学びは「違い」から生まれる。日本のオープンイノベーションを海外から推進する デロイトトーマツベンチャーサポート西山直隆さん

アジアでのベンチャー企業と大企業の連携を推進しようと単独でシンガポールに渡り日々奮闘しているデロイトトーマツベンチャーサポート(以下DTVS)の西山氏。学生起業、大手メーカーでのIPO、そしてDTVSと多様な経験を積んでいる西山さんが、日・ASEAN間のオープンイノベーションに足りないこと、そして日本を飛び出した理由などを語ってくれました。

《西山直隆|プロフィール》

19歳で不動産会社向けの業務改善ソフトウェアで起業。事業売却後、大手メーカーに新卒で入社し、グループ会社のIPOに携わる。DTVSに転職後は、大企業とベンチャー企業のオープンイノベーションを生み出すプラットフォーム「モーニングピッチ」の運営およびベンチャー企業の個別支援に従事。現在はDTVSのアジア拠点立ち上げをシンガポールで単身で行なっている。

企業間のオープンイノベーションを推進するDTVS

ーデロイトトーマツベンチャーサポートは何をしている会社でしょうか?

私たちは、「挑戦する人とともに未来を拓く」をミッションに、

・ベンチャー企業の成長支援

・大企業の新規事業創出コンサルティング

・官庁および全国自治体のベンチャー政策の立案・実行支援

といった活動を通してグローバルイノベーションファームを目指しています。

この中で私はデロイトトーマツグループでのベンチャーサポート活動のアジア拠点の立ち上げを行っています。

 

ー西山さん自身の仕事内容を教えてください。

日系ベンチャー企業の海外進出」と「海外ベンチャー企業と日本企業との協業」をお手伝いさせて頂いています。

日系ベンチャー企業の海外進出の取組で代表的なのは、経済産業省およびJETROと連携して運営している「飛躍 Next Enterprise」というプロジェクトです。これは技術力のある日本のベンチャー企業を海外に連れて行き、現地政府系機関やVCとディスカッションする機会を設けることで、グローバル展開を後押しするプログラムです。

海外ベンチャー企業日本企業との協業に関しては、経済産業省およびJETROと連携して、最先端の技術や製品を発表するアジア最大級の展示会であるCEATEC Japan約40社のベンチャー企業を海外から連れてきたり、当社が独自で開催するデロイトトーマツベンチャーサミットに50社のベンチャー企業を海外から連れてきています。そして、海外のベンチャー企業が日本の大企業と協業・投資・M&Aなどの実現に向けたディスカッションできる場を作っています。

日本の文化を知っていただくために、昼間のビジネスミーティングだけでなく、夜の宴会まで密なサポートをしています。

日アジア間の情報の隔たりをリアルな情報によって埋めるべく、泥臭く活動している

ー海外企業と日本企業のオープンイノベーションの促進ですね。それを進めていく上で何か課題などはありますか?

両者がお互いのことをあまり知らないという点ですね。

海外のベンチャー企業にとって、日本のプレゼンスはあまり高くないんです。日本のどの企業と組めばいいのか、それで何ができるのか、そもそも誰に最初にコンタクトすればいいのかというのがわからないのです。

欧米や中国などの諸外国は海外企業に対して投資やM&AをしたりR&D施設を作ったりしていてプレゼンスを挙げている一方、日本はそういったことがあまり活発にできていないので、向こう側も日本企業のイメージがわからないという状況です。

例えば、海外のスタートアップに日本企業のリストを渡して、会いたい企業にチェックを入れてと言っても、返ってくるリストに殆どチェックが入っていなかったんです。なぜなら彼らがリストに記載された企業のことを知らないから。私が「あなた達のニーズならこういう日本の企業が合うのではないか」と提案すると「まさにそういうところに会いたかったんだ!」と喜ばれました。

逆の場合も然りで、日本の大企業の方々も、シリコンバレーやイスラエルはチェックしていますが、アジアはほとんど見ていない企業が多い印象です。特にインドに至ってはどんな技術があって、どこで誰にコンタクトすればいいかがわからないんです。

