『コロナ時代のグローバリゼーション特集』第5弾は、”NPO法人日越ともいき支援会”。コロナ禍で窮地に立つ在日ベトナム人の支援に奮闘する同団体の代表理事の吉水慈豊さん、さらに当団体の活動拠点である日新窟に滞在する留学生と技能実習生の方々にお話を伺いました。
《プロフィール|吉水慈豊(よしみず じほう)氏》
浄土宗の寺院「日新窟」の僧侶であり、NPO法人日越ともいき支援会の代表理事を務める。ベトナム人技能実習生や留学生の就労支援、物資の支援、保護活動を行う。また顧問である神戸大学大学院の斉藤善久准教授とともに、政府に対して制度の変更を求める働きかけや、在留ベトナム人が抱える深刻な現状について社会一般に対し発信を行う。
注:この記事は2020年7月19日に行われたインタビューをもとにしています。制度や在留ベトナム人の状況は当時と変化しています。
目次
困窮するベトナム人を取り巻く環境は限界を迎えている
食糧支援物資準備の様子
― コロナ禍での在日ベトナム人を取り巻く状況と、日越ともいき支援会の活動について教えて下さい。
このコロナ禍で職を失ったり、なかには家まで失ってしまったりした在日ベトナム人が大勢おり、毎日助けを求める声が我々の元に届いています。そういう方々に対し、私たちは物資の配給や、住居を失った人の保護、また労使問題の解決といった支援を行っています。
在日ベトナム人には大きく分けて技能実習生、留学生、技人国がいます(注1)。今年2月頃から日本では留学生のバイト切りが始まりました。続いて、技能実習生、そして技人国の雇い止めが起こり始めました。その状況下で、ロックダウンが既に始まっていたベトナムへ飛行機が飛ばなくなってしまいました(注2)。
職、家、帰る手段を失った技能実習生や技人国のベトナム人が失踪してしまうケースが非常に増えたんです。失踪後に入国管理局に出頭すると「仮放免」という扱いになり仕事に就けなくなります。そして家もないので、友人の家を当てにするか野宿するしかありません。現在、日越ともいき支援会では、そうした頼る当てがなく、経済的にも生活が困難なベトナム人を保護しています。
現在、支援の中でもとくに技人国ビザと実習生の人たちの就職支援に重点的に取り組んでいます。コロナの影響で、彼らの多くが派遣切りにあっています。家のない人に我慢の限界がきている状況も見受けられ、自ら保護してほしいと訪ねて来る人もいる状況ですね。
注1:技能実習生と留学生、技術・人文知識・国際業務ビザを持つ人(以下、技人国)の違い
所持しているビザの種類が異なる。・技能実習生:就労ビザの一種。本来は技術移転による国際協力を目的として日本での就労を許可するもの。しかし実際は多くの労働問題が存在する。
・留学生:学生ビザを所持し、大学や日本語学校に通う。アルバイトが可能。
・技人国:就労ビザの一種。エンジニアや事務職など一定の学歴や職歴を持ついわゆるホワイトカラーの人々。
注2:6月3日ベトナム帰国者用の飛行機が運航されました。だからといって全ての希望者が帰国できたわけではなく、未だに多くのベトナム人が帰国の手はずが整うのを待っている状況です。
― 困難な状況に置かれたベトナム人を保護しているとのことですが、人数的な限界がありますよね。
はい。特にこのコロナ禍では感染症対策のため多くの人を受け入れられません。東日本大震災発生時には86名の在日ベトナム人を受け入れましたが、今回は人数をさらに絞っています(注3)。。
解雇され住居も失ってしまった人や、仮放免中で働けない人など、最も困難な状況にある人々を除き、多くの人には基本的に物資支援のみを行い、彼らの知人宅に泊めてもらうようお願いしています。心苦しい話ですが...。彼らが出来るだけ早く帰国できるよう、大使館に掛け合ったりもしています。
注3:9月1日時点で保護している人数は20名を超え、今後も増えることが予想される。ベトナム人から助けを求める電話がほぼ毎日かかってくる状況であるという。
コロナの影響で解雇された実習生と新たな就職先へ面接に臨む様子
ベトナムと日本の架け橋、その原点とは
― そもそも、なぜ浄土宗のお寺である日新窟がベトナム人を支援しているのですか?
