シンガポールでの起業を経て、アジア7カ国を舞台にマーケティングを行うP&G釼持駿氏

2017.09.27

学生時代にシンガポールで起業し、現在はP&Gでアジア7ヶ国を舞台に柔軟剤ブランドのマーケティングを行っている釼持駿氏。数多くのAwardを受賞するなど仕事では圧倒的な成果を出し続けている。そんな釼持氏にこれまでの経験や、仕事に取り組む上で心がけていることを取材した。

≪プロフィール|釼持駿さん≫

筑波大学社会・国際学群社会学類出身。大学を2年間休学し、カナダのコンサルティングファームでインターン。その後、シンガポールで起業し、バイアウトまで経験。日本に帰国後は教育サービスGlobalWingを創業。現在はP&Gシンガポールアジア本部でアジア7カ国の柔軟剤ブランドのマーケティングを担当する傍ら、自身の会社の運営やブランドコンサルティングを行っている。

 

シンガポールで起業。会社を売却後、グローバルリーダーを輩出すべくGlobalWingを創業

― 大学を2年間休学して、海外で挑戦しようと思ったきっかけについて教えてください。

大学3年の時に就活をしていて、このまま働いていいのかなと不安に思っていました。私は働くからには仕事にやりがいを持ちたい。そこで自分のやりがいはどこにあるんだろうと探す中で、将来は自分が生まれ育った国である日本の良さを伝えていきたいと思うようになったんです。しかし、私は21歳まで旅行くらいしか海外経験がなく、それなのに海外で日本の良さを伝えたいと言っても私に何ができるのか、何が足りないのかが全くわかりませんでした。それならば海外に実際に行って考えようと思い、大学を2年間休学することに決めました。

 

― 休学期間中、シンガポールで起業されたそうですが、きっかけは何だったのでしょうか?

大学を2年間休学するなら、絶対に達成しようと思っていたことが3つありました。1つ目は英語でビジネスをするのに全く抵抗がなくなる程度に語学力を高めること、2つ目は海外でビジネスをして結果を出すこと、3つ目は将来につながるコネクションを作ることです。私は将来、「日本ってすごいじゃん」と思ってもらえるようなことをしたい。その自分のビジョンにつながるビジネスや、それを実現させるためのコネクションを築いていこうと思っていました。

この3つを達成するために、まずはカナダのコンサルティングファームでインターンをし、1つ目の抵抗なく、英語でビジネスができる語学力を得るという目標は達成しました。2つ目の結果を出すことに関しては、インターン先で北米にある会社のコスト削減プロジェクトに関わり、ゴールとして設定していた結果を出すことはできました。ただ正直その結果を出したことは自分の力だけではないなと思っていて。だから自分の力だけで結果を出せるようなことにチャレンジしたかった。そう思ったときに、自分でビジネスを起こすしか当初の課した目標は達成できないと思い、そこからはひたすら自分なりのビジネスモデルを何度も何度も考え、幸運にも私に投資をしてくれる投資家が現れ、シンガポールに移り住み、そこで起業をしました。

 

(面倒をみていただいた投資家と)

 

ー シンガポールではどんなビジネスをされていたのですか?

何か日本のためになるビジネスをと思っていたので、メイドインジャパンの製品の販売を行っていました。日本の中小企業はとても良い商品を作っているのですが、海外での販路がなかったりして、なかなか国外に知られていません。そこで、私が海外に販路を作り、そういった商品を海外で販売するビジネスを行っていました。

― 起業することで当初、期待していたものを得ることはできましたか?

大きく3つ得るものがありました。1つ目は海外でもビジネスをやっていけるという自信がついたこと。海外で起業をするにあたって、登記などの事務手続きはもちろん、現地の人を雇い、初めての部下が当時21歳の私よりはるかに年上の外国人であったりもしました。最初は戸惑いましたが、それでも最終的にバイアウトまで出来たので、海外でもやっていけるなと自信をつけることができました。

2つ目は海外でビジネスをやっていく中で、自分に一番できていないところがわかりました。そのため最終的には会社を売って日本に帰ってきたんです。私はビジネスを作ることはできましたが、ある程度の規模になった後は事業を伸ばすことがうまくできませんでした。そしてそのやり方も見えてきませんでした。そこで事業を伸ばす力は何なんだろうと考えた時に付加価値を作る力、そして組織を大きくする力が必要だと思ったんです。付加価値を作る力とはすなわちマーケティング力。当時、ビジネスの成長に行き詰っていたときに、私はさまざまな方からアドバイスをいただく中でその結論に達しました。

3つ目は自分の人生の視座を高めることができました。行く前は私にとって起業は遠い世界の話でしたが、実際に海外で起業してみると、意外とうまくいきました。挑戦してみることで、自分が30歳までになりたい像からその達成のために必要なことを逆算し、よりリアルに自分の人生計画を描けるようになりました

 

―シンガポールでの起業後、日本に帰国し、 海外インターンプログラムのGlobalWingを創業したそうですが、その創業に至った経緯について教えてください。

僕はたまたまいいインターン先で働くことが出来ました。しかし、インターンに来ている多くの日本人は優秀なのに、インターン先ではコピーをとったり、電話対応をしたり、将来に役立たないことばかりやらされていたのです。せっかく海外でキャリアを積むために渡航した優秀な学生がお金や時間をかけて働いているのに、得られる経験が将来に役立たないのはすごくもったいない。

その原因は二点あり、インターン先の会社がインターン生のことを雑用とみなしていることが一点。もう一点は、インターン紹介会社の事前研修やインターン生のフォローが不十分で、成長機会があまり与えられていなかったことです。私自身も、最初のカナダでのインターンの経験があるからこそ、今の自分があると思っているので、海外でチャレンジしたいと思っている方々にそういう環境を提供したいと思いました。そこで、研修をしっかりと行い、主体的に働ける環境のある会社でインターンシップを行うサービスを創造し、グローバルに通用する人たちを輩出していくGlobalWingを創業しました。

 

(左から2番目がGlobalWing共同創業者の神田さん。真ん中が釼持さん。)

GlobalWing共同創業者神田さんの記事:【アセナビ×GlobalWing】キャリアに直結する厳選海外インターンを通し、グローバルリーダーを輩出する GLナビゲーション代表神田滋宣氏

 

P&Gにてアジア7カ国のマーケティングを担当。マーケティングとは主観的な価値を創り出すこと

― 現在P&Gで働いていますが、なぜP&Gに入社しようと思ったのですか?

