【タイ女性特集】今までの自分の集積を形に! 価値を出せるタイの市場でより良い医療を創り出す。BLEZ ASIA Co.,Ltd. 高田智子氏

2016.11.16

47歳にして、”自分で”海外で働くのは初めてと語る高田さん。ぼんやりと海外への憧れはあったものの、バブル真っ最中の日本で、「日本を出る理由は特になかった」という。

自分の力を試してみたい、というもやもやした思いをその頃から抱いていた高田さんが、いよいよ海外へ飛び出すことを決断した大きなきっかけとは? タイという市場を選んだ理由とは? そして、タイだからこそ、自分だからこそ提供できる価値はどう生み出していくのか?
まだまだチャレンジをし続ける高田さんに伺った。

《プロフィール|高田智子氏》
1968年生まれ。徳島県出身。関西外国語大学卒業後、(株)リクルート勤務。退社後、英国のカレッジで補完代替医療を学び、徳島大学医学部保健学科を卒業。同大学院の女性の健康支援看護学研究室の助手として勤務、総合病院で看護師、NGOにてケニアの母子保健プロジェクトを担当するなど、女性の生涯を通じた健康支援や地域医療に従事する。現在は日本人常駐ブレズクリニックの医療コーディーネーターとして、コミュニティのニーズに対応した受診・相談しやすいクリニックを目指し、住民や旅行者の健康をサポートしている。

「このままの人生でいい」という気持ちの変化

━━ 今のお仕事について教えてください。

タイ国内に薬局を5店舗構えるブレズ アジアにて、2015年8月からスタッフとして働いています。フジスーパーという日本人向けスーパーマーケット内にあります。

お薬の説明やお客様からの相談に乗ったりなど、一般的な窓口業務もしています。薬局内には私のほかにタイ人スタッフが1~2名おり、私は主に通訳として、大半が日本人であるお客様と、タイ人スタッフのコミュニケーションの仲介をしていますね。

日本の医療業界は保守的なところが多く、大きな病院だとひとりの力じゃできないこともありますが、今のような小さい場所だと小回りがきくところが楽しいですね。やりたい、これをこう工夫したい、と思ったことが実現できる。小さい薬局だからこそできることがたくさんあり、やりがいを感じています。

━━ 2015年8月からというと、まだ4、5ヶ月ほど(取材当時)ということになりますね。思い切って海外へ、というよりは、守りに入る人が大半の年齢かと思いますが、若い頃から海外には出ていたのでしょうか?

現在47歳ですが、確かにこの年齢で海外に出るのはあまり多くないかもしれません(笑) 私は、家族の関係や、留学等で海外生活は合計10年ほどになるのですが、自分が「海外で働く」というのは初めてです。

確かに若い頃から、海外には興味があったのですが、今の時代とは日本がまったく違ったのです。幼い頃から、日本はずっとのぼり調子で、就職当時なんかそれが花開いたバブル真っ只中。日本を出る理由なんて特になかったのです。このままの人生でいいじゃないか、と思っていました。

しかし、少なからず友達は海外に出ていて、あぁ行きたかったなと心の中では思っていました。家族の関係や留学で4ヶ国、計10年間海外生活をしていましたが、働いたことはなく、自分の力を試したいとぼんやりと思っていましたね。

tomoko-takata-2

3.11をきっかけに心のモヤモヤと向き合い、自分が持つ得意のコンビネーションで価値を発揮する

━━ 心の中にモヤモヤがずっとあったということが土壌としてあるのですね。では、「働く」ことを決意するきっかけは何だったのでしょうか?

3.11、東日本大震災です。日本という国を考えたときに、一番大きな、価値観の変わる出来事だったと私は思っています。人の命はこんなにたやすく失われるのか、と考えさせられ、災害が多い国のリアルを感じました。

その後日本の国政が、私が望む方向で進んでいったなら、ここまで日本を出ようとは思わなかったと思います。でも、望まない形に向かって日本がどんどん進んでいく。私の中では3.11がどんどんとリアルになっていくのに、世の中ではそれが日に日に風化して忘れられていく感覚。本来うみを出して治療しなくちゃいけなかったのに、臭い物に蓋をするように現実から目を背けているようで、ストレスに感じたのです。

このままだったらいつかおかしくなってしまう、と危機感を持っていましたが、世間はおかしいと思う様子もなく普通に戻っていってしまう。私にとってはものすごい違和感でした。国の行き先にうんざりし、危機感を覚えて声を上げたこともありました。3年くらいもがき続けたのです。しかし、もがき続けることにしんどくなってきて。

海外生活が長かったこともあり、自分の意見を言うことを一生懸命心がけてきました。しかし、日本で声を上げても、空気を読めない人に思われたり、違う意見として排除されるような感じを受けたり。もう3年間頑張ったのだから、自分が合う国へ行った方が良いんじゃないか、と思い、海外へ出ることを決意しましたね。

━━ その中で、なぜタイを選んだのでしょうか?