私と同じく日新窟の僧侶であった私の父が、50年ほど前からベトナム人僧侶との関係を築き始めました。きっかけは、ベトナム戦争時に現地で困っている人々を目にしたことだそうです。日新窟として、日本で仏教の勉強をしたいベトナム人僧侶に対し、日本語学校への学費の支援、住居の提供など様々な支援を行っていました。そのため私は幼少期から身近にベトナム人僧侶がいる環境で育ちました。
その後、東日本大震災の時に、被災した在留ベトナム人を日新窟で保護したこともあり、僧侶だけでなく在留ベトナム人に支援の輪を広げるようになりました。
日新窟前住職の吉水大智師(左から2番目)ベトナム訪問
さらに、NPOを立ち上げたきっかけは、4、5年前から、様々な理由で日本で亡くなったベトナム人の葬儀や、ベトナムにいる遺族への遺骨の受け渡しといった支援活動を行うようになったことでした。
その時驚いたのは、日本で亡くなる若いベトナム人の数があまりに多いこと。活動を始めてからたった3年で、日新窟のお堂に150以上もの位牌が並んでしまったのです。
事故や病気で亡くなる人ばかりではありません。来日した20、30代のベトナム人が労働環境に耐えられず失踪して生活できなくなったり、自殺によって命を落とす人がとても多いのです。外国人が命を落とさねばならぬほど、社会・経済的に苦しい状況に置かれているということ。この事実を、日本社会が抱える深刻な問題として発信していかなければならない、という強い思いに私は駆られました。
僧侶として、そうした活動を積極的に行って良いものか迷う点もありましたが、NPO法人日越ともいき支援会設立に踏み切りました。また、ベトナム人を支える立場として、情報発信もしています。
ちなみに、日越ともいき支援会の名前は、「共生」が由来です。「共生」を、ベトナム人も読めるひらがなで「ともいき」と表記しました。
ベトナムにて亡くなった元留学生の母とお墓参りをする吉水氏
― 日越ともいき支援会の活動は、吉水さんご家族が取り組んできた日新窟での支援の延長線上にあるのですね。
はい。軸となる活動は、日新窟での支援と変わっていません。多くのメディアが私たちの活動に注目してくださり、助成団体が増えたこともあって「日越ともいき支援会」としてNPO法人化しました。
私たちは、現場からの声を発信していくことで、多くの若い在留ベトナム人が亡くなっている問題を、より多くの日本人に知ってもらいたいと思っています。少子高齢化による労働人口の減少はますます深刻化し、将来の日本の労働市場や産業は外国人人材なくして成立しないでしょう。異なるバックグラウンドを有するそのような人々と共生していくためには、「日本人と在留外国人の間でどんな問題が起こっているか」を、そして「何が重要になるか」を、把握する力を私たちが身につけていくことが必要だと思います。
― 日越ともいき支援会は行政に対しても、現場の目線からの意見を届けているそうですね。在留外国人に対する制度改定への行政の対応について吉水さんはどうお考えですか?
一つには、行政に関しては対応がとても遅いと感じています。現場から積極的に声を上げなければ基本的に行政組織は問題に対応してくれません。
また、これは仕方のないことですが、不法滞在や仮放免等、問題を抱える在留ベトナム人が置かれた立場は様々なため、行政の政策だけでは全てをカバーするのは難しいです。そうした政策で救えきれていない人たちを、私たちが支援するよう心掛けています。
その一方で、現場の声をしっかりと受けとめてもらえているという認識はありますよ!行政側も現場の声をしっかり聞いた上で、外国人に対する行政サービスについて考えてくださっているように感じています。
政府交渉に参加する当会顧問・斉藤氏と元技能実習生
「ともいき」に込められた、共生社会への思い
― 今後の目標はありますか?
昔も今もこれからも、日越ともいき支援会がやることは基本的に変わりません。目の前で困っている人がいれば、助けます。
私自身もベトナムと日本の架け橋になるべく、これからも法人を通じた活動に努めていきます。私は活動家というよりは、あくまで一個人として、僧侶としてできることをやっています。相手が住むところがないと訴えられれば、泊まっていきなさいと言い、食べる物がないと訴えられれば、食べていきなさいと言います。また、お金がないと言われれば、交通費などをできる範囲で工面します。やっていることは至ってシンプルです。
― 今後の情報発信について考えていることはありますか?
