一人ひとりがその国の代表。世界の未来を背負い、共に暮らす日本と東南アジアの若者たち【ASEAN HOUSE 佐々翔太郎氏】

コロナ時代のグローバリゼーション特集』第1弾は、日本人と東南アジア人が一緒に暮らすシェアハウス・ASEAN HOUSE。

生活の基盤である“家”を通じて、訪日した東南アジア人の暮らしをサポートしながら、国を超えて若者たちが交流できる場所となっています。コロナ禍でも途切れることのない若者たちの繋がり。ASEAN HOUSE設立に懸けた想いや、世界の未来へ向けた挑戦について伺いました。


《プロフィール|佐々翔太郎氏》

ASEAN HOUSE設立人。Live the Dream Co., Ltd. 創設者/元代表。株式会社リクルート。
大学在学時、NPO法人e-Educationのインターンとしてミャンマーに派遣され、現地の若者と共に起業。帰国後は株式会社リクルートに勤めながら、東南アジアの課題解決に向けた事業を並行して行う。
ミャンマーでの起業に関する佐々氏の過去のインタビューはこちら

*ASEAN HOUSEとは

2019年11月にオープンした日本人と東南アジア人のためのシェアハウス。
日本にやって来た東南アジア人と、東南アジアに関わったことのある日本人が、国籍・年齢・性別の垣根を超えて共同生活を送り、それぞれの夢を追い求める。住人以外を招いてイベントを開催したり、地域の季節行事に参加したりしながら、東南アジアに関する面白いコト・ヒトが集まるHUBを目指す。(公式HP:ASEAN HOUSE

東南アジアで見つけた新しい自分と、日本人としてのアイデンティティ

- 佐々さんと東南アジアの関わりを教えてください。

ずっと東南アジア漬けの学生生活でしたね。

もともと自分は根暗で、挫折ばかりの人生。いつも下を向いて生きていました。でも初めて行ったフィリピンで、そんな自分と正反対に明るく生きる人々に出会い、「もっと人生明るく生きなきゃいけないなぁ!」と感じたんです。いわば人生最初の一歩を踏み出させてくれたのがフィリピンでした。

その後、世界の国々を回っていて出会ったミャンマーという国では、起業もさせてもらったし、1つの成功体験みたいなものを作らせてもらって、人生で初めて自信を付けられたと思っています。

だから僕の中で、東南アジアが一生懸けてのテーマになりそうだなとはずっと感じていましたね。


- 東南アジア愛が溢れてますね~。

その一方で、外国にずっと身を置いていたので「日本って良い国だな」という再認識もありました。外国に居るとみんなそうだと思うのですが、自分の国と今居る国を比べますよね。そうすると日本人としてのアイデンティティとか、日本に貢献したいという気持ちも湧き上がってきたんです。

だから東南アジアに貢献しつつ、日本にとってもwin-winな状況を作れるような事業を作りたいと、大学4年の最後の頃には思うようになっていましたね。

 

訪れた外国人を、笑顔で帰せる日本でありたい


そうなった時にやはり気になったのが、日本で働く外国人でした。

ミャンマーで知り合った友達で、「これから日本に行くぞ」って目を輝かせてた子がいたんです。でも、いざ日本で会ってみるとすごくつまらなそうにしていて…。よくよく聞いてみると、仕事で時間外労働をさせられたり、差別的な発言を受けたりしている、日頃接するのは嫌いな上司と職場の人、あとはミャンマー出身の友達だけだと言う。

「それは本当なのか!」とショックを受けましたね。たぶん、彼はもうそれで日本のことを嫌いになってしまった。ミャンマーの故郷に帰って、すごく小さな、何か言ったらすぐ広まるような小さな村で、「日本は良くない国だ」って言いふらすんですよね、きっと…。

これは日本にとって完全にマイナスだと思うんです。

もしそこで、そのミャンマー人にとって日本という国が素晴らしい国だと思えていたら?
故郷に帰ってからも「日本良かったよ!行くべきだよ!」って伝えるだろうし、そこから日本に留学する人、働きに出る人、旅行する人がもっと増えるはず。そうやって日本好きな人が増えて、その中から将来的にミャンマーを背負って立つ人が出てきたら、日本とミャンマーを繋ぐ人になってくれると思うんです。

東南アジア人が労働のために日本に来ているのだとしても、その間にせめて良い思い出を作って帰っていける日本であってほしい。ここに課題を感じていました。

自分の国に帰るASEAN HOUSE卒業生と、見送りに来た仲間たち。

一緒に住むという解決策・ASEAN HOUSE誕生

ー そこからどうしてシェアハウスという発想に至ったのですか?