つまり、両者に大きな情報の隔たりがあります。そこで、アジアのベンチャーやVCをひたすら周っては日本の大企業が持つ技術や良さなどを発信しています。日本企業に向けては定期的にレポートを出したり、新聞等のメディア記事掲載させてもらったり、セミナーを開いたりして、アジアにはこんな技術やベンチャーがあり、協業するとこんなメリットがありますよ、といった情報を発信することに注力しています。このようにお互いがお互いのことをよく知るようになれば、協業も増えてくるのではないかと思っています。

 

ーかなり泥臭く地道に活動されているんですね。

そうですね。インドのGDPや人口はいくつで….といったマクロなトレンドの話ができるの方はたくさんいますが、僕らみたいに実際に現地に根をはりひたすらベンチャー企業と向き合い、彼・彼女らを支援してネットワークを作っている人はそういないと思います。やはりそういう泥臭い活動をしているからこそ僕らが最新でリアルな情報を持っている自信はありますし、日系企業で海外ベンチャー企業との協業を模索している人にとって高い価値を提供できる自信もあります。

さらに、各国政府関係者が参加するイノベーションを促進するための施策を検討する会議にも出席し、実際に現場で起こっていること、成功事例や協業を促進する上での課題、今後どのような施策が求められるか等の提案もさせて頂いています

最近では日ASEAN首脳会議と併せてフィリピンで開催された、ASEAN-JAPAN FAIRで「日本とASEANがどのように連携してイノベーションを加速していくか」というテーマでキーノートのスピーチをさせていただきました。

このようにベンチャー企業を周り、大企業に情報発信をし、政府に政策提言をするといったように、DTVSが日本で行っている活動3本柱をアジアで行っています

徐々にですが、成果も出始めています。FluturaというインドのIoTスタートアップが日立とのパートナーシップに至るまでの流れを記事にしたTech In Asiaの記事ですが、CEATECのことと私のことが言及されています。

 

学生時代に起業、大手メーカーでの勤務を経験した後、DTVSにジョイン

ー西山さんは学生時代に起業したと聞きました。

はい。不動産ビジネスに興味があり、将来不動産ビジネス新たな価値を生み出したいと思っていました。そこで宅建資格を取得し、大学に通いながら不動産会社で働きました。

しかし、いざ働いてみると不動産業界は非効率な業務が多く、「なんとかしなければ」と思い、不動産会社向けの業務改善ソフトウェアで起業をしました。エンジニアのメンバーを集めて資金調達し、2年半くらい実際に会社を運営しましたがあまりうまくいかず、不動産会社の方からオファーをいただき事業売却をしました。

 

ーあまりうまくいかなかったんですね。

うまくいかなかったですね。だから逆に、長年続いて信頼されている大きな会社は、どういう風に経営しているのだろう、というのに興味を持ちました。さらに、お金まわりで苦労することも多かったので、最低限の数字はわかるようにならないといけないというのは感じました。

その2つの軸で就活をして、歴史のある大手メーカーで財務系の仕事をさせてもらえるということで、そちらに就職を決めました。

 

ー起業から一転、大企業に就職されたんですね。どのくらい働いていたんですか?

5年と数ヶ月くらいですね。在籍中にはグループ会社のIPOに従事するという経験もさせてもらいました。そこで組織運営や財務戦略を実践的に学ばせて頂き、同時に米国ワシントン州公認会計士の資格も取得しました。

 

ーでは、どういったきっかけでDTVSに転職されたんですか?

たまたまDTVSについての記事を読んで興味を持ったことですね。DTVS社長の吉村が「ベンチャーを支援する仕組みがこれからは必要で、我々が先頭に立ってやっていく」といったことを書いていた記事だったと思います。

もう少し背景を話すと、前職の大手メーカーが本当にいい会社だったんですよ。みんないい人で頭が良くて、生活と仕事のバランスもうまく取れる、離職率が低くて素晴らしい会社でした。入社した当初は「ここで学んで次何か新しいことに挑戦しよう」と思っていたんですが、組織に入って時間が経つにつれて少しずつ「手に握った砂」みたいに知らないうちに無くなっていることに気がついたんです。

それとともに「10-20年後先の自分」というのが見えてしまうんです。海外でMBAとって、あそこの席の職について、といったように。そこで、新しい何かを生み出すことをしたいと思っていました。しかし特別具体的にやりたいことがあるわけでもないなぁというときに、DTVSのことについて知りました。「これだ!」と思いましたね。

 

自分が経験した起業家時代の苦労を活かしてベンチャー企業を支援したい

ーどういうところに「これだ!」と思われたんですか?