技能実習生や留学生に対する支援制度はまだまだ不十分です。日越ともいき支援会は、困難な状況に置かれる在日ベトナム人に寄り添う立場から、現場の声や問題を届けることを通じ、行政や企業の制度改善をさらに促したいです。
また、個々の企業に対しても、制度の改善を通じベトナム人の労働環境を改善できると考えた場合は、その理由も含め企業側へ直接意見を伝えることもあります。
在留ベトナム人自らが、企業や行政に対してSOSを出すのは、言語障壁や労働上の立場の違い等によって、往々にして困難です。そのため問題があっても、それが明るみになりにくいのです。。そういう意味でも、私たち日越ともいき支援会が、今後も在留ベトナム人の方々に代わって声を上げ、情報発信し続けることの重要性を感じています。
左から斉藤氏、梅田邦夫前駐ベトナム日本国大使、吉水氏。前大使に支援活動の報告を行った。
在留ベトナム人の今
吉水さんへのインタビュー時に、日越ともいき支援会にて日本語を勉強していた2名の技能実習生と1名の留学生にもお話を伺えました。
フン(A)さん:来日して約1年の技能実習生。プラスチック加工業の技能実習生から介護師としての就労転換を目指している。
アン(B)さん:来日して約1年。技能実習生であったが、コロナ禍で会社に解雇され、現在就職活動を行っている。
ソンさん(C):来日して6年目の留学生。都内の大学で中国語を専攻する。
― 皆さんの近況を聞かせてください。
フンさん:来日当初は寂しく、また最初の仕事はとても大変でした。でも、今やっている分野は少しずつ好きになっていて、日本での生活にも慣れてきています。
アンさん:日本での生活に苦戦しています。ベトナムと日本の文化の違いに戸惑うことが多いからです。
ソンさん:留学生は実習生よりも待遇が良いため、私の生活は実習生の2人よりも落ち着いていると思います。技能実習生は、例えば上司とうまくいかないときにいじめられたり、給料がきちんと支払われなかったりすることもあります。コロナ禍でフンさんもアンさんも一時的に仕事を失ってしまいました。
コロナ解雇に遭った技人国の再就職支援の様子
―皆さんの夢は何ですか。
フンさん:定住ビザを取って病院で勉強したいです。
ソンさん:ベトナムと日本の架け橋になりたいです。私は中国語専攻なので、中国語の知識も活かしたいと考えています。
アンさん:経営者になりたいです。
ありがとうございました。皆さんと本当の意味で「共生」できる社会の実現を目指し、私たちも学生メディアとしてお力添えできればと思います。
共に生きるために、社会の構成員としてできること
コロナ禍の特例措置・雇用維持支援を使って再就職を試みる人々
― 日本の学生や若者に期待することを教えてください。
日本人学生の皆さんには問題に気が付く力を養い、それをテーマ化し、より良い日本社会の構築に向けて役立てて行ってほしいです。そうすれば、将来にもしあなたたちが外国人を雇用する立場になったとしても、きっと適切な対処ができることでしょう。
例えば、皆さんはベトナム人留学生がどのような経緯で日本に来ているのかを考えたことがありますか?居酒屋や深夜のコンビニで懸命に働く彼らを見て、なぜ彼らがそうした形での労働を強いられているのかを考えたことがありますか?
実は、多くのベトナム人留学生が来日するために借金をしています。その借金を返すために、彼らは生活費を切り詰めつつ、勉強の傍で高時給な深夜アルバイトなどをしてお金を稼いでいます。しかし一方で、彼らは週に28時間という日本人学生よりも厳しい労働時間の制約をかけられています。中には、その制限時間をオーバーしてしまい、法律に違反したとして働けなくなってしまった人も。
コロナ禍で彼らの生活状況はさらに厳しくなっています。ベトナムでは2月からロックダウンが始まり、経済が停滞していたので、本来留学生らを支援してくれるはずの家族も経済的に厳しい状況に置かれているからです。
このような苦境にあるにも関わらず、経済的状況を考慮した支援制度ではなく好成績をとることを条件とした制度が留学生に対して敷かれているのは、おかしいとは思いませんか。おかしいということに気付く事が大事です。彼らがどのような気持ちで日本で暮らしているか、が分からなければ共生は実現しません。
― 最後にメッセージをお願いします。
今回「コロナ時代のグローバリゼーション」についてお話しましたが、「グローバル社会」が何を意味し、そうした社会がどうあるべきかを考えるのは、時代とともに変わっていくと思います。現時点での「グローバル社会」において自分たちに何ができるかを模索していくことが、この社会に生きる我々に与えられた使命です。
私は日越ともいき支援会として、目の前にいる困窮した人たちに手を差し伸べる形で社会を支えていくのが良いと考えています。
では、コロナ禍で多くの人が困難な状況に置かれている中、1人の人間として、あなたにできることは何ですか。この機会に、あなたにできることを模索してみてはいかがでしょうか。
\ ボランティア募集! /
日越ともいき支援会はボランティアで活動したい人を歓迎しています。興味のある方は日越ともいき支援へ直接ご連絡ください。活動内容は、日本語学習の補助、買い物の補助などです。連絡先は当団体のホームページ、Facebook及びTwitterよりご参照ください。
日越ともいき支援会についてもっと知りたい方
吉水氏を取材した動画がこちら。
出典:Asian Boss
当会にて保護していたベトナム人の帰国が実現する。成田空港で見送り。
編集後記
今年4月より現在に至るまで、在留ベトナム人の現状に関するニュースは各種メディアで取り上げられましたが、今もまだ苦しんでいる人々が多くいます。私たちが生きる社会で命を落としかけている人々がいます。
彼らは今、どのような状況にいるのだろうか?と関心を向けてみてください。もし、少しでも興味を持ったら、ぜひ日越ともいき支援会のホームページをご覧下さい。苦境にたたずむ人々と、彼らの救済に奔走する人々の生の声を知ることができます。そして「自分には何ができるだろうか?」という問いを追求してください。いつの日か、本当の意味での「共生社会」が実現できるように。