2016.11.10
一貫して、タイの人材紹介のコンサルティングに7年以上携わるプロがバンコクにいる。
社会人2年目からタイに飛び出し、タイの人材業界に彼女を知らない人はいない。
「人材紹介が天職」と語る下川さんに”人”を繋ぐ業界の魅力と、若い世代へのメッセージを伺った。
《プロフィール|下川優氏》
1985年生まれ。立教大学観光学部卒業後、新卒で大手人材紹介会社JAC Japan(現JAC Recruitment)へ入社し、1年営業を経験。その後、同社タイ法人へ転籍、バンコクにて4年間、日系企業中心へ新規開拓営業とタイ人採用コンサルタントを務め、200名以上の転職のサポートを実現する。2013年にバンコクで会計人材に特化をした人材紹介会社を立ち上げ、代表に就任し、1年半勤務。2014年現職のenworld Thailand日系企業スペシャリストチームマネージャーに就任。
目次
新卒2年目でタイへ転籍。1年目に起こった転機とは?
━━ enworldは、日本だと「en転職」の求人サイトのイメージが強いですが、タイではどのような事業を行なっているのでしょうか?
enworld Thailandの日系企業部門チームマネージャーを務めており、タイで展開する日系企業を中心に、タイ人と日本人の人材紹介のサービスを行なっています。en転職は求人広告サイトですが、それではなく求職者と人材が欲しい企業のマッチングというイメージです。
特色としては、タイ人のマネージャー層、専門職の人材に特化しているということ。月収5万~30万バーツ(15万円~90万円)くらいの層に絞って人材紹介を行なっています。(※タイでは新卒が月収15000バーツ、5年目くらいで25000~30000バーツほど)
タイには日系企業にアプローチする人材紹介会社は多くあり、「マネージャー層に強い」と掲げる会社さんもかなりあります。しかし、実質は新卒からマネージャーまで、かなり幅広く紹介している場合が多いのですが、enworldではマネージャー層に絞り、質の高い人材紹介に努めています。
また、ヘッドハンティングを行なっているのも特徴です。人材紹介では、転職市場にいる求職者を対象にお仕事を紹介します。それと異なりヘッドハンティングは、転職市場にいない人に対して、「あなたを求めている会社があります」と口説き落としてお仕事を紹介する仕事。本来、人材紹介とは相容れないビジネスですが、うまく住み分けを行なっています。
━━ そもそもタイを選んだ理由を教えてください。
社会人2年目でタイに転勤になったので、タイはもう丸8年になりますね(笑)。
タイに初めて訪れたのは大学時代。アメリカ留学中、3ヶ月の夏休みに日本に帰国していたとき、実家にも飽きてきたので、タイに行ったのが最初です。元から旅好きでふらっと一人旅に行くのは好きでした。
のんびり1ヶ月くらい滞在しましたが、カオサンロードに泊まってみて、面白い人に沢山出会いました。タイを起点に世界一周しようとしている人、ミャンマー難民の手伝いをしているイギリス人とか…。面白い友達が沢山できたので、それからも休みのたびにタイに行ったり、趣味程度にタイ語を勉強したりしていましたね。
━━ 人柄や文化に惹かれてタイへ何度も訪れる人はかなり多いですよね。社会人2年目からタイへ転勤というところ、詳しく聞かせてください。
大学ではゼミで組織論について勉強、アメリカ留学ではコミュニケーションについて学びました。その後、新卒で2008年にJAC Japan(現JAC Recruitment)に入社し、研修後外資系消費財チームに同期で一人だけ配属されました。
当時の組織構造は、営業部門と人材コンサルティング部門に分かれていましたが、私が配属されたチームは分かれておらず、営業もコンサルティングも両方やらなければいけませんでした。新卒でしたので、メインは新規開拓営業。後半からは人材コンサルティング部門も担当させてくれるようになり、両方の仕事をこなしていました。
しかし、2008年の秋にリーマンショックが起こります。就活中は景気が良く、人材業界が盛り上がってる時代でした。特にJAC Japanは社員も増大し、さあこれから拡大だ、というときにリーマンショックが起こったのです。クライアントも人を減らすばかり、ましてや新規採用できる企業はほぼありませんでした。
その年明け、早期退職の発表がありました。私はありがたいことに早期退職は命じられませんでしたが、その時かなり考えました。もしこの会社に残るなら、会社を立て直すくらい頑張れなければ意味はない、しかし、この先ずっとこの会社にいられるかどうかもわからない。
そのとき、ずっと相談をしていた人事部の先輩にお話を頂きました。入社当時から東南アジア拠点、特にタイへ働きたいとずっと言っていてそれを覚えていてくださったのです。JACのタイ支社でちょうど募集が出ているから、受けてみたら、というお話でした。社会人経験は1年でしたし、ダメ元で受けてみたところ営業ポジションで採用して頂きました。これが2年目でタイに転勤になった経緯ですね。
オフィスは青で統一。就業時間後でも社員が楽しそうに相談しながら仕事をしていた
人材紹介が天職! 一流人材コンサルが語る業界の魅力とは?