先ほど話した自分に足りないスキルが付加価値を作りだすことで、付加価値をつけるために必要なことがマーケティングだと思っていました。そこで入るなら世界一のマーケティング会社に入りたいと思い、世界最高峰のマーケティング力を持つP&Gに入社しました。

 

― 現在はどんな仕事をしていますか?

今、行っているのは柔軟剤のマーケティングで、日本、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシアの7カ国の市場を担当しています。

 

― 7カ国担当されていて、それぞれの担当する国での商品に対する消費者ニーズは異なると思います。その中でどういう風にマーケティングをされていますか?

国が異なると消費者の価値観や行動などは確かにバラバラです。ただマーケティングをやっていて思うことは、人間として潜在的に持っているニーズや“嬉しい”“悲しい”といった感情は同じということ。マーケティングは客観的な価値ではなくて、主観的な価値を創り出す仕事なんですよ

これがどういうことかというと、例えば、水の客観的な価値は喉を潤すこと。でも無料の水道水を飲むのではなく、100円のエビアンを買う人がいます。それはエビアンを買った人が安全やおいしいといった何かしらの主観的な価値をエビアンに対して持っているから買うわけです。そういう主観的な価値を創り出すことがマーケティングの仕事なので、その価値に気づくことが大事。消費者リサーチを通じて、各国の消費者を理解し、そこで得たものを活かして、どうすれば消費者の主観に訴えかけられるかを考えながら、仕事をしています。

 

ー 主観的な価値を創り出すことがマーケティングなんですね。釼持さんは数多くのAwardを受賞するなど、圧倒的な成果を出し続けていると思います。成果を出す上で、どんなことを意識していますか?

目的意識をしっかり持つことを意識しています。日々なんとなく過ごすことは簡単。人間の性(さが)として、好んでつらい方へは行きたくない。でも、自分のやりたいことや将来絶対こうなりたいんだという思いを持っていると、今のままではだめだと現状否定から始まって、その目的を達成しようと頑張るんですね。もし成果を出したいのであれば、自分は将来何をしたいのか?そのために今何が必要なのか?といった目的意識をしっかり持って日々生きていくことが大事です。

 

ー 成果を出す上では目的意識をしっかりと持つことが重要なんですね。

(Awardを受賞しているときの様子)

 

 シンガポールで働いて感じた、海外で働く魅力とは

― 仕事を進めていく中で、大変なことは何でしょうか?

自分以外のメンバーを巻き込むことが大変です。大きい会社で大きいことをやりたい時にいろんな意見や考えを持っている人がいるわけです。その人たちといかにコミュニケーションを取り、チームとして向かうべき方向にまとめて、その自分のやりたいプランを最終の実行まで持っていくことができるか。特に自分の場合、担当する市場が日本だけでなく、各国にまたがるので、いろんな国籍の人たちと協働しなければなりません。自分一人でできることはすごく少ないんですよ。いかに自分以外の人を巻き込めるか。いかにメンバーの能力を引き出して、目標に向かって突っ走ることができるか。難しいですが、楽しいです。

 

― 国籍が異なる人とビジネスをすることは大変だけれども楽しいんですね。その人たちと協働する上で信頼されることは大事だと思います。信頼されるために心がけていることは何ですか?

自分が普段から心がけていることは相手の話を聞いて理解すること。人間はステレオタイプでものを考えがちです。ステレオタイプでものを考えている人はこの人はこういう考えだからこうなんでしょと決めつけて話していることが多いんですよ。でもその決めつけは間違っていることが多くて。だからこそ、相手が何を考えてどう思っているのかをもっと聞くべきです。絶対にそこのコミュニケーションは妥協しないように心がけています。

 

― 釼持さんは現在シンガポールで働かれているので、東南アジアで働くことの魅力を教えてください。

単一民族国家に住む日本人は価値観を共有している前提でコミュニケーションをとってしまいがちです。だから海外ではうまくコミュニケーションが取れずに、自分のやりたいと思っていたことで人を巻き込むことができない。ただ東南アジアに限らず海外で働くと、自分と国籍の異なる人と働くことが普通なので、そうなった時に彼らとどうコミュニケーションをとり、自分たちの目標に向かって突き進むことが出来るのか。リアルな実践の場でコミュニケーション力を鍛えることができるのが魅力です。

 

自分が何を成し遂げたいのか?目的意識の持ち方が重要

― 今後の釼持さんのビジョンを教えてください

「日本ってすごいじゃん」と世界中の人から思ってもらえるようなビジネスを行っていきたいです。

 

― ここまでありがとうございます。最後にこれから海外ビジネスに挑戦しようとしているアセナビ読者に一言お願いします。

海外でビジネスすることを目的にしてはいけない。それはあくまで一個のステップなので、海外でのビジネスを通じて自分は何を絶対に成し遂げたいかを考えるべきです。自分は何としてもこれを成し遂げたいという目的意識をしっかりと持ったうえで、海外に挑戦してください。