後悔を糧に今の自分を正解に変える! 日本の大手旅行会社から転職しタイでの法人立ち上げに携わった吉田達也氏にせまる

2017.09.19

学生時代は海外にまったく興味がなかったという吉田達也氏。そんな吉田氏は大手旅行会社に新卒入社後、4年目にしてタイへの転職をするという異色の経験をしている。タイで2年間働いたことに後悔はないといい、むしろ1度海外で働いてみること、一歩踏み出してみることの大切さを熱く語ってくださった。そんな吉田氏から、ASEANで働くことへの第一歩を踏み出すにはどうしたらよいのかを伺った。

<プロフィール|吉田達也氏>

愛媛県今治市出身。大学卒業後、大手旅行会社で勤務したのち、株式会社リクルートホールディングス タイ法人(RGF HR Agent Recruitment (Thailand) Co.,Ltd.)の立ち上げに2年間携わった。現在は将来の新たな目標にむけ日本にてコンサルティング会社で勤務。

 

海外なんて興味なかった学生時代

ー タイにて働いており、最近日本に帰国し、転職したばかりと伺いました。タイではどのようなお仕事をしていらっしゃったんですか?

リクルートホールディングスのタイ法人にて2年ほど働いていました。タイにある日系企業に対してタイ人と日本人を紹介する人材会社で働いており、私自身プレーヤーとして法人営業を行うと共に、チームのマネジメントにも携わってきました。ただ、初めは拠点自体が立ち上がったばかりで、ほとんど一からの新規開拓でしたので、毎日が試行錯誤でした。ある程度会社の規模も大きくなったタイミングで、タイ人や日本人のマネジメントを行いました。

 

―学生時代から海外志向だったのでしょうか?

学生時代は海外には全く興味がありませんでした。高校の時から始めた競技ボートを大学4年まで全力で続けていて、学生生活は完全にアスリートでした。そのこともあり、就職活動ではスポーツに直接関わるようなスポーツ用品のメーカーや、食品・飲料を初めは受けていました。

そんな中、ある旅行会社から、旅行会社でもスポーツと関わることができるという話を聞き、そこで初めて「自分がスポーツで何がしたいのか」を考えていなかったと気づかされました。就職活動を通して、様々な企業の事業内容を聞いているうちに、私はスポーツを通して、何かを作りたいんだ、誰かを喜ばせることのできる「場」を作りたいんだとわかりました。

その時丁度、競技ボートの国体が開催されており、マイナーな競技にも関わらず大きな大会の運営(選手の移動や、大会の円滑な進行)のために、旅行会社が陰で活躍をしていました。それを知ったとき、スポーツを通して誰かを喜ばせる「場」を作りたいという思いに、旅行会社が近いのではと感じました。その中で、旅を通じてスポーツに関われることが、すごく面白そうだなと思うようになり旅行会社への就職を決めました。

 

―旅行会社に就職したことがきっかけで海外に興味を持ち始めたのですか?

そうでもないんです。

旅行会社に就職が決まったから急遽、40日間、一人でヨーロッパをバックパックで周ったのですが、当時は本当に辛かったですね(笑)。40日って長く聞こえると思いますが、ヨーロッパ中ひたすら周っていたので時間が全然なくて。魔女の宅急便の舞台のゴッドランド島に行ったときには、2時間しかなくて道がわからないなか観光し、最後には走って帰りました。その時はさすがに「俺は何をしてるんだろう…」って考えてしまいました。

ただ、思い出すとどんどん楽しかったなと思うようになって、また行きたいと強く感じます。各国のゲストハウスで旅行客同士で話すのはとても楽しかったです。そこが初めての海外との接点でした。旅行会社に就職してからは、いろいろな国に仕事で行くようになりました。ヨーロッパにはよく行くようになりましたし、今でも好きですね。ただ、海外で仕事がしたいとは思っていませんでした。

日本の大手企業をやめて、タイでの事業立ち上げの一員に

ーいつからアジアに関心を抱くようになったのですか?

アジアには仕事でときどき行くくらいで、「近くていつでもいける」という程度に思っていました。でも、ある仕事を通して、タイがとても素敵な場所だなと感じるようになりました。

旅行会社に就職して2年目のとき、経営者を対象にした、ビジネス交流目的の1週間のタイ旅行を企画しました。自分としては1年目に結果も出せていて、自信がついてきた頃だったのですが、1日目から大クレームが来てしまって。現地で2日目以降のプランを考え直さなければいけなくなったことがありました。日本人スタッフは私だけで、もう困り果てました。2日目以降に予約していたお店なんかもすべてキャンセルして、1週間分の旅行の計画は、すべて立て直し。そのときに現地のタイ人スタッフに相談をしたところ、当初の依頼業務とは全く別の内容にも関わらず親身になって協力をしてくれました。しかも夜遅くまで。

タイで働いてからより感じたことですが、日本以外の国では、ほとんど残業はしません。もちろんヨーロッパでは残業はあり得ない、みんな決まった時間に決まった仕事が終われば速攻で帰りますね。ああ、アジアの人って困っている人を助けてくれる人柄なんだなとその時に感じました。おかげさまで2日目以降は大満足ツアーにすることができました。その頃から、「アジアっていいな」というイメージが芽生え始めたのかもしれません。

 

―旅行会社でキャリアも積んでいたところで、どうしてタイへの転職を決めたのですか?

