2015.12.18

「サラリーマン時代にリスクだと思っていたことは、本当は全然リスクではなかった」と話す森井氏。楽天・ユニクロを経てセブで起業した同氏は、なぜ起業を目指したのだろうか?そして、どうしてセブを目指したのだろうか?日本に一時帰国中だった同氏に、その想いの内を取材した。

《プロフィール|森井健太氏》
1987年生まれ。2010年4月に楽天株式会社へ入社。電子マネー事業部に配属後は大手法人の新規開拓とルート営業を行う。2013年9月より株式会社ユニクロ(ファーストリテイリング)へ入社。店舗マネジメントに携わった後、フィリピンのベンチャー企業、ユナイテッド・リグロースのBPO事業責任者として0から事業を創る。その後2015年27歳の時にフィリピンにてTask Share,incを設立し現在に至る。

 

セブでアウトソース事業を経営。若き経営者がセブを選んだワケ

ー現在経営をされている会社「タスクシェア」の概要を教えてください。

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画像編集の受託案件をメインに、アウトソーシング事業を行っています。主に、Adobeのソフトウェアを使用してできる仕事はすべて請け負っており、10名ほどの社員とフィリピンのフリーランサーと組みながら仕事を動かしています。

タスクシェアの事業内容TASK SHAREのHPより)

 

ーアウトソースを行っている企業は他の国でも展開していると思うのですが、どうしてフィリピンのセブだったのでしょう?

住みやすさもさることながら「現地に住んでいるフィリピンの人が好きだから」という理由が大きいですね。一緒に働いていてもあまりストレスを感じることはないですし、楽しいです。

他にも、フィリピンの市場が大きくなっていくということと「英語」が通じるのも決め手の一つになっています。

例えば、ベトナムでは国をあげてITに力を入れているのでスキルがある人が多いですけど、まだまだ英語を話す人は少なく、コミュニケーションを取る際に通訳を入れる必要があることもしばしば。けれど、コミュニケーションコストは、アウトソーシングのビジネスをしていくうえで利益を出す為の大事なファクター。もし従業員と自分の間に通訳を入れるというコストが発生してしまうと、価格競争力で勝っていくのは難しいと思います。

 

楽天、ユニクロで最強の仕組みの何たるかを知る。

森井さんの過去について伺っていきたいと思います。起業に至るきっかけを教えてください。

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新卒では、営業職として楽天に入社しました。日本のサラリーマンが、1年でほぼほぼ身に付けられるようなことを何年もかけてやっていくということを目の当たりにして、それでは自分自身の成長が鈍化するなって思ったのです。

働いていく中で、起業したいという思いが強くなって。けれど、いきなり起業するのではなく、ファーストリテイリング(ユニクロ)に転職します。そこで見たのは、おそらく日本企業の中で最強の仕組みでした。すべてがマニュアル化されていて、例えばお辞儀の角度から服をたたむ折り目のライン、さらにその折りたたむのを何秒間で出来るか、という具合です。また、判断基準・評価基準がしっかりしているので、従業員は自走できるし働き方も効率が良いんですよ。

そこで思ったのは、会社という仕組みの中で働くことに楽しさ・生きがいを感じることは容易なのですが、会社の外に出ても生きていく力・稼ぐ力というのは身につきにくいということです。けれど、たとえ仕事がどんなにハードで体を壊したとしてもなかなか抜けられないんですよね。なぜなら、仕組みの中なので居心地が良いからです。会社に長くいればいるほど、その中だけでは、できるようになってしまうということですね。

楽天を退職してからファーストリテイリングに転職する間に、フィリピン留学に行きました。海外に暮らすのは初めてだったのですが、そこでセブを気に入ったのと、まだまだブルーオーシャンだと感じたんです。ファーストリテイリングを辞めた後、セブのベンチャー企業ユナイテッド・リグロースで1年ほど働き、そのあと起業しました。それが、現在のタスクシェアです。

 

ーなるほど。稼ぐ力は企業の仕組みの中にいると身につくのに時間がかかってしまうんですね。では、もしもう一度新卒のころに戻ったとしたら、いきなり起業しますか?

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うーん、当時に戻ったとしても就職しますね。

というのも、働く上で日本人であることの価値って、良い仕組みを知っていることだと思うからです。成功している会社と伸び悩んでいる会社、それらが歩んできた道筋を知っているからこそ、横展開ができる。だから、有名企業に入ると成功するまでの道筋を中から知ることができ、一度身に付ければアジアの小さなベンチャーに転職したとしても重宝されます。

ただ、長く働く必要はないと思っていて、ビジネスが回る仕組みを見て、理解することが大切ですね。

 

ー「仕組み」というキーワードが頻発していますよね。具体的に、前職で学ばれた仕組みは現在の経営にどのように活きているのでしょうか?

