組織の強さはリーダーで決まる。アジアを舞台に“ 強いリーダー”を生み出していきたい Asian Identity Founder&CEO 中村勝裕氏

前回の取材が2016年の1月。取材から約2年弱が経過して、Asian Identity Founder&CEOの中村勝裕氏に今までの変化や、今後についてお聞きするため、再び取材をさせていただきました。

Asian Identity社内の組織をより良くするために、中村氏自身が試行錯誤してきたプロセス、掴んできた成果とは? その蓄積を糧に新たに展開したい戦略、ビジョンとは? 改めて中村氏の志をお話しいただきました。


《プロフィール|中村勝裕氏》
上智大学卒業後、2001年ネスレ日本株式会社に入社。2005年株式会社リンクアンドモチベーションに転職し、人材育成、組織変革のプロジェクトを担当。 2010年、株式会社グロービスに転職し、シンガポールへ赴任。東南アジアでの人材開発プロジェクトを手掛ける。2015年、東南アジア発の組織人事コンサルティング会社として、Asian Identity を設立し、同社代表に就任。現在はタイを拠点としながらアジア各国でのコンサルティングや講演活動を手がける。

《Asian Identityについて|企業紹介》 会社HP:Asian Identity Co., Ltd.
アジアにおける人事組織コンサルティングを手がけるコンサルティングファーム。2014年にタイで設立され、東南アジアの人事領域・組織開発領域の課題に対し、タイ人社員を中心としたコンサルタントがチームでサポートを行なう。

前回記事:35歳・子持ち起業! アジア発の人事コンサルをタイ人とともに創りだす Asian Identity 中村勝裕氏

前回の取材から約2年が経過。アジアでの理想のチームのあり方を問い続けて

ー 前回のインタビューから約2年弱が経過しました。この2年間で事業領域や、組織の変化などはありましたか?

タイ国内が中心ではありますが、東南アジアを舞台に、人事組織コンサルティングのビジネスを始めて3年が経過し、様々な会社と様々なプロジェクトを経験することができました。先日はジャカルタで講演をしてきたりとビジネスの領域も徐々に広がってきています。組織も10名体制となり、この1年間で人数が倍に増えました。

日本人とタイ人で共に理想のチームを創っていく、という志が自分なりに実現できている手応えは強く感じています。

クライアントに人事組織コンサルティングの価値を提供するには、自分たちの組織が模範となり、説得力を訴求していく必要があります。私なりに「理想のチーム・組織とは何か?」と問い、様々な試行錯誤・実験を重ねてきて、チームが徐々に回ってきたことがここ直近で感じた大きな成果だと思っていますね。

ー 具体的にどういう工夫をして、理想のチーム作りをされてきましたか?

まず、ASEANでマネジメントをする上で重要な5つのキーポイントを意識してきました。
Affection, Share, Enjoyment, Agility, Network 。ちなみに「ASEAN」から一つ一つ文字を取っています。

まず1つ目は「Affection」愛情を大切にするということです。東南アジアでは、家族的な繋がりや和を大事にする文化があって、例えば上司をお父さん(タイ語でクンポー)となぞらえることもあるんです。会社はただ働く場所という捉え方のみならず、家族のようにアットホームな温かい雰囲気であることも大切だと思っています。小さなことですが、スタッフと頻繁にご飯を食べたり、行事ごとに積極的に一緒に参加したりと愛情を持って接することも大切にしていますね。

2つ目の「Share」は、個人主義に陥らずに、積極的に共有する文化を作ることです。例えば、1人のスタッフの成果が出たことに対して、共有し全員で自分のことのように喜ぶカルチャーを作っています。また、互いの意見を伝え合う投票箱もそれぞれの机に置き、ポジティブなフィードバックを言語化して投票し合う仕組みがあります。この仕組みを導入することで双方向性のある前向きなフィードバック文化を作っていく意図があります。


3つ目の「Enjoyment」シンプルに仕事を楽しむことです。何事も楽しむ、という点においては東南アジア人、特にタイ人はとても秀でています。日本人だけで仕事をしていると、どうしても真面目になりすぎたり固くなったりしますが、会議などでもユーモアや楽しい仕掛けを取り入れることがタイ人の気質には合っています。

