イベントレポート「地図のない世界 〜海外現地採用という選択肢」(前編)


2013年12月28日。
年の瀬に、海外現地採用に関するアツいイベントが開催された。

テーマは「海外現地採用」。グローバル化が叫ばれる中で、注目度を増しつつある働き方である。
ゲストには元参議院議員の田村耕太郎氏をはじめ、パネルディスカッションには海外で働く日本人を登壇者として迎え、多くの参加者を巻き込んだイベントとなった。

「海外就職」に興味を持つ300名近くが参加!

 

ASEANを周りながら実際に現地採用として働く方々に取材してきた筆者が、このイベントを通じて強く感じたことがある。

それは、「海外で働く」選択肢を模索している人が意外と多くいることだ。

2週間という短い告知期間、2013年最後の土曜日、facebookイベントページを中心とする簡易な告知。
このような厳しい条件にもかかわらず、300名近くの来場者が集まり非常に盛り上がったイベントになった。

「その日には予定が…」と、当日会場に来られなかった方のためにも、ダイジェストを紹介したい。

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2時間半に渡るコンテンツの中には、リクルート社員による「海外就職活動の現状とリクルートの取り組み」という基調講演、実際に海外で働く方々によるパネルディスカッション。そしてラストには元参議院議員で著書「君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?」でも有名な田村耕太郎氏による講演があった。

前編として「海外就職活動に関する現状」と、会場を盛り上げたパネルディスカッションの内容を紹介したい。
後編は、海外就職に興味のある方々を熱く奮い立たせた田村耕太郎氏のメッセージをお伝えする。

 

 

複雑なグローバルビジネスの中で成功する人材像とは?


基調講演を行ったのは、アジアの優秀な大学を周りながら日本企業のグローバル採用支援を行うリクルートキャリアの宮武氏である。

「皆さん、アジアの大学ランキングをご存知でしょうか?」

そう口火を切った宮武氏は、日本人がアジアの優秀な人材との競争にさらされている状況を明らかにした。なんと日本トップの東京大学は8位。上位を占めるのは、香港•シンガポール•韓国•中国の大学。

これまでは優秀な日本人だけ採用していれば間に合った日系企業だが、海外展開に伴いグローバル人材を採用していく必要が出てきた。まさにこのイベントのテーマ「地図のない時代」のように、企業の採用活動も境がなくなりつつある。

次に、競争が激しく複雑なグローバルビジネスの中で活躍する人材を以下の例を用いて説明した。

「例えば、ベトナムで事業を仕掛けるときにどういう行動を取るか?」
■A君の場合
1年間ベトナムのことを調査して、ベトナム語を学び、準備をする。

■B君
明日行く。
言葉はわからない、通貨もわからない、家もないけど、とにかく飛び出す。立ちはだかる問題を解消しながら1年間過ごす。

「リクルートが過去見てきたケースから答えると、B君の方が成功する確率が高い。成熟していない途上国市場では予期せぬ事態が日々起こる。だからこそ、がむしゃらに前に進む行動力が必要とされる。その経験は必ず質になってかえってきます。」(宮武氏)
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次に、実際に「海外で働く」キャリアを選択した方々によるリアル意見が飛び交い、時より会場の笑いを誘ったパネルディスカッションの様子を紹介したい。

登壇者の簡単なプロフィールは以下の通りである。

モデレーター:From India
石崎弘典氏—インドの大手会計事務所で現地採用として勤務し、日系企業やヨーロッパ企業の海外進出支援を行っている。副業で、日本の著名なオーケストラの海外オペレーション支援もしている。

海外現地の企業で直接雇用される人:From U.S.A
遠藤真由氏—シャネル(株)設計室室長。2000年に渡米し、ハーバード大学大学院で建築の修士課程を修了。以後2011年までNYの建築事務所で勤務。現在でも海外へ行き来を繰り返す生活を送る。

世界的な組織で直接雇用される人:From Africa
長木志帆氏—世界銀行のアフリカ局で務め、西アフリカのセネガルに駐在しながら、周辺国の財政改革や行政の再建支援を行う。日本企業を含め、10年で5度転職した経歴を持つ。

日系企業の現地法人で直接雇用される人:From China
大内昭典氏—オリックス中国に現地採用として勤務し、投資関係の業務を行う。外資系証券会社で勤めた後、中国大陸でMBA取得。

海外の特殊な組織で直接雇用される人:From U.S.A
小島武仁氏−スタンフォード大学経済学部准教授。日本の経済学者界のホープ。ゲーム理論を現実に応用するマーケットデザインを研究する。

 

最低限の英語力は必要。しかし、それ以上に大切なのは専門性

 

モデレーター石崎氏
「海外で働く際にハードルになると言われる“語学力”。実際のところどこまで重要なのか教えてください」

遠藤氏
アメリカには英語のできない外国人が意外と多くて驚きましたね。(笑)やはり一番重要なのは、語学力ではなくて、語学を使って何を伝えるのかという部分だと思います。自分の専門分野に関して、日本語でまずきちんと理解して、英語で伝えられることが大事だと思います。」

