られる。こうした形で賃金の低さを克服する役割も担っており、社会的意義のあるサービスだと信じています。
現地の人々と交流する楽しさ
−このサービスを始めるに至った経緯を教えてください。
サービスのアイデア自体は昨年の春頃から練っていましたが、旅行関係のことをしたいと思ったのは高校生の頃なんです。高校生のとき、韓国で現地の高校生と交流する外務省のプロジェクトに参加しました。参加する前は、反韓を煽るメディアの影響で少し韓国に対して偏見を持っていましたが、実際に行って、現地の人々に会ってみると、彼らの人柄の良さに感動し、意気投合しました。訪れる前の偏見と実際のギャップの大きさが、この体験をこんなにも鮮明にさせたんだと思います。
そのとき、実際に海外に出て現地の人々と交流することの大切さ、個と個の繋がりに国境はないことを実感しました。韓国の若者がよく行く食事処などに連れて行ってもらい、彼らや自分たちの日常について語り合ったことが、些細なことなんですけど刺激的でした。一緒に行った多くの仲間にとっては、その時の経験は”良い思い出”なのかもしれませんが、ぼくにとっては将来に大きな影響を与える体験でしたね。
そして2009年、日本が観光立国宣言をした翌年に観光学部に入学しました。学部が学部なだけに周りは旅好きの人間ばかりで、皆の話を聞くうちに自分も旅に繰り出すようになりました。初東南アジアとしてタイに行ったのですが、ハマりましたね。何回も行きました。そのときから東南アジアにどんどん惹かれていったんです。
−東南アジアにハマる理由って何だと思いますか?
やっぱり、東南アジアは時間の流れの感覚が東京と全然違うからじゃないですかね。
ラオスに行ったとき、首都ビエンチャンでメコン川を挟んで向こうにみえるタイを見つめていたんですよ。そしたらおっちゃんが話しかけてきました。「あれはタイだよ」「そうだね」という感じで何気ない会話をしばらく交わして、話が途切れました。そして30分くらい沈黙の中、ぼーっと一緒に夕日を眺める時間があったんですよ。そのとき、東京では感じられない特別な時間の流れを感じました。うまく表現できません。
日本の若い人たちは、静かな時間、無になる時間を求める習慣があまりないですよね。でも、例えばタイの友達とかだと、LINEチャット中でもいきなり「ちょっと寺に行ってくる!」といって祈りに行くなど、日常的に心を穏やかにする時間を持っているんですよね。古くから続く伝統のような感じでどこか暖かいです。宗教的な文化の影響があるのでしょうが、こうした感覚の違いが魅力の1つかもしれません。
また、いい意味でも悪い意味でも彼らはテキトーです。日本があらゆることに関して時間通りにきっちりやる風潮があるので、全く逆の東南アジアの雰囲気に何か惹かれるのかもしれませんね。ぼくの時間感覚は彼らと似ています。
熱い思いを持って、正しい道のりで正しいことをやる
—そして学生生活を送るなかで起業という選択肢を選ばれたんですよね。そのきっかけは何でしょう?
起業を考えたきっかけとしては、大学2~3年のときにあるビジコンに出てみたんです。それがすごく面白くて、それからたくさん出るようになりました。そういう場で出会う人たちを見ていたら、自分にもできるのではないかと思ったんです。世界では自分と同じ年くらいの人たちが大きく活躍する時代。自分も自分で作ったハコで何か価値あるものを生み出したいと考えるようになりました。
そして昨年2つのインキュベーションオフィスに入り、高校生の頃に感じた「現地の人々との交流の面白さ」と「旅」を掛け合わせたサービス案を練りはじめました。
また、そこで現在一緒にやっているパートナーと出会います。仲間探しでは、無理に説得したり口説いたりするのは後々のことを考えると適切な判断ではないと考えていて、ぼくのやりたいことに本当に興味を持っている人とのコミュニケーションに時間を投資すべきだと思っていました。
今のパートナーはぼくと同じことを考えていて、お互い心から一緒にやりたいと思えたんです。彼は、それまで勤めていた会社をすぐにやめて一緒にやりたいと言ってくれました。今思うとその覚悟は凄いことだと思いますね。どこか恥ずかしくてありがとうとは言えませんが。そして今年の4/21 、「世に良い日」に会社を設立し、先日サイバーエージェントベンチャーズとウィルグループインキュベートファンドの2社から資金提供をしていただけることになったんです。
CEOの池田さん(中央右)、CPOの石井穣さん(中央左)とCAV、ウィルグループの方々
−資金調達で苦労されたことは何ですか?
今思い返すと、資金調達に関してはそれほど苦労していないかもしれません。7社中4社から嬉しい返事をいただけました。ぼくたちの思いやサービスの未来に共感してもらえたと実感できて嬉しかったですね。
また、こういったサービスだと1年目2年目と赤字が続いてもおかしくはなく、資金が底をついて会社を売却してしまう例も見てきたため、資金調達の重要さを十分認識していました。特に、最初の株主は今後の調達のために重要なので慎重に選びました。いかに資金調達を成功させるかで今後の展開が大きく変わってくるので、そういった意味でも気が引き締まりましたね。
−なるほど。資金調達のこと以外で苦労されたことはありましたか?
