シンガポールで永住権を取得、そして起業。日本のコンテンツの新たな可能性を追求し世界へ発信するVivid Creations代表 齋藤真帆氏

2015.11.27

「日本には海外にない良いものがたくさんある。それに気づいていない人が多いけれど、外部から見ると日本のコンテンツは可能性に満ちているんです」
27歳でシンガポールの日系企業に就職。そこで感じた日本のコンテンツの可能性。それを世界に発信したいとシンガポールで起業した齋藤真帆氏。現在は今年スタートした日本オフィスを拠点にその事業内容を拡大させている。シンガポールという日本の外を経験した今だからこそ見えてくる日本の可能性について伺った。

《プロフィール|齋藤真帆氏》
大学を卒業後、出版社を経て2005年某メーカーで海外プロジェクトに携わり、約1ヶ月間台湾で働いた経験から海外移住を決意する。2006年にシンガポールの日系企業に就職したのち永住権を取得し、2009年にイベント、展示会の企画運営及びマーケティングを行うVivid Creations Pte. Ltd.をシンガポールにて立ち上げる。2014年4月よりシンガポール和僑会会長に就任。2015年2月よりVivid Creations日本オフィスを開設。

 

本質は変えずに、別の新しい価値を創り出す

−事業内容について教えてください。

Vivid Creationsはシンガポールと東京を拠点として、日本の良質なコンテンツ・サービス・商品を世界へ発信し、現地の人々に確実に伝えるためのコミュニケーションをデザインする会社です。日本の企業や地方自治体の海外進出サポートとして展示会やイベントの企画・運営を行ったり、日本の商材のマーケティングや包括的なプロモーションサービスを提供したりしています。また、自社企画として「リアル脱出ゲーム in Singapore」や「立川志の春英語落語」などの文化イベントも毎年行っています。

FireShot Capture 23 - Vivid Creations Concept Guide - http___vivid-creations.biz_special_pc_jp.html(思わずどんどんスクロールしたくなる会社概要ページ)

−日本の文化を世界に発信するにあたり、重要視していることは何ですか?

日本の良いものを、本質を変えずに別の新しい価値としてクライアントや現地の人と一緒に作りあげることですね。完全にローカライズするというより新しい価値の創造が大切だと感じています。

私がシンガポールに来たばかりのころは今ほど日本のモノがあったわけではなかったので、とりあえず日本の商材であれば売れるというような風潮でした。しかし今は、生活のさまざまなところに日本文化が入ってきている状態で、逆に海外の良質なものもたくさん輸入され、日本へのリスペクトが少しづつ薄れてきている状態です。だから日本推しをするのは難しくなってきているし、ただ単に日本推しするだけなら私たちじゃなくてもできるな、と。

また、自社イベントであるリアル脱出ゲームの第4弾あたりで客足が伸び悩んだ時期があって。他社の類似した施設などが出始めた時期でした。そのときシンガポールのお客さんからは、もっと装飾やフィジカルなアクションやビジュアルでわかりやすい仕掛けがあったほうがいいというフィードバックを受けました。日本でやっているものをそのままシンガポールでやっていては伸びないなと感じたんです。

そこで現地の人たちにもっと耳を傾けて、彼らと一緒に作っていったらどうなるだろうと思い、ローカルスタッフに担当を任せたり、いつも手伝ってくれる現地のボランティアスタッフをチーム化して意見を聞いたりしました。ローカライズとそれを超える新たな価値を生み出す重要性に気づいたのもこのときです。

パッケージやコピーライティング、味の種類などを現地好みのものにすることを通して、現地の人に喜ばれる新しい商品にする。そこにもっと日本の商材の可能性がある、その追求がすごく楽しいんですよ。

もともとあるいいものを変えてまで…と思ったこともあったのですが、そこに固執している時代ではないと思うんです。人の価値観も変化してきていて、国境も薄くなってきている時代。人それぞれの趣味や嗜好が多様化しているのに、商品を伝えるメッセージが変わらないと伝えられる人の範囲が狭くなってしまう。そこのフレキシビリティというか、何でも変えて良いというものではないですが、状況に応じてその人が必要としているような形に調整していく必要があるなと感じます。

齋藤さん2(ローカルのスタッフと一緒に作り上げたリアル脱出ゲーム inSingapore 第6弾『ESCAPE FROM THE MOON BASE』での一コマ。)

 

マイナーだったシンガポール就職という選択、そして起業。

−どうしてシンガポールで起業するに至ったのですか?