肩を張りすぎず、余裕を持って楽しむ姿勢を大事にしています。例えば、月例の会議でも業績や問題点の議論はミニマムにして、今月良かったこと、印象に残ったこと、の共有に時間を割くなどしています。

4つ目の「Agility」スピードのことです。日本人は、仕事をする際に事前に計画を練って時間をかけすぎる傾向にあります。それは良いところでもあるのですが、他方、タイの風土に合わせてあまり時間をかけすぎずスピード感を持ってプランニングをして仕事を進めるよう意識しています。

最後の「Network」は、社内外の良好なネットワークを構築していくことです。東南アジアはジョブホッピング(短期間で転職をしていくアジアに見られる文化のこと)がよくあり、雇用の流動性が高いです。正社員という形に拘らず、契約形態に柔軟性を持たせて、優秀な方を巻き込んでプロジェクトを作っていくようにしています。

また、スタッフが辞めたとしても縁を切る、のではなく、辞めた“後”も良好な関係を継続して、自社の応援団になってもらうことが企業の姿勢として重要だと思います。例えばソーシャル上でコミュニケーションをしたり、時々オフィスに遊びに来てもらったりしています。

いわゆるアルムナイネットワークと言われますが、「その会社のOB」というブランディングを作っていくことが、ジョブホッピングの盛んなアジアでは重要だと思います。

ASEANにおける組織作りはこういったことをキーポイントとして、シンガポール、ミャンマー、インドネシアなど周辺国にも活動を広げてブランディングを推進しています。

先日中村さんが登壇されたミャンマーでの講演の際の写真

ー なるほど。どれもアジアでマネジメントする上では重要ですね。愚直に体現してこそ価値のあるキーポイントですね。

東南アジアで人事を育てて、強い組織をデザインしていく

ー コンサルティングだけでなく、人事向けの“HRカレッジ”なども創設されていますよね。こういった取り組みはどういった経緯で生まれたんでしょうか?

日本人、タイ人の人事向けに独自のカリキュラムを組んで、オープン型のコースなどを開設しました。また、元リクルートで現人材研究所代表の曽和さんとHRカレッジを作り、人事向けのセミナーを開いています。

このサービスを生み出した経緯は、本質的に組織の人事課題を解決するためには、我々が外部からコンサルティングするだけでなく、内部人材を育成することも必要だと感じたからです。

日本でこそ人事の概念は発展していますが、タイにおいては「給与計算」「採用活動のオペレーション」といったルーティンワークという概念から一歩踏み出せていないというのが現状です。

また、他の職種と比較して人事を体系的に学べる場は少なく、資格があるわけでもありません。そこから一歩抜き出て、組織のレベルを引き上げられる戦略的な施策などを考えていける人事を育てていくためにHRカレッジを作りました。

 

ー 他に新たなサービスなども提供されていますか?

東南アジア向けのアセスメントツールを日本の企業と協働して開発しています。東南アジアの人材、個々の強みなどを見つけられるツールとなっています。人材育成の目的で導入・活用することで、社員の今できていること、できていないことを客観的に把握し、成長をより促進できるようにしていきたいです。

また、新卒タイ人向けの漫画も作り、バンコクの紀伊国屋などで販売をしています。「Susu Pim」(がんばれ、ピムちゃん)というタイトルで新卒1年目の社会人が奮闘しながら学んでいく内容で、ビジネスパーソンとして持つべきマインドセットやポイントを漫画の中で触れています。


先日、バンコクの紀伊国屋で「Susu Pim」のプロモーションイベントも開かれていた。


漫画を通じて発信したいと思ったのは、まず純粋にタイ人の成長に貢献したいという思いがあったからです。タイ人に
「良いキャリアとは何か?成長とは何か?」を考えるきっかけを漫画を通じて作りたいんです。

転職して給与が上がっていくことが“成長”と捉えるタイ人が多いですがそれは果たして本質的な成長でしょうか。一つのことを継続してチャレンジをしながら学習をし、そして出来ないことを出来るようにしていくことが本質的な“成長”だと私は思います。

実際に採用活動をしていて、年輪と職歴は立派ですが、内面的な成長や実務スキルをしっかりと培ってきていない人はすぐに分かってしまいます。

ガチョウと金の卵の話ではありませんが、短期的な利益だけを見て金の卵を得ることばかりに目を奪われず、金の卵を産んでくれるガチョウ、つまり自分自身の資産やコアとなるスキルを育てていくべきだと思っています。

 

ー そういったメッセージングはタイ人の人には響いている実感はありますか?

