グローバル人材になるための第一歩とは? 日本とフィリピンのIT産業を繋ぐSpice Worx 社長 安部 妙氏


フィリピンに魅せられ、大手日系企業で9年間勤めたのち、フィリピンで起業。グローバル人材育成を中心とした多岐に渡るサービスを展開中。1児の母であり、社長でもあるパワフルウーマン安部氏にお話を伺った。

《プロフィール|安部 妙》
大学卒業後、システムエンジニア(SE)として、 ソフトウェア開発や中国・東南アジアの日系企業へのシステム導入コンサルティング、 米国企業との共同研究や共同入札等に従事。Asian Institute of Managementで経営修士号取得後、2001年にフィリピンのマニラで起業。グローバル人材育成、受託調査、IT/BPO産業分野のコンサルティングやアドバイザリー、翻訳/通訳サービス等の事業を展開。

 

海外大学院での経験が今に活きる

 

-なぜフィリピンに来ようと思ったのですか?

大学を卒業して、システムエンジニアとしてコンピュータメーカーに入社しました。その会社で働いていた時に同社製のシステムを使ってくださっている海外のお客様を相手にしていました。特に私のグループは東南アジアと中国のお客様が多かったんですね。中国や東南アジアに進出している日系の企業に、システムを導入し、サポートをし、ユーザーを教育するという仕事をしていて、出張で何度も中国や東南アジアの国々に行きました。その中の1つがフィリピンだったんです。フィリピンでの滞在が最も長く、何度も行き来している間にフィリピンは他の国よりおもしろいなと感じるようになりました。そこで仕事以外の角度からフィリピンを見てみたいと思い、NGOのワークキャンプに参加することになりました。その後留学することを思い立ち、1年間こちらの大学院で学び、経営修士を取得しました。この留学での経験が後に起業するきっかけになったのかもしれません。日本では周りがいろいろ準備してくれて、足りないところを穴埋めしたり、もらったひな形を埋めていけばできてしまう感じがしました。特に大企業であればあるほど。でもフィリピンに来たら雛形も秩序もないんです。だから自分が動いて見つけてやっていかないと何も進まないし誰も教えてくれない。自分でやっていくのは難しいことだけど、それが1番面白いっていうことに気づいたんですね。

安部さん5

ここ5年程理事を務めているフィリピンソフトウェア産業協会(PSIA)の理事仲間と。

 

0から0.1を創ることは難しいけど、そこがおもしろい

 

-サービスの内容を教えてください。

大きくわけて4つの事業から成り立っています。

1)グローバル人材育成のための研修プログラムコーディネーションでは日本人が海外で働くためのスキルを磨くためのプログラムを用意しています。社会人や大学生など期間や内容はお客様に合わせてプログラムを作ります。

2)受託調査サービスでは日本の政府機関や日系企業に依頼を受けてフィリピンのIT/BPO産業関連を中心に調査を行っています。例えば、フィリピンのIT産業についての情報発信を日本語で行っていました。JETROで30回にわたる報告書を掲載しました。

3)経営企画コンサルティング・アドバイザリーサービスではフィリピンに進出したり、在フィリピン企業に業務委託したり、業務提携や資本提携したい日系企業さん向けに業界調査を行ったり、条件に合うフィリピンの企業リストを作ったり、そのリストに基づいて企業訪問や商談のアレンジをしたりします。

4)翻訳/通訳サービスでは、様々なビジネス文書の翻訳や、イベントや会議、商談などへの通訳派遣を行っています。

 

-サービスが多岐にわたっている印象を受けたのですが、なぜこのような事業を行おうと思ったのですか?

最初からこういうことをやろうと思ってなくて、事業計画も何もなかったんですよ(笑)。最初は「こういうことができますか?」って頼まれて色んなことをやっていて、あとから整理したら、 こういうことができますっていうサービスメニューができたという感じですね。常に「とにかくやってみる」という姿勢は大切にしていました。0から0.1を創るっていうところが難しいですけど、そこが一番おもしろいところでもあるんです。最初に0.1を創ると周りの人がいろいろ言ってくれて、良いものになってバージョン1ができるんですよ。今思うと、留学時代に雛形も決まりも何もないところで、自分で新しい発見するといった経験が活きているんじゃないかと思います。

安部さん3

フィリピンのソフトウェア開発サービスを日本市場で拡販するため、毎年参加している展示会(東京ビッグサイト)でフィリピンの仲間と

 

まずは沈黙の殻を破ることから

 

―最近、「グローバル化」という言葉をよく耳にするようになりましたが、グローバル人材として必要な能力は何ですか?