自分の強みを活かした仕事で、その自分が一番売れる市場はどこか、と考え選んだのがタイでした。転職前、当時日本で働いていた会社は、55歳が定年。しかし今の日本では十分な年金をもらうことは期待できない。生涯現役でい続けなければいけないと考えたときに、それができる仕事は何か?ということをまず考えました。

転職を考えた当時、もうそれなりの歳だったので、新しいことを何かできるわけではない。できたとしてもやりにくいので、それまでの自分の集積を形にするしかありません。

私が得意なフィールドは3つ、医療・語学・観光です。
37歳のときに、元々興味があった医療をもっと知りたくなり、補完代替医療を学びにロンドンへ留学をしました。日本の医療は、患者に対して最良の医療を提供しているのか?という思いがあり、ベストな解決法を自分で知りたくなり勉強しましたが、知識はあってもキャリアが無かったのです。

語学は、英語の他に第三言語・第四言語にタイ語、フランス語を学んでいました。
観光は、好きで旅行業界の会社で勤めたことがあったので、それが活かせたら、という視点です。

私はひとつの道を究めてきたタイプではないので、医療・語学・観光、それぞれひとつだけで食べていくことは難しい。しかし、3分野のコンビネーションで勝てる市場はあるんじゃないか、と考えたのです。ひとつひとつは、10段階のうちの2~3かもしれない。でも、足し算・掛け算をしたら10、もしくはそれ以上になるのでないか、と。

それで、家族の関係で昔住んでいたことのあるタイで医療に関わる仕事をしようと決めました。住んでいた頃とはだいぶ変わったものの、慣れている街ではありますし、言葉もわかる。観光大国なので、何か自分の強みが活かせるチャンスがあるかもしれないと思いました。

tomoko-takata-1

タイで目指す、これからの医療とは

━━ それでは最後に、ブレズ アジアにお勤め始めてから5ヶ月ほどですが、これからの目標やビジョンを教えてください。

実は今、ブレズ薬局に勤めながら、来月にオープンするクリニックの準備をしています。 小さなクリニックなので、ブレズ薬局と同じように小回りが利きます。「こういうクリニックだったらいいな」という場所に少しでも近づけていけたらと思っています。

人間にとって一番望ましい医療って何だろう? と、常に考え続けているんです。国、時代によって変わるものでもあるし、そのときのその人にとってのベストって何だろう、と。
私が思う理想の世の中は、どこの国でも、どんな年代でも、世界中の人たちが、自分で医療を選び、自分の健康を守ることができる世界です。医療は、その人をサポートする存在だと思っています。すぐに世界の医療を変えることはできないので、小さなフィールドでまずは実現させたいですね。

最終的には自分で何かをやると思いますね。やってみなければ、自分が望む医療が本当に正しいのかがわからないから。頭で、こういう医療があってほしい、という考えがあったとしても、それがどう社会と化学反応を起こすかわからないと思っています。

確かに私ははたから見たら専門がないように思われるかもしれない。でも、それぞれの人にとっての最良の医療の選択肢を、幅広い分野から選び取って、提案できるような人でありたいと思っています。幅広く学ぶことが好きな自分を活かせる分野が、たとえ”タイ×医療”のようにニッチな分野だとしても、まずは小さいフィールドから、最良の医療を創り出していきたいですね。

── ありがとうございました!

tomoko-takata-3

(取材日時:2015年12月)

 

編集後記

”医療・語学・観光、それぞれひとつだけで食べていくことは難しい。しかし、3分野のコンビネーションで勝てる市場はあるんじゃないか、と考えたのです。ひとつひとつは、10段階のうちの2~3かもしれない。でも、足し算・掛け算をしたら10、もしくはそれ以上になるのでないか、と。”

これは、当時お話を聞いていた自分にとっても、就活を控えキャリアや生き方を考え始めている今の自分にとっても、じんわりと響く言葉です。

当時、何も特別なものを持っていない自分への不完全燃焼感を覚えていた私にとっては、掛け算で勝負することを認められたような気がしました。Google検索で、スペースを空けて入れる単語を増やせば、検索結果が絞られるように、掛け合わせで分母を大きくしていこう、ということ。
今の私は、初めてキャリアや人生を考えてみる時期にさしかかっています。(素直で真面目なので、就活とはいえど、こういう機会には時間を投資して向き合ってみるタイプ)
ありたい姿が明確にあってそれに向かう「山登り型」ではなく、本当にやりたいことやありたい姿を模索しながら目の前のことにまずは全力になる「川下り型」である私にとって、自分の今までの行動をどう掛け算にするか、という分析と、その掛け算結果に対する自信が必要だと、改めて思わされます。

留学だったりインターンで、それまでの世界とは違う大海に出てしまうと、その分野のプロや極みに達している人に出会います。ひるんで戦闘意欲を失いがちですが、自分が持ち合わせているものの掛け算で勝負ができる、自信を持っている人でありたいです。