もともと海外との接点も多かった大石氏。様々な経歴を経た中で考えた世界中どこにいても活躍できる人材に必要なものとは何なのか。また海外で働くということに高いハードルを感じる人も多いであろう。その考えと実際にやってみるということのギャップを埋めるためにはどのようにしたらいいのだろうか。
《プロフィール|大石弥生氏》
小学生の時に出会った英語が堪能な家庭教師や英語の重要性を考えていた母の影響で幼いころから海外に興味を持つ。
米国大学への進学やインターンを経験する。その後日本での語学学校での英語教師や日本への留学生への多言語授業で教師を経て、外資系IT企業の日本リージョンのマーケティングをリード。新製品拡販、代理店プログラム、広報など幅広く活動。その後、株式会社Viveを設立、女性のキャリア支援に携わる。現在、株式会社JIN-Gにて企業や学生へグローバル人材育成プログラムを企画・提案・提供を通じて、挑戦し続ける人材や海外で働くことの楽しさを広める。
どこへ行っても活躍できる人材になるための体験を提供する
―現在の仕事内容をお教えください。
JIN-Gという会社で働いています。
Enjoy your worldをミッションに日本だけを市場として捉えず、どこにいっても活躍できる人材を増やすことに尽力しています。
色んな国の人と仕事をするとき、語学力やビジネスのやり方はもちろんですが、自己効力感が大事だと思っています。それは過去の経験からストレッチしてみようと思えることだと思うので失敗恐れずやってみる、学びを活かす、うまくいかないかもしれないけどトライしつづけキャパを拡大させていこうということです。その疑似体験を提供しています。
具体的には組織人事コンサルティングをしています。
東京とベトナムホーチミンにオフィスがあり、人事制度、組織文化の変革などに関するコンサル、海外国内研修、ラーニングコミュニティを提供しています。ホーチミンの拠点を使って学びの場を日本の外にも広げています。
―代表的なプログラムにミッションコンプリートというものがありますが、どのようなものなのでしょうか?
企業の中の社員の方に海外でリアルな仕事をしてもらう5日間のプログラムです。
私が担当する場合、ホーチミンやシンガポールが多いですが、タイ、インドネシア、カンボジア、ベトナム、同時4ヶ国にでプログラムを開催したこともありました。
まず受講生に対して現地で活躍するビジネスパーソンがクライアントとして仕事(ミッション)提示します。現地で本気でビジネスを行っているクライアントが「何を成し遂げたくてこの地でビジネスをやっているのか、そのためにどういう事業を行って、自分が今リアルに直面している課題を解決するための提案をしてほしい」というミッションを出します。参加者は現地でフィールド調査をし、仮説検証しながら、決められた期日までにクライアントに提案します。
逃げられない異国の地、今まで考えたことのない課題に対してやらなくてはいけないという状況で、自分はクライアントにどう貢献できるかを考えて提案し、フィードバックをもらうという挑戦をすることができます。
このプログラムの良い点のひとつは、経営者と直接話す機会があるということです。
何かを成し遂げたくて異国で活躍する経営者側のリアルな話を聞くことができますし、自分の職場では挑戦したことのない領域を体験することでもっと自分が成長できる実感を得ることができます。
中にはパスポートを持ったことがないような方が参加することもあります。そのような方から「もっと海外で働きたいと思った」、「漠然とした海外への恐怖心が消えた」といった感想をいただくと嬉しいですね。
海外から日本でやっている業務を客観視することができたり、日本で嫌だなあと思っていた部分がいいなあという気づきが生まれたりする環境があります。
また、プログラムを通じて海外で仕事をする、海外の人と接点をつくるという、普段日本にいてはできないことを“できた!”と思える経験ができるので、それこそが自己効力感を生みだすことに繋がっていると思っています。
―なぜ東南アジアをフィールドに選んだのですか?
会社に入ったときからオフィスがホーチミンにありました。当時、友達がオフショア開発のビジネスをホーチミンかハノイでやり始めるという話をしていて、日本の高度成長期のような勢いがある国だときいていたんです。実際行ってみても、ベトナムはチャンスがたくさんある国という印象をずっと持っていました。
最初はベトナムで起業するのもいいなと思っていたのですが、BtoCのビジネスしか思いつかず、自分はBtoBしかやったことがなかったので、迷っているときにこの会社と出会いました。チャレンジングな課題に向き合っている会社で私の中にあった起業のアイデアよりも色んなことができそうだったので入社しました。
Asia Pacific Federation of Human Resource Managenentのタイメンバーと
自身の経験から学んだ変化に耐えうるスキルの重要性
―転職を何度かなさっていますね。
勤めていた会社が買収されるなどして転職を何度も経験しました。
その中で会社に雇われていること自体が安全というわけではなく、いつ何が起きるかわからないと思うようになりました。また業績によって人員を削減といったアクションがとても早いような外資系企業にいたこともあり、変化を見据えて生きていかなくてはならない、どこにいても自分の能力で生きていけるようになりたいと思うようになりました。
同時に日本に目を向けてみると高齢化や年金問題などがあり経済がどのようになっていくのかの先行きもわからず不安しかありませんでした。
そこでいつでもだれでも働き続けられる社会があればよいのではないかと考えて2014年に会社を立ち上げました。
Asia Pacific Federation of Human Resource Managenentのボードメンバーミーティングにて
女性×企業のマッチング会社を立ち上げる
―どのような事業だったのでしょうか?
