8月の後半、秋の足音が聞こえてきそうな晩夏のこと、あるトークセッションが開催されました。

国際交流基金主催の「アートでつながる ダイバーシティ社会」です。そこに集まったのは「アート」「ダイバーシティ」をキーワードに、国内外で活躍するアーティスト、ディレクターの4名。

今回は、そのイベントレポートを発信します。

ダイバーシティって?イベントの概要をご紹介!

【アセナビ】ダイバーシティ

まずは「ダイバーシティ」という言葉の定義からはじめるとしましょう。

モデレーターを務める田村さんは、「ダイバーシティ」を単に「多様性」と訳すバラバラな状態ではないと話します。「色々な違う種類のものが存在しながらも調和がとれ、互いにつながりあっている状態」がダイバーシティです。その違いというのは性別や国籍、人種に留まらず、思考やライフスタイル等も含みます。

それでは、今回のイベントの概要をご紹介します。

現在、社会の多様な局面において、多言語化、多文化化への対応が求められています。日本国内でも、異なる文化背景を持つ方々と同じコミュニティーで生活し、働く機会が増える一方、国籍や文化、言語の違いがコミュニケーションの壁となっているのが現状です。そんな中、アートを介して、価値観や文化の違いを認め合い、共有していく取り組みが始まっています。

(引用:国際交流基金 – JFICイベント2015 トークセッション「アートでつながる ダイバーシティ社会」

そこで登壇されたのは、「アート」「ダイバーシティ」をキーワードに活動されている4名でした。

20150825_202203(提供:国際交流基金、撮影:Kenichi Aikawa)

【モデレーター】

  • 田村太郎氏 (一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事)

【スピーカー】

  • 岩井成昭氏(美術家 イミグレーション・ミュージアム・東京 主宰)
  • 海老原周子氏 (非営利団体新宿アートプロジェクト 代表)
  • 山下彩香氏(EDAYA Co-founder/ディレクター/デザイナー/リサーチャー)

一体、どんな内容だったのでしょうか?

それでは早速イベント開始です!

 

登壇者の活動紹介プレゼンテーション!

まずは、美術家であり、イミグレーション・ミュージアム東京を主宰されている岩井さんのプレゼンです。



IMG_8177「今の活動をするきっかけになったのはオーストラリアでの体験から」と話す岩井さん

(提供:国際交流基金、撮影:Kenichi Aikawa)

岩井成昭氏
美術家/秋田公立美術大学教授/イミグレーション・ミュージアム・東京主宰

1990年より特定地域に長期滞在した調査をもとに、映像、音響、テキスト、インスタレーション、展覧会企画、などを複合的に使用した視覚表現を展開。近年はそれまでのテーマに加えて、異世代間の交流や、多文化研究活動を並行して実施中。特に多文化化から派生する問題への関心は強く、欧州・豪州・東南アジア・日本における多文化状況の調査を踏まえて「イミグレーション・ミュージアム・東京」を2011年に始動させ、市民、学生、アーティスト等と協働するプロジェクトを毎年実施している。

イミグレーション・ミュージアム・東京とは、現代アートの手法を用いて、日本に暮らす外国人の生活に根ざした異文化を紹介・共有する「市民によるコミュニケーション・プロジェクト」です。

作品として表現することによって、言語の壁を超えたコミュニケーションのきっかけへとつながります。

岩井さんが行ってきたこととして、例えば市民と日本に住む外国人が一緒に街歩きをして、その感じ方や文化の違いを見出していくような取り組み、また、フィリピンコミュニティのある足立区の教会とコラボをしてイベントを開催するなど。外国人が持つ文化を保持させながら、日本の文化と融合させていく。それによって、双方にとってのコミュニケーションのきっかけを作っていく。

そんな取り組みを岩井さんは行っています。

(参照:イミグレーション・ミュージアム・東京

 

次に、EDAYAの山下さんのプレゼンです。


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活動の源泉にあったのは、自身のハンディキャップからだと言う山下さん

(提供:国際交流基金、撮影:Kenichi Aikawa)