自分がプレーヤー(起業家)として困ったことがたくさんあって、今それに直面している人を助けられるのではないか、と思った点です。

起業をしていてぶつかる問題は、「誰もが経験するような問題」も多く、それを経験した人に聞いたら解決する話も多いんですよ。しかし、昔はそれを教えてくれる人が多くないので、起業家にとって大切な時間をその問題を解決するために使ってしまうんです。そこを、元起業家としての経験、自分の苦い経験を生かして起業家の手助けができるのは良いなと思いました。

 

ー実際に働いてみて、大変でしたか?

当時のDTVSは今ほど知名度もありませんし、ベンチャー企業に会うこと自体すごく大変でした。スーツを着たトーマツの会計士が何しに来たんですか、といった反応でした。こちら側もそれほどノウハウが溜まっているわけでもなかったので、実際に会えても提供できるものが多くはありませんでした。だから必死に何か手伝えることを探して、一緒に営業に行ったり採用の手伝いをしたりしていました。

支援させて頂いているベンチャー企業の海外展開のために、ベンチャー企業の社長と一緒にアラブ首長国連邦に行き、アラブ投資庁関係の人達ともディスカッションをさせて頂いた、ということもありました。

モーニングピッチの運営もしながら、こういうように地道にベンチャーを周っていたら3-4年で「あの西山さんね」みたいになって、みんなが会ってくれるようになりました。

学びは「違い」から生まれるという考えのもと、多様性溢れるシンガポールに単身で渡り、アジア拠点立ち上げに挑戦

ー日本でもかなり地道に活動されていたんですね。では、日本から出てアジアの拠点づくりを始めた理由を教えてください

シンガポールはご存知の通り多国籍国家で、いろんな国の人が集まってビジネスをしていて、とてもダイナミズムに溢れています。新しいテクノロジーの実証実験をしていて、それに身近に触れることができるという面白い環境です。入ってくる情報も質と量が桁違い。

「日本のベンチャーが海外展開を検討する地域」という視点でも距離的・心理的に欧米諸国よりも近く、需要があるとは感じていたので、単発でシンガポールでモーニングピッチをしてみたんです。実際にやってみるとまた色々なものが見えて来て、アジアと日本のオープンイノベーションを推進していく上でこれは継続してする必要があると感じて、シンガポールでアジアの活動拠点を作ろうと思ったんです。

さらに個人的に、より厳しい環境に身をおきたいと思ったということもあります。上に述べたように、日本での数年の活動のおかげでだいぶいろんな人と会いやすくなり、ふと一年振り返った時に、自分が失敗していないことに気がつきました。要は、自分が出来る範囲のことを無難にこなしていたなと感じたのです。シンガポールには世界中から優秀な人材が集まっていますこういう環境に身をおいて、常に自分の目線を上げながら挑戦していきたいと思いました。

私は、学びというのは「違い」から生まれると思っています。最初は違いを目の当たりにすると「なんでそうなるの!?」というフラストレーションがたまり居心地は悪いかもしれませんが、少しマインドを変えると「そう来たか!」「そういう視点もあるのか!」というふうに学ぶ機会に変わります。もちろん人間は分かり合えるもの、すなわち同じようなものに居心地の良さを感じ、周りをそれで固めたがるんですよね。インターネットでも、自分が興味のあるものを見たらそれをアルゴリズムが解析して、「あなたはこんなものが好きでしょ」と同じようなコンテンツを提案するようになりました。そういう環境にいると、新たな気づきや学びは生まれにくく、頭も固くなってしまいます。

だから多様性で溢れるシンガポールは自分にとって学びの機会でしかなく、ここで働きたいと思ったんです。そして今では自分のチームには外国人しか採用しておらず、多国籍のチームを作っています。

現実世界に生きる人々が幸せになるような社会を作りたい

ー「違いを受け入れる」というのは外国人とのコミュニケーションでも大切になってきそうですね。では、今後の日・アジア間のオープンイノベーションについて今後の展望をお聞かせください。

最初に述べたように、現状は海外企業は日本企業のことを知らないし、日本企業は海外企業のことを知らないという問題があるので、そこを少しでも解消できるように、双方向に人と情報を行き来させたいと思っています。