辛かったことは腐るほどあります。最初に一緒にやろうとしていた友人に裏切られたりなど。
でも、喜んでくれるタイやラオスの友人らの笑顔を思い浮かべると、何があっても乗り越えられました。明確なビジョンのもと、正しい道のりで正しいことをやれば必ず成功すると信じてやってきた結果、まずこのスタート地点まで来られたのだと思います。
東南アジアでシェア1位を目指す
−これからTraveeを盛り上げていくためにどのようなことを考えていますか?
人が旅行をしたいと思えるモチベーションには、知人・友人の体験談が一番効果的です。知っている人の話を聞くと、その旅がよりリアルに身近に感じられますよね。体験談をテキストや画像でSNS上で流れるようにして、Travee利用者からその周囲の人に伝播する動線を作っていく予定です。
また、このサービスのターゲットは欧米から東南アジアへの個人旅行者です。特に最初はイギリス人・オーストラリア人に焦点を当てていく予定です。日本人に限定すると英語の壁があるし、何より日本と欧米で東南アジアへの旅行者数とその滞在期間の違いが非常に大きい。現在、欧米や中国、オーストラリアからの東南アジアへの旅行者の数が劇的に伸びているんです。また、日本人は平均的に4.5日間程度の滞在であるのに対して、欧米人の平均滞在期間は約18日間で、1回の旅行で4~6カ国周るというデータも出ています。だから、行く地域ごとにTraveeをリピートしてもらえるようにサービスのシステム、ホスト管理、プランの質ともに高めていきます。
Traveeの他にも、個人旅行者向けにアクティビティ紹介サービスを展開する似たような企業はあります。
しかし彼らの多くは欧米を中心としており、東南アジアにはまだビックプレイヤーがいないので、Traveeがシェア1位を取ります。このサービスに対する思いや株主を含めたチーム力、ユーザーインターフェースなどの細かい部分も常に改善していく姿勢、個人的な東南アジアとのネットワークなどを武器に、競合他社と差をつける自信はあります。僕は負けず嫌いです。
−池田さんが思い描く1年後のTraveeの姿とは?
1年で1万件のマッチングを目指したいです。1日に1カ国5件×6カ国で1日30件。大きな数だとは思いますけど、正しい人を仲間にし、正しく時間とお金を投資できればやれると思っています。
ASEAN関係者と話す中でたくさん良い提案も頂けるので、今自分が思い描いている、地域ごとにスケールしていく方法とは異なるステップになるかもしれませんが、「東南アジア」というのは絶対にブレないですね。東南アジアでNo.1になるのはマストで、その後に日中韓とその他の地域に展開していきます。
そのアイデアは日本でなければいけないのか?
−池田さんの根底を流れる信念とは?
先ほども言いましたが、正しい道のりで正しい仲間を巻き込んで正しいことをやることですね。
基本的には全てが判断の連続です。1つ誤ると成功への道が絶たれるかもしれません。何が正しいか、間違っているかはやってみないとわかりませんが、時間という不可視かつ制限のある資源を有効に活用するために、常に「正しい判断」をしようと心がけています。明確な理由を持って判断をすることが重要だと思っています。
−「卒業後に海外を舞台に起業する」という選択肢を取られた池田さんからアセナビ読者へのメッセージをお願いします。
日本人や日本法人向けのビジネスで起業する人がまだ比較的多いと思いますが、「なぜ日本にこだわるのか?」ということを徹底的に突き詰めたうえで起業すべきだと感じます。
例えば、拡大する訪日インバウンドに関連したサービスをやるために日本で起業するにしても、インバウンドが増えている国は他にもたくさんあり、むしろ日本より伸びている国もあります。「そこにも焦点を当てなくていいの?」という話です。メッセージというよりも、「そのアイデアは日本でなくちゃいけないの?」って質問したいです。よく英語など言語の壁を心配する人がいますが、本当に心配しなくちゃいけないのは選んでいる市場が日本で正しいかどうかだと思います。そこで時間を無駄にしてはいけないと思います。
自分のモットーは、自分に嘘をつかないこと。やりたいことをやる、ただそれだけです。時間は限られているため、やりたいことには投資しなきゃと思います。
《編集後記》
高校生の頃から感じていた思いのもと、明確なビジョンをもって取り組んでいらっしゃる池田さん。今回のインタビューで彼が語る姿勢からは、このサービスを旅行者にも現地の人にも意義があるものにしたいという熱い思いが伝わってきた。Traveeが世界中の旅をどのようにより面白くしていくのか、注目したい。
現在Traveeではインターン募集中とのことです。興味のある方はこちらを参照してください。
(インタビュアー:鈴木佑豪 文:新多可奈子)
取材日時・2015 5/31