山下彩香氏
EDAYA Co-founder/ディレクター/デザイナー/リサーチャー

1985年生まれ。東京大学農学部、同大学院医学系研究科卒。その後、訪れたフィリピンでの出会いが転機となり、2012年、フィリピンにて北ルソン山岳先住民族の無形文化に着想を得たジュエリーや楽器を扱うブランドEDAYA ARTS CORDILLERA CORPORATIONを起業。現地における無形文化の調査や教育活動も同時に展開する。また、アジアの地方同士学びあうという視点で、現地と日本の地方を、竹をキーワードにつなぐ、アートプロジェクトなども企画してきた。

実は、以前アセナビでは山下さんにインタビューさせて頂いておりました!
現地の資源を活かしながら現代にも受け入れられるジュエリーを販売したり、フィリピンの方を日本の地方に呼んでワークショップを行ったりと活動の幅は広がっています。

時代に迎合しない人たちへ向けて、フラットな社会を作っていくための作品。文化は無形のものですが、手に取れる有形に落としこむことでマイノリティを理解するきっかけになります。

参照:「文化復興で途上国に新たな発展のカタチを」途上国で仕掛ける理系女子 山下彩香

 

3人目のプレゼンテーションは海老原さん。

IMG_8192鬼のようにワークショップを行ってきたと話す海老原氏。

(提供:国際交流基金、撮影:Kenichi Aikawa)

海老原周子氏
非営利団体新宿アートプロジェクト代表/通訳(日英)。ペルー・イギリス・日本で多様性・多文化に囲まれて育つ。慶應義塾大学卒業後、独立行政法人国際交流基金や国際機関で勤務。自らが「外国人」として育った経験から、文化の違いからもたらされる偏見を乗り越え、多様性を受け入れる経験が重要と考え、2009年より移民と日本人の若者が共同制作を行うアートワークショップ事業を立ち上げる。アートを通じて多様性を楽しみ、人生の糧となる経験を作るべく、非営利団体新宿アートプロジェクトを設立。

“Intercultural Youth & Children = Social Potential”

をテーマに、色々な文化背景を持った若者がワークショップを行ったり、ダンスパフォーマンスをしたりと、自己表現をしていく活動をされています。

活動を始めてから7年ほど経過し、関わってくれる若者にも変化が見られてきたとのこと。それは、20代の若者や高校生から「企画をしたい」「一緒に活動したい」という能動的な声を聞くようになったからです。多文化共生の社会ですが、まだまだ機会へ手の届いていないところで暮らしている若者はたくさんいます。そんなひとたちを育成していき、発信していくことを大切にされていました!

 

さて、ここからはディスカッション形式でトークが繰り広げられます。

 

ダイバーシティな環境が変化していく中、これから求められていることとは?

ここでモデレーターの田村さんから「現在行っているプロジェクトを他地域へと拡大していくにあたっての壁」というテーマについて、それぞれ意見を述べていきます。

20150825_9200(提供:アセナビ 撮影:Mari Koshimura)

*ここから敬称略。
(岩井)日々の暮らしをがんばっているひとにこそ届けていきたいのに、時間が取れない人をなかなか巻き込めないことが課題です。アートは、その良さを感じられていないひとにとっては余分かもしれません。そういうひとたちの認識を変えるほどのメッセージを伝えていきたいですね。


(山下)この活動を通して社会的インパクトを出していきたいと考えています。そのためには、自分たちの活動によって様々なひとへ影響を与えて、そのひとたちがそれぞれの地域で新たなことを展開していくことができればいいなって思っています。「出口をたくさん提供したい」、つまり一連のプロジェクトの所々に気付きを得てもらいたい、自分もやってみようと思ってもらいたい。そのためには、仕組み作りに注力していきたいですね。


(田村)社会起業も、ある意味アートに近い部分がありますよね。0から1を作っていくというか…


(山下)そうですね。結局現地のひとが自分で行動を起こすことが大切ですものね。

20150825_2534(提供:アセナビ 撮影:Mari Koshimura)