また、オープンイノベーション促進のためのイベントを開催した「後」のフォローアップもしっかりしていきたいです。イベントはあくまで「きっかけ」で、そこで顔を合わせただけでは提携などには至りませんから。その後に提携が起こるというところにコミットしていきたいです。

ただもう少し大きなスケール、すなわちグローバルなイノベーションのことを考えたときに、「日本の利益」というところにこだわらなくてもいいのではないかとも考えています。もちろん日本を代表して、日本のためになるように活動をしてはいますが、アジアにある全てのテクノロジーが日本とマッチするわけでもないですよね。そしてそういったテクノロジーは日本とマッチしなくても中国は欲しがるという可能性もあります。日本とアジアだけでなく、アジアとアメリカ、アジアとヨーロッパなど、イノベーションの輪を国や地域で区切らずに、もっとシームレスに広げていけたら良いと考えています。そしてそれは、世界中に支社があるデロイトだからできることだと思っています。

一方で、正直、大手企業からのご相談やご依頼を受ける中で違和感を感じることもあります。AIやFintech等のバズワードに踊らされて、意思なくテクノロジーを追いかけている企業もあると感じます。あっちにテクノロジーがあればあっちに行く、そっちにテクノロジーがあればそっちに行く、といったように。

しかし、私たちが考えないといけないのは、そのテクノロジーが「一般の生活に普及した時に一般人の生活がどう変わり、彼・彼女らの気持ちはどう変わるのか」、ということです。これを見失っている人も多いように感じます。今、どんな課題があって、それをどのように解決すべきなのか、そのためにはどの様なテクノロジーが求められるのか。実現したい世界観があって、人の暮らしを豊かに、人を幸せにするためにテクノロジーを利用するのであって、決してその逆ではあってはならないと思います。

なので、私自身もアジア各国の一般の方々の現実の実生活というのをより理解し、意識できるようにそのような時間を意図的に作っています。

 

ーなるほど、人を幸せにするためのテクノロジーということですね!では、個人的な目標などはありますか?

現実社会で人が、金銭的な尺度だけではなく、豊かな気持ちで暮らせる社会。資本主義では測れない本来価値ある活動の再評価が出来る社会。個人が自分らしく表現して生き、多様性の中で人々が互いに貢献し合うことで、違いから学び続ける環境。そういった世界観のコミュニティを創りたいと思っています。

先ほど、アジア各国の人々の暮らしを理解するための時間を意図的に作っていると言いましたが、先週はインドのスラム街にも足を運ぶ機会がありました。経済的には豊かではない地域ですが、そこには子供達が遊んでいる周りに近隣大人が見守っていて、みんなが支え合い、コミュニティの中で楽しく生きているように見えました。一方で、経済的に豊かな日本はどうでしょうか。極端ですが、毎朝満員電車の中で疲れた顔をした人が大勢いますし、自殺率も高いですよね。

現実世界に生きている人々が幸せになるためには何が必要なのか、それを踏まえてあるべき世界を創りたいです。

一緒に面白い未来を創る仲間も募集してます。お気軽にご連絡下さい。

 

インタビューに答えてくれた西山さんの

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編集後記

アジアで活躍されている西山さんですが、実は西山さんは国内で生まれ育ち英語は得意ではなかったそうです。にも関わらず単独で日本から飛び出してアジアでネットワークを築いている姿を見ると、海外に出るのに大事なのは語学力ではなく、挑戦する姿勢そのものなのかもしれない、と思いました。

西山さんの挑戦が最初は「不動産業界の業務効率化」から始まり「大手メーカーのIPO」を経て「日本のベンチャー企業支援および大企業とのオープンイノベーション促進」そして「世界中のオープンイノベーション促進」といったように、経験を重ねるごとにスケールがどんどん大きくなっているということがわかります。これから先、デロイトトーマツベンチャーサポートおよび西山さんがどのように世界を変えていくのか、楽しみです。

 

ABOUTこの記事をかいた人

飯田 諒

筑波大学で休学2年目に突入 ベトナムをDJしながらバイクで2,500km縦断したり、バンコクで8ヶ月間インターンしたり 最近はスタートアップにどっぷりです。 英語が得意なので外国人インタビューなど積極的にしています! 英語翻訳の仕事もやっているので、何かあれば連絡ください。 ryoiida9507@gmail.com