響いていたと思います。起業をしたい!という若者は多いけれども、そもそもどういう人生を歩みたいか、どういうことを成したいかといった“コト”を考えられている人は少ないと感じることがあります。

起業はあくまでも手段であって、その先の自分の「Why」を問うことが大事。その先にある社会に対しての価値貢献が重要な指針です。

組織の強さはリーダーが決める。リーダーとして意識すべきこととは?

ー 人事組織コンサルティングを提供している会社として、工夫している施策やリーダーシップの取り方などはありますでしょうか。

会社内で共通の価値観を明確に言語化して、浸透させています。

例えば、弊社にはAI Way(Asian Identity内の行動指針)があるのですが、毎月誰がAI Wayに一番ふさわしい仕事をしていたかを表彰する制度があります。これは創業当初の2名体制時から継続的に実施しており、徹底し続けることで自然とAI Wayを意識でき、プロフェッショナルとして仕事をする習慣が生まれています。

      Asian Identityで言語化されているAI Way。6つの行動指針がある。

 

ー 組織内で共通の価値基準などがあればコミュニケーションも捗りますよね。AI Wayの中でも重要視されているものはありますか?

Visualization、つまり視覚化することを最も重要視しています。なぜなら言葉のみのコミュニケーションだとお互いの認識に齟齬が生まれるからです。私はタイ人スタッフと英語でコミュニケーションをしていますが、常にVisualizationすることを意識しています。

会議の際、意見を言う際はホワイトボード上で内容を整理しながらコミュニケーションをしていて、社員の話が少し長い場合は率直に「ホワイトボードで図示して」と伝えることもありますよ。

コミュニケーションの質と感度を高めて濃い対話をすることを心がけています。また相互にフィードバックする機会を設けて、内省を習慣化するようにしています。

 

ー タイ人はネガティブフィードバックなどを好まないイメージがありますが、いかがでしょうか?

駐在員の方からも「率直なフィードバックをすることは、タイ人のメンタリティにそぐわないのでは?」と指摘を少なからず受けることはあります。

ただ、“タイ人”だからといってそういった制度を根付かせるのは難しいと決めつけるのは早計で、「自分はどういった組織を作っていきたいのか?そのためにどうすべきか?」を考えた上で意思と意図を持ってリーダーがコミットすることが重要です。

 

ー コミュニケーションの量については具体的にどういったことを重視されていますか?

四半期に1回は、MBOといって丸1日空けて社員と1on1の時間を設けます。どんなに忙しくても、1人1人の仕事の振り返りをじっくり行なう時間を確保しています。

加えて、リトリートという合宿を年2回やっていて、1日かけて、会社の方向性や組織の課題についてがっつりと議論を取る機会も設けています。実は最近の話ですが、合宿の2週間前に起きたある出来事が印象的でした。スタッフから「今後の方針が見えない」「それぞれのメンバーが目の前の状況に疲弊している」といった不満を急に伝えられたんです。

これは問題だと思い、合宿の前に時間を取って、思っていることを吸い上げるために事前質問を受け付けたのですが、私のもとに30個弱の不満・要望が届きました。ビジョンは何なのか、これからの戦略について社長はどう考えているのか、評価制度について詳しく教えてほしい、など。私の想定以上に組織・チームへの不満が募っていたんです。

振り返って考えると、1年間で組織の人数が倍に増えて、海外出張の頻度も増えたことから以前よりコミュニケーションの量が足りていないことに気付かされました。10人というと小規模に思えますが、1つのチームと捉えるとサイズは大きく、コミュニケーションにも問題が出てくるのも当然です。


Asian Identityのメンバーの方々の集合写真


ー しかしそれだけチームから積極的な意見が出てくることはとても良いですね。

はい、そう思いました。それらの不満などは決してネガティブなものではなく「もっと組織をこうしたい」と思っているからこそ出てくる意見ばかりが中心で、メンバー自身が自発的に課題を考えて積極的に発信してくれることはとてもありがたいことだと思いました。