働く環境が一番の問題なのですが、働く環境や仕事に充実感がないというのは日本人側も悪いし、東南アジア人側にもきっと何かしらできることがあったと思います。

ただそこにアプローチするのは、会社で働いている今の僕の状況的に、外国人の労働というところに踏み込んでいくのは難しいです。ミャンマーにいた時に人材紹介とかもちょっとやっていたのですが、働くことそのものはそうそう変わらない。

外国人が日本で暮らす上で、たしかに働くっていうのは8割ぐらいを占めています。
けどあとの2割を考えると、土日とか仕事以外の時間がある訳で、そのプライベートの時間でちょっとでも楽しいなって思えれば、たとえ仕事が過酷な環境でも少しはイメージが変わるんじゃないかと思ったんです。

そのプライベートの時間のほぼ9割くらいを家=住む場所が占めるはず。

一緒に住むということは、僕も働きながら時間を割ける部分なので、そこにアプローチしようかな、と思ったのがASEANHOUSEのきっかけでしたね。

一緒に住んでいれば無理なく時間を共有できる。


ーなるほど。働きに来た東南アジア人の、「働く」以外の時間に注目したんですね!

住む場所に意識が向いた理由がもう一つあります。

実は僕、ミャンマーで現地の青年とシェアハウスをしていたんです。
それまでミャンマー人に対して、遅刻はするわ、言い訳はするわ、嘘はつくわで、一緒に働いていてあまり良いイメージは持てなかったんですけど…。(笑)

でも彼と一緒に住んで、恋愛の話から人生のこと、お互いの夢まで深く話をするようになって、彼のことをよく知ることができました。彼は、僕が初めて深く関わったミャンマー人で、僕の中で彼自身が“ミャンマー”だったんです。彼を通して「ミャンマー人面白いな!ミャンマーっていい国だな!」と思うようになっていた。僕にとって彼はミャンマー代表だったんです。

じゃあ、僕はいま日本にいるわけですから、外国人と一緒に住むことによって日本の彼みたいな存在になればいい。僕が、ASEAN HOUSEに住む日本人が、「あー日本人、良い人かもなぁ、楽しいなぁ!」と思ってもらえれば、僕らが日本代表として彼らの日本に対する印象を変えられるんじゃないか、これが僕の原体験から思ったことですね。

ー 一人ひとりが誰かにとって、その国の代表になり得るんですね。

一緒に住む。それだけで嫌でも相手のことを深く知れるようになる。


それに加えて、社会的な背景を見ると、外国人労働者の状況って結構深刻なんです。

日本は今どんどん少子高齢化し、労働力人口が減少しているため外国人を雇わなければいけなくなっています。なのに結局、失踪者は年間7000人くらいいるんですよ。
[注:外国人実習生の失踪者数は2017年が7089人、2018年が9052人で年々増加している。統計は出入国在留管理庁より]

その7000人が母国に帰って日本の悪口を言いふらすとしたら、それって日本にとって大きな損害だし、もしくは自殺してしまう人もいる訳じゃないですか…。
企業からしても、結構なお金をかけて採用したのに失踪しちゃうんだから、リスクだしロスですよね。彼らが長く働き続けられるように、リテンション率を高められるなら企業にとってもプラスになります。


ーこれは日本社会の抱える大きな課題ですよね。

そこで我々が何をできるかって考えると、ASEAN HOUSE=家を通して、彼らが日本社会や文化にスッと馴染めるように橋渡しをすることでした。ここに住んでる日本人は東南アジアに詳しかったり、興味があったりするので、彼らのことを理解しやすい。あと、僕ら若者はざっくばらんに仲良くなるスキルはそもそも持ってるので、そこに彼らが溶け込むのは容易いと思っています。さらに自主イベントの開催、地域のマラソン大会や季節行事への参加を通して地域社会に入っていくきっかけを作ることもできる。

それで東南アジア人が日本での生活楽しいな、もっとここに居たいなと思えたら、仕事も長続きするじゃないですか。だから企業の社宅として使うことで、企業や社会にもメリットを生み出せるかなという思惑もありました。

不定期で開催されるスポーツイベント。スポーツはいつでも国境を超える。


ー オープンしてから約半年ですが、実際に稼働してみてどうですか?

