2016.06.12
目次
21世紀はアジアの時代!
19世紀はイギリスの時代、20世紀はアメリカの時代でしたが、21世紀はアジアの時代になると言われています。まずはこのグラフをご覧ください。アジア開発銀行の試算によると2050年における世界のGDPに占めるアジアの割合が約半分になるのです!
出典|アジア開発銀行(2011)『Asia 2050: Realizing the Asian Century』
アセナビ取材班が取材開始!
2016年5月30日(月)から31日(火)にかけて、東京都千代田区で日本経済新聞社主催の第22回国際交流会議「アジアの未来」が開催されました。世界におけるアジアの将来、アジアにおける可能性と課題について、各国の重役の方々が議論を交わしました。
主なトピックは、中国経済の成長鈍化とその世界経済への影響、インドに対する世界経済の成長エンジンとしての期待、南シナ海問題、アジアにおけるインフラ開発の重要性、TPP、RCEP、AECの今後の展望、そして少子高齢化でした。
以下プログラム順に概要と感想を述べていきます!(一部省略)
ゴー・チョクトン・シンガポール前首相による基調講演
概要
アジアにおけるアメリカの影響力、中国経済の鈍化、インド経済の台頭について言及した後、環太平洋経済連携協定(TPP)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、外部経済との結びつきが強いシンガポールにとっては大きなチャンスだと述べました。昨年日韓が慰安婦問題で合意に達したことや、オバマ大統領による広島訪問についても言及し、各国が戦争の歴史と真摯に向かい合い、協力すべきだという力強いメッセージを残しました。
感想
よくゴー・チョクトン氏は故リー・クワンユー元首相とは対照的に、優しい雰囲気があると言われますが、たしかに優しい雰囲気も漂っていました。そして何より身長が高く驚きました。相変わらずのシングリッシュでした・・・
豆知識
ここでピックアップしたいキーワードは、TPP、RCEP(アールセップ)、AECです。最近よくテレビや新聞で目にすると思いますが、それらはASEANにどのような影響を与えるのでしょうか?
この3つの枠組みをざっくり説明すると、貿易における障壁を撤廃することで貿易を活性化するためのものです。
ここでのポイントは3つあります。
1.TPPでASEAN分裂の懸念
ASEANの中でもTPPに参加しているベトナム、ブルネイ、シンガポール、マレーシアと、参加していないラオス、インドネシア、フィリピン、カンボジア、タイに分かれています。つまり、せっかくAECが2015年末に発足して団結の機運が高まっていたASEANが、TPP参加国と非参加国で分断されてしまったのです・・・
一方、RCEPはASEAN全ての国が参加しています。RCEPはラオスやミャンマーといったASEANの中でも発展が遅れている国のことを配慮して自由化度合いはTPPに比べて緩くなっています。
発展途上国は、まず安い人件費を活かして製造業の輸出で外貨を稼ぐという輸出志向型経済でまずは経済を飛躍させなければなりません。イギリスと中国がかつて世界の工場と呼ばれていたのを思い出してもらえるとイメージしやすいでしょう。
ラオスやミャンマーのように、まだ国内経済が未熟な国にとって、中国やタイで生産された商品を輸入しないとやっていけません。しかし、いつまでも輸入ばかりしていては、お金を支払うばかりで貿易収支が赤字になってしまいます。(A) ですからある程度外国商品には関税をかけておき、国内でその価格より安く生産すれば、国内産の商品が売れ始め、輸入量が減少してきます。(B)さらには外資優遇措置と安い人件費で対内直接投資を呼び込み、生産ノウハウの移転、雇用の創出が実現されれば、輸出をして稼ぐことができるのです。(C)
それを実現させたい後発国は、ある程度関税をかけることで外国から入ってくるものを調整したいのですが、先進国は関税なしで自由に輸出したいという両者の食い違いがあるため、TPPやRCEP、AECの交渉は長引いてしまうのです。
この工業化の流れを日本→アジアNIES (韓国・シンガポール・台湾・香港)→中国→東南アジアと成長を続ける様が、雁が隊列を作って飛ぶ様子に似ていることから、この経済発展モデルは「雁行型発展モデル」と呼ばれていました。
他にも、その国の経済発展度合いを国際収支の発展段階で分析する「国際収支の発展段階説」をクローサーという経済学者が提唱しました。ちょうど「未成熟な債務国」が今のミャンマー、「未成熟な債権国」と「成熟した債権国」の間あたりががシンガポールといったところです。
これらはあくまでも理論なので、グローバル化した今日では必ずしも成立するわけではなく、実際は違うことも多いですが、普通に旅行するだけでなくこういった経済理論を検証しながら旅行してみてはいかがでしょうか?