雨降って地固まる、ではないですがこういった組織内の些細な変化を汲み取って、適切なコミュニケーションを意識しながら改善をしていくことが大切だと思っています。


ー 他方、そういったコミュニケーションを促進する仕組みや制度って、形骸化してくることはありませんか。

全ては実行をするリーダー次第だと思います。明確な意思を持ってそういった制度や仕組みにコミットすることが大事で、もし決めたルールや約束事を疎かにするスタッフがいたら、心を鬼にして厳しく指摘します。

またそういった制度は、形式的にするのではなく本当に意味のある場として、コミュニケーションが深まるためのデザインをし、都度アップデートしていくことが大事です。しっかりとコミットできる人をアサインすることが肝要です。

同じAsian Identityを共有しているこの地で、強いリーダーを生み出していきたい 

社名「Asian Identity」を体現するために、国籍が異なる社員とどうコミュニケーションをとっているか教えてください

もちろん我々のゴールとしては日本人、タイ人と国単位ではなく同じアジア人という志でビジネスを成功させていくことをサポートすることです。

ただそれは最終的なビジョンであり、実際の仕事とは少し距離があるので、具体的な日々の仕事においては、相手に対して先入観を持たずフラットに接することを意識しています。

「タイ人は時間を守らない」「タイ人はホウレンソウができない」と物事を先入観を持って判断すべきではありません。彼らは「報告する」「報告しない」の区別の基準を個別に持っていて、それをリーダー、マネージャーがコミュニケーションを通じて把握することで仕事の進め方がスムーズになり、齟齬は無くなっていきます。

「報告しない」事実を責める前に、彼らなりの報告しない基準、意図を知ること。実は、忙しそうな自分を気遣って遠慮をしていただけであれば、それは他人の時間を尊重するポジティブな判断ですよね。決めつける前に相手をリスペクトする姿勢が異文化環境でビジネスをする上で大切です。


ー 今後の未来を見据えて、タイのみならずアジアへどのように価値を提供していきたいですか?

アジアに「強いリーダー」を増やしていきたいと思っています。
人事組織コンサルティングの経験を積んできて得られた気づきは、良い組織を作れるかどうかはリーダー次第だということ。「Aprreciate the similarity, Accept the difference」を実践できるかが、アジアにおいて求められるリーダー像だと思います。組織において、リーダーがどういう言葉を発するか、どういう態度でスタッフに接するかによって組織の未来は大きく変わります。

これまで様々な国で、数々のコンサルティングプロジェクトを経験して思ったのは強い組織を作る本質はあまり変わらず、強い組織には強いリーダーが不可欠ということ。国をまたいで、「リーダーとしてのあり方」を発信していくステージを意識して今後は邁進していきたいです。

とはいえ、東南アジアの人事の世界はまだまだ複雑で、最適な解は見つかっていません。それぞれの組織においての最適解をクライアントと共に悩みながら高い価値を生み出していきたいと思っています。

編集後記

組織の強さはリーダーが決める。」

今の私にとって極めて印象的な言葉でした。まだ私は何も為せていませんが、アセナビ、インターン先の企業において試行錯誤しながら組織作りを担当している身として「自分はリーダーシップを持って、周りを巻き込んでコミットできているだろうか?」という問いを考えるきっかけとなりました。

一つの正解のない世界で“ 問い”を立て、思考と実行を繰り返されている学び続けられている力強いリーダー、中村氏から多くのことを学ばせていただいた取材でした。

またAsian Identityでは正社員、インターンシップ生を常に募集されているそうです。
ご興味のある方はぜひ「info@a-identity.asia」までご連絡下さい。

ABOUTこの記事をかいた人

清沢康平

同志社大学法学部法律学科4年。ASEANデビューは大学3年次にバックパックで訪れたベトナムとタイ。その際に迷い込んだゲイバーでマツコデラックスに似た化け物に恥部を触られ、2000THB(約6000円)を喪失。その直後から原因不明の腹痛に襲われ2日間ダウン。この時に、もう1度タイに戻り屈強な精神と肉体を手にいれるべくバンコクでインターンシップをすることを決意。 大学4年次を休学し、2016年3月25日から2016年12月末までバンコクのJAC Recruitment Thailandで10ヶ月間法人営業を経験。現在は再びバンコクに戻り、2017年9月末よりDonuts BangkokのHRチームにて採用、組織制度作りなどを担当中。2018年1月に帰国予定、来年4月からは某IT企業にて東京勤務。