26歳で転職を考えていたときに、「海外で働いて生活をしてみたい」というのが一番にあったんです。そのころはシンガポールで働くなんてまだまだマイナーなことで、日本にとってシンガポールは未開の地でした。

しかし調べていくと、様々な国の人々が暮らす国際的な国で、安全だし給与水準も日本とあまり変わらないとのこと。ビザに関しても敷居がとても高い欧米に比べて、シンガポールは比較的取りやすい国でした。「シンガポールいいかも!」というような気持ちで現地の日系企業に就職したんですよ。

そして2年弱その企業に勤めていたんですけど、その間にミュージシャンの知人にシンガポールツアーのアレンジを依頼されて。スポンサーもついて300人くらいのお客さんが集まったんですよ。この時期に永住権も取得できたし、フリーランスで日本人アーティストのイベントのコーディネーションを行うようになりました。

シンガポールに住んでみると、今まで気づかなかった日本の良さを身に沁みるように感じ、日本の素晴らしいコンテンツをもっと世界に伝えたい! と思うんようになったんです。そのうち大きな案件が増えてきて、「あれ?イベントって一人じゃできない!」と気づき起業することにしました。

 

−起業するにあたり苦労したことはありますか?

ポジティブで何でも気合いで乗り切るタイプなので、あまり苦労したと思うことはないですね。登記や経営のことも素人でしたが、知らないからこそ何が苦労なのかもわからずに進めることができました。

また、シンガポールは小さい国なのでいい意味で狭いコミュニティなんです。日本では会えないような大手企業の経営者の方々などに普通に会えちゃう。こんなことをやりたいんです!といろんな人に伝えていたら、協力してもらえたり関連のある人を紹介してもらえたりと、人と人とのつながりで支えられてきました。

 

日本に逆進出して気づいたこと

−今年の2月に日本オフィスが本格始動し、最近は東京中心に活動されていらっしゃるとのことですが、東京に帰ってきて変わったことはありますか?

齋藤さん3

日本の状況を見て、それに応じて必要とされていることが思っていた以上にたくさんあり使命感が出てきました。というのも、今は日本でインバウンドが盛り上がっていますよね。でもその考え方が一辺倒すぎるんじゃないかと。日本では極端に言うと、インバウンドって中国の方の爆買いなどばかりを思い浮かべてしまってそこに焦点を当てがちですが、外国の方すべてが爆買いするために日本に来るわけではない。

ショッピングや食文化だったり空間や場所そのものだったり、日本を楽しむスタイルは人それぞれです。様々な国に対応したインバウンドというものを意識していない気がして、なんだか外から見たインバウンドと国内での盛り上がり方にズレがあるなあと感じますね。

私たちが思っている以上に日本は特殊な国だと思います。日本食や文化、歴史と独自の強い文化がある一方で、海外のことが思いの外見えていない。日本では海外の情報って、日本語化されている主要な情報は意識しなくても触れられますが、それ以外の情報は意識しないと「英語だから」というだけでスルーしてしまいがち。

シンガポールは公用語が英語ということもあり、意識しなくても海外のメディアから当たり前のように情報収集できているんですね。日本では英語という一見大きな壁によって情報収集ができていないのに、外国人を受け入れようとしていたり、海外に発信しようとしていたり。知る努力より先に、売る努力に注力しちゃってる。これでは日本に訪れる側にも受け入れる側にもお互い良くない。長期的に見て、双方がもっとコミュニケーションをする必要があると思います。

そこで日本で今、私たちができることは、情報をつなげることです。発信する側に対しては、発信する情報を何にするか、どうやって発信するかという「発信したいものの棚卸し」をする。そしてシンガポールで培ってきた海外とのコミュニケーション力やマーケティングの知識で発信される側のニーズを捉える。そうしてインバウンドに限らず、発信する側と発信される側のニーズのズレを直していきたいなと思います。そのアウトプットも単発のイベントだけではなく、1つの事業として包括的なものになってきています。

 

−世界において日本文化に対する需要は大きいのでしょうか?