ちなみにTPPで一番恩恵を受けるのはベトナムだと言われています。中国、インドネシア、タイといったライバルがTPPにはいませんから、アメリカや日本との貿易、投資が活発化することが期待できるのです。
2.AEC不要論浮上の懸念
参加国に関しては、RCEPがAECを包含しているので、もしRCEPの自由化度合いがAECより高くなれば、もはやAECの意味はなくなってしまうかもしれません。したがってASEANはなんとかしてRCEPの自由化度合いをAEC以下のものにしたいのです。その理由は、ASEANが中国とインドに挟まれているだけに差別化を図りたいからです。
ASEANは一つ一つの国は小さく、とうてい中国やインドには敵いませんから、団結して競争力を高めたいのです。もしあなたが中国、インド、ASEANに同じ条件で投資できるなら、言語や商習慣が国によって違うASEANより、中国やインドを選ぶのではないでしょうか?でも中国やインドより好条件ならASEANを選びますよね?だからASEANは自由化度合いをAEC>RCEPという構造にしたいのですが、中国とインドは逆にしたいのです・・・
3.日米主導のTPPと、中国主導のRCEP
TPPとRCEPの裏には、アメリカVS中国という構造があるのです。だからTPPに中国はいませんし、RCEPにアメリカはいないのです。その両者に参加している日本は、TPPでの交渉経験をRCEPでの交渉にも活かすことが期待されています。
パネル討論「試練に立ち向かう 世界経済の見通し」
左から菅野幹雄氏(日本経済新聞社 編集委員 兼 論説委員)、スディール・シェティ氏(世界銀行東アジア・大洋州地域総局チーフ・エコノミスト)、裴長洪氏(中国社会科学院経済研究所所長)、木下智夫氏(野村證券投資情報部チーフ・マーケット・エコノミスト)
概要
世界経済の見通しは暗いが、アジア経済、とりわけインドは比較的好調とのこと。欧米に関しては、イギリスのEU離脱問題について、アメリカの利上げがもたらす新興国への影響についての言及がありました。中国経済の鈍化については、不動産投資や財政出動といったものではなく、個人消費やサービス業の割合を高める、つまり産業の高度化による新たな成長モデルを模索することが必要だという共通認識があったようです。
感想
世界経済の成長エンジンは中国からインドへと変わりつつあるのだと強く感じました。下記の人口の推移でインドが中国を抜くタイミングで、アジアの中心はインドになる気がします。大国である中国とインドの間に挟まれるASEAN各国は、単独では小国でも、ASEANとして団結することで対抗しようとしているのです!
出典|国連HP "World Population Prospects ;The 2015 Revision" 中位推計より筆者作成
ここふと思ったことは、中国が成長すると日本は妬むのに、インドやASEANの成長は応援するような雰囲気があるということです。(自分だけでしょうか?)日本はきっとGDP第2位の座を奪われてから中国に嫉妬しているのではないかと思います。その気持ちも分かりますが、そこで勝負するのは無理があるので、もっと他の面で勝負すべきではないでしょうか。
レ・ルオン・ミン・ASEAN事務局長による講演
概要
AEC発足による関税撤廃や原産地証明の簡素化を皮切りに、金融、物流インフラの連結性向上を進めることで一層経済の強化を図りたいとの意気込みを語りました。南シナ海における中国との争いに関しては、話し合いで解決すべきだと主張しました。
感想
正直AEC発足による変化は日本で普通に生活しているだけではあまり感じられませんね・・・
石毛博行日本貿易振興機構理事長による講演
概要
TPPの合意は大きな意義を持つが、課題はアメリカが批准するかどうかだとのこと。アメリカ大統領選挙ではTPPに消極的な共和党のドナルド・トランプ氏と民主党ヒラリー・クリントン氏が争っているが、いずれにせよアメリカにプレッシャーをかけて批准させることが必要だと論じました。
感想
アメリカにプレッシャーをかけられてばかりではなく、かけるというのは新たな視点ですね。カメラ目線ありがとうございます!
セサル・プリシマフィリピン財務相による講演
概要
「世界最優秀財務大臣賞」に5年連続6回選ばれ、かつ「アジアの病人」と呼ばれたフィリピンの国債を投資適格にまで格上げすることに貢献したプリシマ氏は、「成長の制約をなくすこと」、「様々な脅威への緩衝材を作ること」、「将来への架け橋を作る」の3つを通して世界からアジアへの信任を高めることの重要性を唱えました。
感想
6月末にフィリピン大統領に就任するドゥテルテ氏がどのようなフィリピンを築くか、目が離せませんね。
スン・チャントル・カンボジア公共事業・運輸相による講演
概要
ASEANの中でもTPPに参加している国としていない国があり、参加していないカンボジアとしてはASEAN全体が参加しているRCEPを合意することの必要だと強調しました。
感想
カンボジアにとってTPPは求められる水準が高すぎてRCEPにしか参加していません。発展しているシンガポールはRCEPよりTPPの方に注目が行きがちですが、まだ国内経済が未熟なカンボジアはRCEPへの関心が高いようです。ここにシンガポールとカンボジアの経済格差が露呈していました。
ちなみに、スン・チャントル・カンボジア公共事業・運輸相の英語はとても力強く、かつ聞き取りやすかったです。
以上で1日目のレポートを終わります。1日目の目玉はゴー・チョク・トンシンガポール元首相でしたが、2日目の目玉はマハティール・ビン・モハマドマレーシア元首相です!