カンボジアを代表する生活情報誌「NyoNyum」創刊者 ―「全ては“伝えたい” から繋がっている」

 

カンボジア在住者であれば誰もが知っている生活情報誌『NyoNyum(ニョニ ュム)』。本誌は2013年10月10日で記念すべき10周年を迎えた。「知りたい」という想いでカンボジアに飛び込み、「伝える」を軸にカンボジアと長い間向き合ってきた。「アジアから学べ!」と主張する彼女は、この20年近くのカンボジア生活で何を感じてきたのだろうか。

 

《山崎幸恵氏プロフィール》
内戦から復興間もない19年前にこの地に降り立ち、プノンペン王立大学でクメール語を学ぶ。通訳の仕事を経て、本誌を立ち上げる。現在はCJS Inc.の代表を務め、翻訳•通訳サービス、カンボジアの日用雑貨を集めたセレクトショップ『NyoNyum Shop』を運営する。

 

日本での報道に疑問を持ち、飛び込んで来たカンボジア

 

ーカンボジアに来られた経緯をお聞かせください。

山崎氏
「今からちょうど20年前の1993年に、カンボジアで総選挙がありました。他にも、 自衛隊のPKO派遣の賛否をめぐる議論もあって、カンボジアがメディアでよく出るようになっていた頃。当時、短大2年生で、マスメディア論を勉強していた私は、報道を見ていて思ったことがあったんですよね。

『人には知る権利があるけれども、同時に知る義務がある。日本で報道されていることを鵜呑みにしてはいけないんじゃないかな』と。

報道されていることがどこまで本当で、このネガティブな情報だけがカンボジアなのかなと疑問に思ってました。実は、私の興味は政治ではなく、そこに住む人々の生活。でも、日本に居るだけではそれがわからなくて、きっと日本のメディアにとってはニュースバリューがないことだからなんですよ。だったら、いっそのことカンボジアを自分の目で見に行きたいと思ったんですよね。

日本語教師になる延長線で就活していたときに、たまたま青年海外協力隊の募集を見つけました。『経験問わず』という条件と、派遣先がカンボジアだったので、『これしかない!』という想いで飛び込みました。」

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ー元々は、青年海外協力隊で来られたんですね。どんな仕事をされていたのですか?

山崎氏
「実は、今ここにいるビルと同じ場所に、昔カンボジアの観光省があって、日本語教師として働いていました。元々のビルはとっくに取り壊されいて、2,3年前に新しくここにビルができました。何も気づかずにこのビルにオフィスを借りて、『なんか見たことある風景だな』と思っていたら、このビルの隣にあるお茶屋に行った時に気づいたんです。『あ、このおばちゃん見たことある!』って。知らぬ間に最初働いていた場所に戻って来てたんです。(笑)

当時は、赴任して半年も経たないうちに病気になって、日本に帰国しちゃいました。 私は一時帰国のつもりだったんですけど、結局戻ることができずに、挫折しました。 『なにかしようと思って来たのに、結局なにもできずに帰ってきてしまった』という悔しさでいっぱいでした。それで、諦めきれず1年間日本で貯金して、もう一度カンボジアに戻ってきました。

何をやりたいというよりかは、ただカンボジアに戻ってきたかったんです。カンボジア人の友達も日本人の友達もいたから、とりあえず戻ればなんとかなるって思ったんですけど、甘くなかった。

1994年だから、ODAが再開して2,3年しか経っていなくて、現地採用枠なんてほぼ無い。じゃあどうしようって考えて、『何もないなら大学で勉強しよう!』と。 言葉自体にも興味があったし、とりあえず4年間カンボジアにいる理由にはなりますよね。」

 

10周年を迎えた「NyoNyum」(ニョニュム)の誕生


ーそれほどカンボジアに惹き付けられてたんですね。生活情報誌『NyoNyum』を作ったキッカケはなんですか?

山崎氏
「こっちで勉強していて思ったんですけど、周りの大学生が、どうやらカンボジアに誇りを持てていないというか、自分に対しても自信を持てていないんですね。内戦の歴史だったり、援助に頼る体質があったせいか、自国をネガティブに捉えている人が多くて。『アンコールワット作ったのって本当に自分達の祖先なの?』とか言ってる人までいる。すごく残念に思えました。

その時に、ちょうどフリーペーパーを作ってみないかという話を知人から頂いた。 カンボジア人にとっても、もう一度自分の国を見直す機会になるかなと思って、『NyoNyum』を作ることになった。ちなみに、NyoNyumとはクメール語で『笑顔』という意味なんです。カンボジアにはたくさんの笑顔があって、それを伝えたいという想いで、この名前にしました。

NyoNyum10th (記念すべき10周年を迎えた生活情報誌『NyoNyum』)

だから、フリーペーパーは単にカンボジアの良さを伝える手段なんですよね。それを通じて、カンボジア人に誇りを取り戻してほしい。同時に、カンボジアで働く日本人にとっても役立つ情報を提供すれば、両方にとってプラスなんですよね。」

 

ーNyoNyumを作っているカンボジア人達に、何か変化はありましたか?