よく需要があるの?と聞かれますが、無いのだったら作ればいいじゃん!と思いますね。

「需要があるなら行きます…つまり無いなら行きません」というような風潮がありますが、世の中そんなにどこにでも需要があるわけではないですよね。それが文化なのかモノなのかわからないですが、それに関するその土地の情報がなかったら需要も何も…という話です。リサーチして、実際にトライしてみて需要をどう作っていくかを考えるべきです。

 

「どちらでもない」と言える日本人の強み

−「コミュニケーションをデザインする」仕事のやりがいは何ですか?

齋藤さん4

クライアントと意見が違ったら、そんなときこそ異質なものをつなげる腕の見せ所です。

人って自分が良いと思うことをぶつけあって、どちらが正しいか見つけるために議論していることが多いんですけど、自分の意見を100%押し通すのではなく、クライアントの意見をしっかり聞き理解する。そしてお互いの良い部分を寄せ集めて、さらにパワーアップしたソリューションを見つけ出せたときにとても楽しいですね。自分の意見を押し通そうとすることよりも、それをも凌ぐアイディアを生み出すことのほうが大事ですからね。

それにこれからの時代は、柔軟に様々な人の意見に対応できて問題を解決できる能力を持つことが重要です。その点では日本人は長けていると思うんです。欧米は白黒はっきりさせる文化で、日本は「どちらでもない」という曖昧な表現をよしとする文化じゃないですか。欧米の人は、こうした点で日本人は中途半端だ、自分の意見がないなどと言いますがそれはナンセンスですね。日本人は相手のことをまず受け入れて理解する能力に長けていると思っています。AとBどちらかに決めなければならないというわけではない場合もあって、AやBを踏まえてCという案もあるよ、というように両者の良いところを抽出してより良い提案ができたら、日本人としての価値を見出せる気がします。

今までは「仲介役」といったような高貴ではない言葉で表現されてきましたが、海外と日本がこれだけ繋がれていないのだから、「コミュニケーションをデザインする」ポジションがもっと必要だと思いますし、これから海外に出る人はそうした部分を持ち合わせていてほしいですね。そうすれば日本人であることも否定的ではないし、もっとのびのびと日本人として世界で活躍できるんじゃないでしょうか。

 

現地採用…やる気があるんだったら来い!

−海外でファーストキャリアを築くことについてどう思われますか?

最近は海外に興味がある若者が減っているということをよく耳にするのですが…。でも求人募集が出てる出てないに関わらず、やる気があるんだったら来い!という感じですね。海外ではやる気のほうが大事だと思います。もちろんある程度スキルがないと出来ないポジションはありますが、やはりやる気が大前提。

私たちの会社は当初新卒採用をする予定はなかったのですが、数年前ある女子大学生が目をキラキラさせながら働かせてください!と門を叩いてきて。そのやる気みなぎる感じに圧倒されて採用しました。うちはベンチャーなので自らで成長しなければいけない部分が多かったり、日系企業とのやりとりが多いので日本のビジネスマナーが必要とされたり苦労も多かったと思いますが、今では会社を支える重要なスタッフの一人です。私も彼女は凄いなと思いますね。

 

将来のことはわからないほうが楽しい。

−Vivid Creationsと齋藤さんの今後の展望は?

齋藤さん1

日本のコンテンツを広めるネットワークや仲間を世界に作っていきながら、どんな形でもいいので面白くなっていればいいなと思います。それしか考えていないです。気持ちのいい仲間やクライアントさんと楽しい仕事をしていたい。

私個人は、良い意味で宙ぶらりんな存在でいたいですね。しばらくは日本にいると思いますが、シンガポールが好きだし、日本にいると国内で完結してしまうドメスティックな感覚に知らぬ間にどっぷりと浸かってしまうんですよね。その感覚に呑まれないように必死にフワフワ浮いている状態でいたいです。呑まれる!と思ったら他の国に行くかもしれないし、5年後の姿は?と聞かれてもわからないですね。逆にわからないほうが楽しいかな。目標はきっと大事だと思うけれど、これだけ早く変化する世の中で5年後なんてわからないし、逆に決めちゃうと可能性をそこで狭めてしまうかもしれないですしね。

 

ABOUTこの記事をかいた人

新多可奈子

東京大学文学部3年。初めての海外経験がマレーシアだったことから東南アジアに興味を持つ。シンガポールに半年間の滞在経験あり。観光地や有名どころに行くのも良いが、現地の人々と触れ合うのが好き。モットーは「心の声に耳を傾ける」。皆さんがワクワクするような記事を提供できたらと思ってます。