━━ 人材業界を新卒時に選んだのは、やはりゼミの影響が強かったのでしょうか?
まず就活当時から、海外に行きたい気持ちが強かったんです。しかし、私は文系卒業だしよっぽどのスキルがない限り、普通に営業で海外に行くのは難しい。メーカーや商社は、やはり海外に出向するとしたら男性が行くようなイメージが強いですし、女性で営業で、というのはあまり聞いたことがないですよね。それで、男女の差があまりない人材業界を選びました。
JAC Japanはその中でも特に、イギリスで女性が設立した会社なので男女の差がほぼない社風があります。むしろ、人のメンタルに寄り添い、信頼関係をいかに築けるかの勝負なので、女性が向いているとも思います。活躍なさっている女性の先輩も多く、チャンスがありそうだと思い、JAC Japanに決めました。
━━ JAC Thailand転籍の後のキャリアについて教えてください。
JAC Thailandでは新規開拓営業を行なっていました。クライアントの企業様との窓口として、直接サービスを売っていくお仕事です。ここでは4年間で約200人のタイ人求職者の転職のお手伝いをさせて頂きました。
JACはとても好きな会社だったのですが、転職したきっかけは、知り合いの方に人材ビジネスを新しく始めないか? と立ち上げのお話を頂いたことでした。業種を絞った専門性の高い人材会社で、立ち上げ当初からのメインメンバー、営業ディレクターとして参画しました。
しかし3ヶ月後、その社長が辞めることになったのでそのまま私が社長を引き継ぐことに。将来的には私が社長になるお話も立ち上げ当初にあったのですが、こんなに早く社長になるとは思ってもいなかったことでした。
1年半ほど、社長として会社経営や人事、会計などひと通り経験をしました。結局、身体を壊してしまい辞めてしまいましたが、今となっては良い経験だったと思いますね。
その後一度日本に帰国し、転職活動を再開したときにenworldに声をかけていただきました。最初は日本で就職を希望していましたが、タイで初めて日本人・日系企業チームを作るということで、今までの経験をより生かせると思い、またタイに戻ってきました。この年齢にしては、かなり色々な経験をさせてもらった方だと思います。
特に、早いうちから海外で働く経験をさせて頂いていたので、幅広く様々な業界の方とお仕事をさせていただく機会がありました。ビジネスの全体像や、マーケットの仕組みなどを掴むことができましたし、業界の横の繋がりも見えてくる。海外だからトレーニングがあるわけではなく、業界やビジネスについては手探りで学ばなければいけませんが、その分かなり人間力と経験値がつきました。
━━ 転職はされていますが、一貫して人材業界にいらっしゃるのはめずらしいケースでは?