長木氏
国際機関という場に限定していうと、語学力は大前提です。英語ができて当たり前。しかもペーパーにして、外に出していく。生まれてから三か国語話せますみたいな人が山のようにいる中で、彼らと戦っていける能力が必要ですね。この力がないと淘汰されていきます。そして、英語プラスで一つでも二つでも言語ができるとキャリアの幅がぐんと広がります。」

大内氏
「今は中国語で仕事をしてますけど、MBA留学中は英語でした。アジアに関して言えば、みんな英語が下手です。(笑)かつ中国語に関していえば、日本人は中国語の半分を勉強し終えてると思った方がいい。1年間中国に留学すると、ほぼビジネスレベルまでいく。」

小島氏
「ある程度の英語ができないと就職ができない。分野によっては外国人がたくさんいるので、上手い英語が話せなくてもなんとかコミュニケーションすれば大丈夫という部分もある。」

モデレーター石崎氏
「共通見解として、最低限の英語力がないと話にならない。ただ、その最低限というのが皆さんが一般的に思ってるよりかは低いんでしょうね。専門分野がある方は、語学力よりもその分野で勝負することに注力した方が良い。国内で準備してからという考えでは遅い。「準備してる」という人も実際はそんなに準備してないという人が多いんですよね。(笑)

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次に、現地に行ったからこそ体験できたことについて伺いたいです。私の場合、日本では立ち会えないものに立ち会うことができるのもメリットじゃないかなと思ってます。例えば、この前インドに天皇が来た時にパーティに呼ばれたり。アジア開発銀行の総会があると、招待状が来たり。日本では会えないような人のネットワークが広がるのが面白いですね。」

長木氏
「私の場合、7年間役所にいたので、与えられた仕事をきちんとこなせば評価をされる文化でした。でも、いきなり世界銀行という専門家集団の組織に入り、机とPCは提供されてまず言われるのが、『あなたの仕事は大体これぐらい。自分で仕事を取って来なさい』。半年ぐらいは「この組織でやっていけるのか」という緊張感があった。でも、一つのプロジェクトで成果を出すと、倍々式に仕事はどんどん増えていく。すると、キャリアパスも広がっていく。自分の力で可能性を広げていく感覚が良かったです。」

遠藤氏
「アメリカにいたんですけど、リーマンショックの時は殺伐としていましたね。毎週金曜に誰かが机の整理を始めて、同僚が減っていく。長期休暇で少し帰りたくても、自分の席がなくなるのが不安で帰れなかった。特にNYはハングリーな人が多いので、その競争の中で生き残らなきゃいけないプレッシャーはあった。だから自信もつきました。海外で働く人の中で大きなテーマになるのが『日本にいつ戻るか』ということ。ただ、それが明確に見えなくても、サバイバル能力がつくので次というのは自然に見えてくると思います。」

リスクを怯えて留まるか、一歩踏み出して道を切り開くか

モデレーター石崎氏
「新しい可能性とか選択肢を求めて来た皆さんへ一言ずつお願いします」

遠藤氏
「現地採用ってまだまだマイノリティなので、日本に帰るとの友人から異端児みたいに扱われます。逆に言えば現地で見つけた日本人の友人は運命共同体みたいに同じ苦楽を共にしていて、団結力が強い。今日これだけ多くの方が海外就職の機会を考えてくれていて、これから仲間が増えると思うとワクワクします。」

長木氏
「海外に出て行くことは不安材料の方が多いと思います。特に若い時はオプションが少ない。だけど、経験とキャリアを積んでいけばオプションはどんどん広がっていきます。海外就職のメリットとしては、自分でキャリアを形成できる。一方で、周りの方のサポートを得ることも必要。自分で築いていく部分と人に築いてもらう部分。これを実感できることが魅力だと思います。」

大内氏
「MBAで多くのアジア人と一緒に勉強していたんですけど、全然日本人負けてないと思いますよ。特にアジアに関しては日本の方が進んでいるスキルであったり技術がある。日本人が海外に出て行って外国人引っ張っていける分野はあります。自分の持っているスキルに自信を持って飛び込んでみてほしいですね。一緒にアジアを創っていきましょう。」

小島氏
「海外に行くにはたくさんコストもあります。でも総じて考えてみると、僕自身は海外にいて良かったと思ってます。人によっては、違うかもしれません。どちらの判断をするにしても後悔しない形で行かれるのが一番だと思います。」

 

 

以上、イベントレポートでした。
会場の雰囲気が少しでも伝わり、将来のキャリアを考える上で何かヒントになるものがあれば嬉しいです。

 後編は、一番会場がヒートアップした田村耕太郎氏のよる講演をレポートします。


《関連情報》
■facebookイベントページ
https://www.facebook.com/events/1448100775411742




ABOUTこの記事をかいた人

アセナビファウンダー。慶應SFC卒。高校時代にはアメリカ、大学2年の時には中国、それぞれ1年間の交換留学を経て、いまの視点はASEANへ。2013年4月から180日間かけてASEAN10カ国を周りながら現地で働く日本人130名に取材。口癖は、「日本と世界を近づける」