判断基準を明確にすることですね。

フィリピン人のスタッフの人たちには、どこまでなにをやっていいか、ということをかなり細かく指定しています。そして、フィリピン人のリーダー・マネージャーレベルの人たちには、どこまでの決裁権があるか、というところまで明確化しているのです。

組織で働いてもらう人一人ひとりのポジションに沿った判断基準と評価基準を落とし込むことで自走して働いてくれるようになり、それが組織全体の生産性に繋がります。

例えば、組織としてすべき仕事が100あったとして、従業員が行う仕事をX(エックス)とすると、自分の仕事=100-Xですよね。実務レベルの仕事でいうと今はそれが限りなく1とか2という数字になってきています。小さな会社だからできることなのですが、そのXを最大化することが、経営者としての仕組みの作り方だと思っています。

 

「リスクだと思っていたことは、全然リスクじゃなかった。」

ー現在の仕事がすべてではなく、これから先のことも考えられていることかと思います。どんなことを仕掛けていくのでしょうか?

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みなさんも感じているように、日本の働き方は異常なところもありますよね。だから、働き方に影響を与えられるようなことしていきたいと考えています。もっと色んな意味で働き方の自由度の高い世界を実現したいです。

けれど、どのような形で実現していくかとなるといまはまだ無理して考えてはおらず、まずは経営者としてきちんと結果を出せる人間になりたいと思っています。だから、これからというより、いまはまだ修行の身です。

 

ーセブでビジネスをしてから、何か変化を感じられましたか?

お会いすることのできる人のレベルが上がってきているのを感じます。質の高い情報や経験をしている人達から刺激を受けて、そこに楽しさを見出しています。

ビジネスって、例えばサラリーマン同士の新規事業として決まる内容は、期待値としてじゃ小さいのが一般的ですよね。じゃあ、大きな仕事はどこから出てくるのかっていうと、それは経営者と経営者の話し合いからなんだと感じました。

例えば、一緒に食事をする中で「こういうことをやりましょう」と話題に出たものが、そのまま大きな仕事につながっていくようなことが、ビジネスの世界で普通にあって。だから、経営者との食事の席でも相手が頭を働かせているなというのがわかります。

単純に魅力的な人たちと話すことが面白いです。その経験を増やしていくためには、自分がもっと経営者として認められる存在になる必要があるので、まずは稼ぐというところに注力すべき。事業を行う中で、明確なビジョンとかミッションが見えてきたら、そこに集中できるじゃないですか。だから、市場自体がスケールしていくASEANのセブから、事業を行っていきたいです。

 

ー海外に出てきて、良かったと感じられたことはなんでしょう?

サラリーマン時代にリスクだと思っていたことは、本当は全然リスクではなかったことですね。

リスクと聞いて、思いつくのは金銭的なリスクが一番だと思います。日本にいたときよりも、はじめセブに来た時には給料は3分の1ほどに減ってしまったし、キャリア的に泥がつくんじゃないか、そうすると元の生活には戻れないんじゃないか、という不安があったのは確かです。

でも、それは違うと感じました。自分さえしっかりしていれば、生きていけるんです。もちろん、貯金は減っていくかもしれませんが、稼ぎ口はありますし、リビングコストが安い分、やっていけます。長期的に見たら、セブに来たことで自分の市場価値が上がったと思っていますし、人生全体で見たらお金のことなんて全然大した問題ではありません。ぼくの経験でいうと、昔から憧れていた企業から素晴らしいポジションでオファーをもらえることだってありました。だから、それまでリスクだと思っていたようなことも、環境を変えてみたら、決してリスクではなかったんだなあと。

 

ーありがとうございます。それではさいごに、読者の方へのメッセージをお願いします!

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一度は「海外に住んでみる」という経験が必要で、短期の旅行ではなく1, 2ヶ月以上は住んでみるという経験が大切です。ぼくの場合は、フィリピン留学でした。

なぜ大切かと言うと、価値観が180度変わるから。今まで、普通に日本で暮らしていたら生き方って限定されていたはずなんですよ。だって、みんな敷かれたレールを辿っているだけだから。

高校、大学行って、それからサラリーマンになるわけですが、そのまま一生過ごしていくということは、レールの上に乗っかっているだけですよね。

けれど、一度海外で住む経験をしてみると、レールからずれることができて、客観的にいままでの人生を振り返ることができるのです。確実に。地理的な距離を取って、会う人も変えてみると、自分の中で何か変わるものがあるはず。今も何かに行き詰まりを感じたら今いる場所から距離をとるように心がけています。物理的に距離をとれば強制的に出会う人も変わってくるので客観的に物事を判断出来ますよ。

そのあと、帰国してからまた同じ生活に戻るのもいいと思っています。ただ、海外の違いを知る、という経験と、自分を客観視することは、とても大事なことなのではないでしょうか?

(インタビュアー:武正 ライター:磯部 編集:永瀬)