(海老原)わたしはこれからの展開にあたって3つの課題があって、1つは「繋ぐ」ことです。“A”と“B”をくっつけるだけじゃ伝わらないことがあって、その間に立つ存在でありたいと思っています。例えば同じ年代、友だちが欲しい人たちをつないでいきたいですね。

2つめが「育てる」。次の担い手となるロールモデルになる人を増やせればなと思っています。

そして3つめが「作る」ことです。わたしがいなくても回っていく仕組みや多様性がプラスになることが当たり前になっていくのが理想ですね。そこで重要になってくると思うのが、パッションやビジョンの共感がなされているかどうかという点です。

20150825_9327(提供:アセナビ 撮影:Mari Koshimura)

人を惹きつけるには、ロールモデルとなるひとを見つけていく仕組み作りが大事なのでしょう。

ディスカッションのあとは、会場からの質問が飛びました。

「多文化共生への認識が、“興味”から“問題の源泉”へと変わる中、多文化の意味とは?そんな環境の中で、関わるひとが使命感を持って行動できる条件とは?」

20150825_201626

(山下)どれくらい自分事にできるかどうかだと思います。フィリピンでつくったものを先進国で販売していますが、普通、買う側はフィリピンのことなんて関係ないんですよね。それを打破するために、プロジェクトを動かす側ができることは「ストーリー化」していくことです。

(海老原)Win-Winの関係をつくることですね。例えば、わたしは一緒に活動してくれる新たなメンバーがはいったときには必ず「なにしたいの?」と聞いています。その人がやりたいことと私がやりたいとの接点を見つけ、共通の目標を作っていく。そこにこだわっていますね。

(岩井)コミュニケーションをしながら別の価値観に触れ、新たな気付きを得る一連のアートが楽しい、これにつきます。意義もあるしスリリング。それは、違う価値観を持っているひとと行うのが楽しいわけで、一人ひとりが楽しんで関わっていくことが源泉だと思いますね。

20150825_2021(提供:アセナビ 撮影:Mari Koshimura)

 

「これから5、10年で多文化だったりダイバーシティな環境はどうなっていくと思いますか?」

(山下)若い世代はダイバーシティへの認識がフラットになっていると思いますね。ですので、社会の流れもいまよりもっとフラットになっていくのではないでしょうか。

(海老原)ひとの移動に対するハードルが格段に低くなりましたよね。日本だけですと少子高齢化や経済低迷で先行きは不安ですし、アジアを巻きこんでますますひとの移動が活発化すると思います。

(岩井)わたしは、目に見える変化はこの先起きないと思っています。けれども、水面下での変化は起きるでしょうね。

 

ダイバーシティである社会へ向けて、現在では人々の認識はどんどん変わっています。今までリサーチの対象者であった移住した人は、どんどん表現の担い手になってきていますし、いろんな違いに配慮のある社会になってきています。
これからも変わっていくこの状況に「アート」というものが一役を買っているんだなあと感じ、イベントは幕を閉じます。

 

まとめ  —アセナビでダイバーシティを取り上げた理由。

20150825_195128(提供:国際交流基金、撮影:Kenichi Aikawa)

今回のイベントでは、「アート」と「ダイバーシティ」がテーマとなっていました。そこに共通していたのは「アートを通じてダイバーシティの中に接点を見出していく」だったと感じています。国籍や性別、言語や思考が違う“バラエティ”に富んだ人たちが互いに影響し合い、良い関係を築いていくこと。そこにアートがきっかけとなることは、大いに意義のあることです。

今回、なぜアセナビでこのテーマを取り上げたのか。

それは、東南アジアで働くことは、ダイバーシティな環境に身をおくことと同義だと思っているからです。今回は「アート」という切り口でしたが、ダイバーシティのなかに接点を見つけてお互いに歩み寄ろうとする思考は、海外に身を置くうえで大切になることでしょう。

そういった柔軟な考え方を持つ人が増えることで、ひとびとのコミュニケーションが促進され、暮らしや仕事が円滑に回る社会になっていけたら嬉しいですね。

(ご協力:国際交流基金)