いやー、苦戦ですね。

東南アジア人って割と駅とか職場の近くに住みたがるんです。
でもさすがに渋谷、新宿の物件は手が出ない…。

それで都心へのアクセスも良く、シェアハウスとしての貸し出しを認めてくれる物件を、なんとか中野坂上に見つけたのですが。中野坂上って割と家賃もするので、そんなに安くはできません。かといって個室がある訳でもないので、大半は「それぐらい出すなら普通の綺麗な個室がいいよ」ってなっちゃうんですよね。


それでも住人の皆さんがASEAN HOUSEを選ぶ理由、魅力は何ですか?

やっぱりコンセプトですね。

東南アジア人と日本人が一緒に住むシェアハウスって、たぶんまだどこにもないですし。

ただ『外国人』ではなくて『東南アジア人』に絞っていて、単純労働者と言われるような今後日本で増えていく人たちです。日本で頑張る東南アジアの若者と、彼らを応援したい日本の若者、それが融合する場所は他にないと思っています。

日本人からしたら、日本でもがきながらも夢を追ってる生の東南アジア人と出会える。
東南アジア人からしたら、職場や学校とは別のところで日本人と触れ合える。加えて、地域や日本文化に溶け込むための装置でもある。

そこがASEAN HOUSEのストロングポイントですね。


ー インスタやFacebookを見ていると、色んなイベントの様子が流れてきてそこも気になります!

イベントは毎回すごく盛り上がりますね。
最近やったのだと餅つき大会と習字。これはみんな喜んでましたね!

本当はお花見イベントをやりたかったのですが、コロナで断念。代わりにオンラインのミートアップなどをやっています。あとは浅草観光ツアーとか、みんなで合宿、キャンプとかもいいですね。東南アジア料理店回るのもありだな~!


ー わあ、住んだらとっても楽しそうですね!

新年に行われた餅つき大会。本格的で大盛り上がり!

国際シェアハウスの持つ可能性

ー 今後の展望を教えてください。

これからアプローチしたいターゲットが二つ浮かんでいて、迷っています。

ーつは正規留学生など各国のトップを張るような人たち。東南アジアからの日本に対するイメージを本当に変えたいのであれば、影響力を持つ彼らに働きかける方が有効です。
とはいえ日本で今起きている問題の中心は単純労働者と言われる人たちで、そちらにアプローチすべきなのかとも思います。

前者であれば、東京とか大阪とかの都市圏で、後者だと地方がターゲットになってきます。
1軒目は東京でやっていますが、ここに住むのは正規留学生や就労ビザを持っている人たちが主です。一つのモデルを作るという意味では東京が良かったのかなと思っているのですが、次が肝心。

実は今、二つ目のターゲットである地方自治体と話を進めています。
地方では空き家が多くて、安くでも貸したい。
また技能実習生を雇っている地方の企業では、英語を話せるスタッフがいない。あと「外国人ってどうやって家を借りればいいんだ?保証人もいないし、なにかと面倒くさい!」という課題が聞こえてきていて。

そこで空き家を活用し、企業の社宅としてASEAN HOUSEを使ってもらうんです。

僕らが企業側の状況を聞いて、たとえば「インドネシア人の子来てるんですね!わかりました。じゃあ日常生活ではお祈りの時間と場所設けましょう。あと食事もハラルに配慮しますね!」といった風に対応する。外国人のプライベートに対するサービスを企業の代わりに行います

これなら自治体の問題を解決できるし、企業にとってもタスクを減らし、リテンション率を向上させられます。


ー なるほど。日本人はまだあまり知らない、でも東南アジア人のすごく大事な習慣だったり、考え方ってありますよね。そこをわかっている日本人が間に入るというのは大事ですね。

そうですね。地方での需要はこれからどんどん増えていくと見込んでいます。

東京の方は、出張の時に泊まれるゲストルームを用意したり、イベントを開いたり、人の集まる場所にしていきたいです。
地域に合わせて、それぞれ進めていけたらいいなと思っています。

 

コロナ時代でも止まらない、対面のグローバリゼーション

ー 世界的にコロナが広がる今、日本と東南アジアの関係についてどう思いますか?