高い能力を持っているにも関わらず仕事を辞めざるを得なかった女性と企業をマッチングするものです。なにごともシェアする時代が来るのではないか、それが広がれば企業も人材も自由にビジネスができるのではないかと考えました。どこにいても自由に仕事ができるスキルがあること、人とのつながりが自由にできることが素晴らしいなと。
また、優秀な女性が仕事を辞めざるをえないという状況を耳にしたときに、女性に絞ったマッチングのサービスにしようと思ったのです。いつライフイベントがあるのか、結婚したらどこに住むのかといった不確定要素の中で将来を見据えなければならないですから。
―女性だからこそ企業にできることはなんだと思いますか?
女性は男性とは違う脳がはたらくといいますか、例えばクリエイティブな仕事で男性が意識していないところを感じたり、共感できたりすると思います。また購買決定権は女性にあることが多いとも言われているので、 商品開発やプロモーションに女性の考えを取り入れることには大きな価値があると思います。その能力を活かせば、男性が多い企業でも女性が働くことで多様化を促せると思います。 フルタイムの正社員としてだけではなく、企業側が必要なときに必要なリソースを調達し、うまくプロジェクトのスコープに合わせて発注できれば、より多様性も促すことができますし人材を活かせるのではないかと思ったんです。
―立ち上げた会社に関しては今は休業中だと伺いました。
やっている事業、求められていること、自分の強みという3つの枠の中で、女性のキャリア支援は自分の中で重なりが小さいと感じたんです。自分の強みはグローバルでのビジネス経験。そこに注力していくことに決めました。
また、働きながら通えるビジネススクールに出会い、MBAプログラムを通っていたのですが、学友たちがすごく忙しいのに、勉強会やクラブ活動などを頑張っていて。学びは人を豊かにする。学べば学ぶぼど知らないことが出てきてだから人は学び続けるのだと思い、人材育成という仕事に就いています。
ベトナム人の人事担当者を対象とした「これからの人事の役割とは?」と題したセミナーを開催
海外で働くということ
―「海外で働く」ということに関してはどうお考えでしょうか?
よく取り上げられる語学はひとつのツールにすぎないと思っています。私は小さいころから英語に触れていて勉強もしていましたが、難しい仕事がふってきたとき英語ができるから仕事ができるわけではないとは思います。
ただ外国人との仕事の経験、語学力があるということはあるに越したことはないですが。
自分自身、正直考えすぎる部分が多いと思います。まずはやってみないと始まらないと思いますね。自分を信じるためにも、必要な経験ベースの自己効力感を得ることのできる機会を提供していきたいなと思っています。
―東南アジアに対する今の思いはどのようなものでしょうか?
東南アジアの人材育成をしたいと思っています。
日本から距離の近いですし気候もいいし、ビジネスチャンスも多いです。
また東南アジアと言っても各国の状況が様々なのも面白いと思っています。特にベトナムは国としても安定していますし勤勉で優秀な学生も多く、将来がとても楽しみな国です。かなり興味深いですね。日本で経験している少子高齢化は、いずれアジア経済の発展とともにやってくるものなので、解決策をベトナムで展開できたらいいなと思いますね。
―特に女性で海外で働くということに関して興味があるひとに最後にひとことお願いします。
やってみたらいいのではないでしょうか!若いうちなら失敗しても吸収することは多いです。
女性の方がいざとなった時の度胸があり海外への順応早いですし、コミュニケーション力も高いと思います。
どのような状態にせよ経験ベースの自己効力感があることが大事だと思います。
日本の市場も外資系に買収されるなど状況が一刻一刻と変わっています。SNSが発展している今、友達を作れば世界中の人とつながることができてどんどんネットワークを広げることができる。そうすることで自分の世界が広がりますよね。
東南アジアに関しては近いのに国によって違うことが多くて面白いし親日家も多いのでぜひ色々な国に行ってみるといいと思います。先人たちの努力によって今に至ると思うので、その国にこれからどのような関わりを次に作っていくのかが大事だと思いますね。
ベトナムオフィスのメンバーと日本からのメンバーとのランチ
編集後記
ついつい経験がないから、自分に自信がないからできないことがあるといった考えを持ちがちなので自己効力感を持つ大切さというのを改めて感じました。また「変化を見据えて自分の能力で生きていくことのできる人」というのはまさに私の目標ですがそれをご自身で実現なさっている大石さんのお話しを伺えたことはとても貴重な機会となりました。
インタビュー内にあるミッションコンプリートプログラムはこちらからhttp://jin-g.com/mc/