山崎氏
「最初はアイデアも無かったし、みんな受け身でした。7,8年経ってようやく『こういうことしてみたい!』と自発的に意見を言ってくれるようになりました。結構読んでくれている人がいるんですよね。日本語がわからなくても、『英語ならわかる!』とか、日本語を勉強しているカンボジア人から教科書みたいに使われていて(笑)

彼ら自身、カンボジアを慕ってくれているっていうことは嬉しいみたいで、道で会った日本人にいろいろ伝えたり、説明しているんです。私は通訳もやってるのでわかるんですけど、どうしてこうなったのかという背景を伝えないと相互に理解できないんです。そして、やっぱり伝え続けることが重要だと思います。」

yamazaki_3(『NyoNyum』の編集に携わるカンボジア人スタッフ達)

 

ー「伝える」ということにずっと正面から向かい合ってきたからこそ言えますよね。

山崎氏
「やっぱり“情報”がキーワードで、通訳も『NyoNyum』も『NyoNyum Shop』 も伝えるツールだと思います。『NyoNyum Shop』はカンボジアの物産がどうやってできたか、どういう想いを持って作られたのかというストーリーも伝えて、やっと“伝える”に繋がる。私のビジネスの核にあるのは “情報”で、根底にあるのは『伝えたい』という想いだと思うんですよね。これはやっぱり大学生のときにカンボジアの報道を観たときの疑問が全部ここに繋がってる。」

 

山崎氏が考える途上国との関わり方


ースゴイ。全て繋がってるんですね。これまで20年間カンボジアと関わってきて、大事にしてきたポリシーはありますか?

山崎氏
「最近、Facebookでふざけて『アジアから学べ!』と言ってるんだけど、本当にそうだなと思ってます。この前『世界ふしぎ発見』に出させてもらったときも言ったんだけど、最初にカンボジアの空港に着いた時に、野次馬のように人が出口に集まってたんですけど、その中に女の子がいたんですよね。『あ、こんな素敵な笑顔を持っている人がいるんだぁ』、と。一方で、日本にこんな笑顔できる人いるかなぁと疑問に思ってしまって。

カンボジアだとお父さんが夕方5時頃帰って来て、子供達と幸せそうに遊んでる風景を見るんです。でも、違う視点から見てみれば、仕事がないから早く帰って来てるだけで、収入がないかもしれないんですよね。それを貧しいと思うか、豊かだと思うかは、結局日本人の価値観からは決められない。ビルをたくさん建てて経済発展することをカンボジア人は本当に望んでいるのかはわからない。彼らの価値観からすればそんなの必要ないかもしれない。

“共生”がキーワードだと思っていて、常に『一緒に社会を創っていく』という意識さえブレなければ良いと思います。昔、日本語教師として教える立場にあったときもそうですけど、こっちが学ぶことってたくさんあるんですよね!」

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ー共に学び合う関係を築いていければ最高ですよね。最後に若者に対するメッセージをお願いします。

山崎氏
「海外に行くのも、何かしら自分の国と結びつけて行ってくれたらいいなって思います。海外に来て、改めて自分が日本人だって知ることになる。愕然とすることも、日本って酷い国だなぁって思うこともある。いつか日本に何か還せるように、そういう意識を持っていたらいいんじゃないかな。

実は、震災のときは凄く悩みました。非国民って言われるかもしれない。それでも、 カンボジアに残ったのは、自分が腑に落ちるロジックをつくった。 とにかく『私に今できることはこれなんだ!』と考えました。だから、海外に出るのなら、まずは本当に自分がやりたいことは何かというのを考えて欲しいですね。」

 

(ライター:保坂航  インタビュアー:早川遼  撮影:鈴木佑豪)

 

《山崎氏関連情報》
•カンボジア生活情報サイト〈NyoNyum(ニョニュム)WEB〉
http://nyonyum.net/

•CJS Inc. ホームページ
http://www.cisinc.co.jp/index.htm

•山崎幸恵氏ブログ
http://cafe-khmer.at.webry.info/

•NyoNyum Facebookページ
https://www.facebook.com/cambodianyonyum

•NyoNyum Shop Facebookページ
https://www.facebook.com/NyoNyumShop

 

《編集後記》
私が最初に感じたことは、『本当にカンボジアと正面から向き合っている人だなぁ』ということでした。加えて、自分自身と本当に向き合っているように感じました。伝えることってすごく大変で、時間のかかることだけど、それを理解したうえで続けてこられた山崎さんのことを色々な人に知ってもらいたいと思いました。この編集に携われてとても幸せです。

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ABOUTこの記事をかいた人

アセナビファウンダー。慶應SFC卒。高校時代にはアメリカ、大学2年の時には中国、それぞれ1年間の交換留学を経て、いまの視点はASEANへ。2013年4月から180日間かけてASEAN10カ国を周りながら現地で働く日本人130名に取材。口癖は、「日本と世界を近づける」