これまでどんどん加速してきたグローバリゼーションが止まってしまうのかなと思います。
「海外=危ない」みたいな印象がつき、行き来が減れば経済が停滞し、労働者の減少にも直結します。

特に経済が縮小すると、日本は東南アジアのフロンティアには投資しなくなります。日本が苦しいから。そうすると東南アジアを支えてきた海外投資が縮小し、あまり発展できなくなるというのがありますね。向こう10年くらいは厳しいと思います…。

でも逆に大企業が行かないからこそ、僕らみたいなベンチャーに可能性があると思います。


住人、遊びに来た友達、それぞれが自分の想いを習字に込めた。

一人ひとりがその国の代表として、国や人柄の魅力を発信し、良い関係を築ければ、その個々の関係が国交に繋がっていくと信じています。

たとえば日本と韓国は、政治的には対立もあるけれど、文化から繋がるところって大きいですよね。
K-popから韓国好きになって、実際に行ってみて「韓国良い国じゃん!」って繋がっていく。韓国人も日本のアイドルやアニメから、日本のファンになる。それが若者同士の関係ですよね。韓国人の恋人がいる人だって多いし!

だから僕らがトップになったとき、もっと仲良くなれる。もっと良い世界にできる。

もちろん、そんな綺麗事ばかりではないですけど、国際協力ってそこが一番の魅力な気がしています。その交流の前提となるのがグローバリゼーションだと思うんですけど、コロナがあったからってそれを止めたくない。


韓国を例に挙げましたが、やっぱりまだ日本人は東南アジア人と接するときの態度が、欧米人や他の先進国の人の時と違うと思うんです。もちろん全員じゃないけど、まだ低く見たりしている人もいる。

だから、東南アジアを経験してる僕らが、「ラオス人って良い人じゃん!」「マレーシアって面白いな!」と、そんな風に思ってもらえる機会を日本人にも、そして東南アジア人にも同じように提供したいんです。それで住人の東南アジア人と地域のおじさんおばさんとが接触する機会を意図的に作っています。そうするとお互いに、「みんな優しい!話せて楽しかった!」って言うんですよね。

そういう新しいうねりをどんどんASEAN HOUSEから作っていって、対面のグローバリゼーションが身近に溢れる社会にしていきたいと思います。

国も世代も超えた人々の接点を生み出せる場所


ー 最後に、アセナビ読者へメッセージをお願いします。

まずは来てみてください!(笑)
もし周りに東南アジア人の知り合いがいれば、一緒に連れてきてもらっていいし!

それで、リアルの、生の東南アジア人を体感してほしいです。

別にASEAN HOUSEじゃなくても、そういうコミュニティってあちこちあると思います。なんであれ、東南アジア人と対話をする機会が日本中でもっと増えればいいなと思います。
外国人労働者の失踪の問題も、法律だとか制度だとかありますけど、お互いがちゃんと胸突き合わせて話せてないからな気がしていて。一緒に住んだら、嫌でも色々話すし、正直にお互いの胸の内見せ合って、関係を築けていけますからね。

『国は人』だと思うので、東南アジアに興味がある皆さんは、まずは東南アジア人と話をして、もっと関わってみてください。
もしその機会が身近になければ、ぜひASEAN HOUSEにいらしてください!


― ありがとうございました!私も遊びに行きます!

はい、ぜひぜひ!より魅力的な場所にしていきたいと思います!

 

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「またいつか、世界が繋がる日は必ず来る」

その時に向けて、希望を持って前に進み続けるASEAN HOUSEを、応援よろしくお願いします!


編集後記

世界的なコロナウイルスの流行により、急速にグローバル化していた世界は分断されました。けれど、一対一のリアルな関わり合いを経験した個人の繋がりは、途絶えることはありません。そんな小さな個々の結びつきが、真に国と国を繋ぐのだと実感しました。

ASEAN HOUSEは日本に来た東南アジア人にとってもですが、東南アジアが好き/関わったことのある日本人にとっても大事な場所になるでしょう。私も今はインドネシアに住んでいますが、帰国したらぜひ遊びに行きたいと思います!