グローバル人材育成事業は4年半ほどなのですが、その中でも少しずつ変化してきています。最初は中堅社員がメインだったのですが、若手社員、新入社員、大学生へと対象がどんどん若くなってきています。またグローバル人材は英語だけじゃダメだっていう認識も広まりつつあります。とは言え、グローバルでやっていくために英語は必要条件です。若いうちは英語が下手でも通じれば良いんです。しかし、日本人は沈黙してしまうんですよね。ワークショップでも先生が「いいですか?」って聞いても全くの無反応なんです。それで先生も頭をかかえて悩んでしまうんですよ。だからいつも「沈黙しないで、わからないならわからないと言いなさい。」と言っています。発言しないと、会議に出席する意味も無いし、存在感も影響力も発揮できない。まずはその殻(はずかしがって発言できずに沈黙してしまう殻)をやぶることが日本人は重要だと思います。
―安部さんはグローバルに活躍していらっしゃいますが、フィリピンで印象に残っている出来事を教えてください。

クリスマスになるとビレッジのセキュリティガードだったり、お掃除の人だったり郵便配達の人が、封筒に自分の名前を書いて「お金をください」って来るんですよね。最初はちょっとムッとしてしまったんですが、クロスカルチャー・コミュニケーションを教える側として、まさにその事例だと思った出来事でした。まずは、封筒が来たと言う事実だけを冷静に受け止める。いきなりジャッジしてはいけない(Describe)。なんでそうなのか、自分で考えて、自分なりに解釈してみる(Interpret)。その上でそれが良いのか悪いのかを判断する(Evaluate)。そうするといきなりジャッジした時と違うジャッジに到達するかもしれない。受け入れるには時間がかかりましたが、フィリピンでは持つものと持たざる者の格差が本当に大きいので、持つ者が何かをシェアすることが当たり前の社会なんだ、と考えるようになりました。

安部さん

立教大学経営学部のフィリピン研修で、UPの学生と共同ワークショップ後の一枚

 

女性が伸び伸びと働けるフィリピン

―フィリピンという国は女性にとって働きやすい環境ですか?

とても働きやすい環境だと思います。日本で働いていたら子供を産んでいなかったのではないかと思います。フィリピンでは女性の管理職の割合が55%なんですね。女性がフルタイムのキャリアを築くことに関して、社会通念的にも当たり前になっています。また、社会的ジレンマでもあるんですが、所得格差があるためにお手伝いさんを安くお願いできることが、フィリピンでこれだけ女性が活躍できる背景があると思います。家事・育児を手伝ってくれる人がいるのはありがたいことです。フィリピンでは子育てで他人の力を借りることことが当たり前なんですね。ベビーシッターであったり、親戚やいとこだったり。日本では母親が自分で子育てしなければいけない、そうではないとダメな母親、と非難の目を向けられてしまうという不安感や罪悪感があるかもしれませんが、そういう思考がないんです。
-東南アジアで働く日本人女性ってあまり想像つかないのですが・・・

最近、フィリピンで元気に仕事をされている日本人女性が増えて来ています。そんな傾向に気付いた2013年、長年フィリピンに在住していて、今はフィリピン最大の銀行に務めている友人と2人で「フィリピンで働く日本女性の会」(愛称:かまちれの会)を発足しました。発足後1年半の現在、会員は35名です。会のモットーは、「フィリピンで働く日本女性が、しなやかに美と知と心を磨く会」です。4半期に1回ずつ勉強会を開催しています。お互いに刺激し合い、ビジネスの上でも利点となるフィリピン女子会ネットワークに発展していければ良いなと思っています。

安部さん4

 

 

スピードが求められる時代で大切なこと、それは・・・

 

―これから東南アジアに行ってみたい、東南アジアで挑戦したい、という人にメッセージをお願いします。

考えすぎずに、まずはやってみることが大切なんじゃないかなと思います。”Where there’s a will, there’s a way.(なせばなる)“ということわざがありますが、自分がやりたいという気持ちがあれば道は拓けるし、切り拓くことができると思っています。やろうと決めたらなんとかなるものです。今自分の人生を振り返ると、無計画だったなと思います(笑)。

でも逆に日本人は計画を立てすぎて動けなくなってしまっているんじゃないかと思うんですよね。今世の中はやりながら考えて、やりながら調整していくっていうスピードが求められている時代。計画をきっちり立ててからではなく、意見を聞きながらちょっとずつ進めていくことが重要になってくると思います。 もし考えていることがあるなら、まずはやってみてください!




ABOUTこの記事をかいた人

関千尋

津田塾大学学芸学部国際関係学科卒。フィリピン大学に1年間交換留学し、主に少数民族について勉強していました。フィリピン国内はもちろん、ASEANの国々を旅し、魅了されていきました。文章を通して少しでもASEANの魅力を伝えていけたらと思います!