私、人材紹介という仕事が好きすぎるんです。
外から見ると、簡単そうに見えるほどのシンプルなビジネスモデルです。しかし、採用活動をしている企業を探して、その求人に会う候補者の履歴書を送って、はいおしまいではない。
いくら履歴書などの書類を見て、企業とピッタリ合う候補者がいると思っても、実際面接をしてみると相性が合わないかもしれない。採用が決まっても、入社日にオフィスに現れないかもしれない。“人”と“人”とのことなので、気持ちが変化することもあり、家族や友人の影響を受けることもあります。仲介する立場である自分ですべてをコントロールできない、不条理なことが多い世界なのです。同時に人生を大きく変える可能性がありモラルを持って向き合わなければいけない仕事でもあります。
一方で、自分が紹介した人のおかげで会社が変わった、売り上げ伸びた、組織が良い方向に向かったなど、良いインパクトを与えたとき、人生の恩人のように感謝される仕事です。あのときあの紹介がなかったら…と、クライアントの会社さんからも、仕事を紹介した人からも言っていただけるのが醍醐味です。企業と人の架け橋となって、機会を提供し、出会いの機会を創造する。その瞬間を直にふれて見ることができるのです。その喜びが私のやりがいになっていますね。
突っ走った20代を振り返り贈る、若い世代へのメッセージ!
━━ これからの目標、ビジョンを教えてください。
The BiggestではなくThe Bestなリクルートメントチームを創りたいです。
もちろんビジネスとして売り上げは追求しますが、このチームの規模を大きくすることにはこだわっていません。タイで、核となる優秀人材、自分の右腕となるような人を探したいのであれば私に任せて、と言えるようなコンサルタントになりたいし、自分の部下にもそうなってほしい。質の高い、Bestな質のサービスを提供できる人材紹介会社を目指したいと思っています。
━━ では、最後に読者へメッセージをお願いします!
私は20代の頃、負けず嫌いで、いき急いでいました。一番になりたい、スペシャルになりたい、注目されたい。周りよりひとつ頭出たくて、チャレンジすることはすべてやる、かなりの行動派でした。しかし、今は自分でコントロールできないことが沢山あるのも知りましたし、無理して身体を壊してまでやらなきゃいけないことなんて何もないと気づきました。自分のベストを尽くしていれば、自然とチャンスは巡ってきます。
目の前には常にいくつもの選択肢があって、選ぶときはどれがベストかなんてわかりません。まずは目の前にあることにベストを尽くしていけば、自然とその選択肢がベストになるはず。やったら失敗するか、とかうまくいかないか、とかリスクを考えたらきりがないです。間違えていたら修正すればいいのです。そうすれば自然とそれが楽しく、気持ちよくなっていくもの。
いかに毎日を大事にして自分をハッピーにするか、周りの大事な人たちによい影響を与えることができるかを考えて行動すること。無理にコントロールしようとして、自分の幸せをダメにしちゃいけないと思います。
下川さん(写真中央)と社員の方々。
(取材日時:2015年12月)
インターン生募集中!
タイ人材市場のプロ、下川優さん直属のインターン生を募集しています。
Managerと近い距離で働き、質の高い吸収が出来るのは”ASEANで働く”インターンならでは。ぜひ、タイでコミットし自分の実力を試したいお気持ちのある方は、「アセナビを見た」という旨をメール内に明記の上、下川さんへ直接ご連絡ください。
enworld Thailand ホームページ
yu.s★enworld.com
(★のマークを@マークに変え、ご連絡ください)
編集後記
自分の周りには、成長に貪欲な頑張り屋な人が多いです。まだまだ自分は及ばないけれども、外から見たら私もそのうちに入っているのかもしれないと最近思うこともあります。海外に飛び出したり、自分の意思でどんどん行動する人は総じて成長に貪欲で、尊敬と同時に、頑張りすぎていて心配になってしまうときもあります。
『いかに毎日を大事にして自分をハッピーにするか、周りの大事な人たちによい影響を与えることができるかを考えて行動すること。無理にコントロールしようとして、自分の幸せをダメにしちゃいけないと思います』
下川さんは “かなりの行動派”だったという20代を振り返り、最後に、この言葉をメッセージとして贈ってくれました。若いうちに思いっきり行動して、自分の物差しというか限界をぐぐっと伸ばすことは、ある程度必要だろうと思っています。しかし、人生や仕事において、自分を大事にすることや自分の周りをハッピーにするという、幸せの大前提だけは忘れてはいけないと感じさせられました。