正直、当時勤めていた会社をやめる気はありませんでした。

ある時、大学時代の先輩の結婚式に出席したんです。その時再会した、学生時代のコーチが当時タイで働いていました。彼は、タイで会社を立ち上げたばかりで、「誰にも声かけているわけじゃないんだ、営業に来ないか?てか来いよ!」とタイで一緒に働こうと誘われました。そのコーチが立ち上げた会社というのがリクルートホールディングスのタイ法人でした。

実は、リクルートとは前の会社の時代から繋がりがあって、一緒に社員旅行を企画する仕事をしていました。その時に、この会社は社員のモチベーションを上げるために本気で取り組むことのできる会社で、本気で企業と社員が向き合う、いい会社だなと感じていました。そんなタイミングで誘われたので、面接だけは受けてみようと思い、受けることにしました。正直、転職する気はありませんでしたし、営業としての自身みたいなものがあったので、気持ちはぶれないと思っていました。

しかし、面接を受けて面喰いました。そこでの面接は面接らしくなく(審査されている感はなく)、コーチングされているような感じで。自分がどんな人間なのか、今までどのような考え方と思い出判断と行動をしてきたか、本当の強みは何か、弱みは何か、本当は何をしたいのか等を時間をかけて引き出してくれて、しかもそれが的確でした。これからのビジョンに向けて、どの経験や能力を生かすことができて、これから何をすればよいのかを一緒に考えてくれました。

そこまで深く考えたうえで、面接の最後には、「吉田くん、僕らはタイに来いとかどうとか言わないけど、自分が成長のために(やりたいことのために)行動するべきことはもう自分でわかってるんじゃないですか」と問いかけられて。さらに、さあ面接が終わるというときに「…ちなみに、タイの立ち上げは今だけです」って言われたんです。もう、「行きます!」とその後すぐにメールしてしまいましたね。

海外で働くこと

―立ち上がったばかりのリクルートホールディングスのタイ法人に転職して、タイで働くことと日本で働くことの間に違いはありましたか?

もう、すべてが違いました。まずオフィスに行って、「英語か、おお・・・」って改めて思いましたし。当時の私は、英語も人材ビジネスもタイでの営業も、何もわからない状態でした。会社も立ち上がったばかりで何をしていくのかも明確には決まっていない状態で、本当に1から考える必要がありました。営業といっても、どこに対してどのように攻めていくかも決まってなくて、とにかく電話して、営業に行って、ニーズを聞き出して、これからの戦略を日本人スタッフ4人で話し合って…。今だから言える話ですが、寝る暇もなく動いていました

すごく大変でしたが、めちゃくちゃ楽しかったです。朝から晩まで働いた後でも、この会社をこれからどうやって大きくしようか、どうしたら成長できるかと未来を語りながら夜中まで皆で屋台でシンハービールを飲んでいたり(笑)。

 

ー辛くてやめたいと思うことはなかったですか?

ありました。その時に助けられたのが、リクルートのメンバーと仕組み。将来なりたい姿(Will)と今の状況(Can)、そのために今やらなくてはいけないこと(Must)についていつも自ら考える機会を与えてくれ、上司が1対1で向き合ってくれていました。また、一緒に働くメンバーともWillについて会話をすることでモチベーションに繋がっていました。

私は、willに「拠点長になる」「営業としてRGF(※)NO.1 になる」などと置いていて、今できることと、できていないことを定量・定性両方の観点から具体的に把握し、必要な量と質の行動を実行しないといけないと明確に気付くことができました。そこを共通のモノサシとして本気で取り組みました。

※RGF:リクルートグローバルファミリー(リクルート海外法人)の略称

 

―なるほど。では、次に実際に働いている環境についてお聞きしたいのですが、タイ人と働くことはどうでしたか?

入社後、不安でしょうがない私を助けてくれたのはタイ人スタッフでした。何も知らない私を、笑顔で優しくフォローしてくれました。ただし、営業部門で部下を育成することは簡単ではありませんでした。会社を大きくするためには、やりたい人がやりたいように仕事をするだけではダメで、メンバーが嫌がることも組織と社会のためにはやらざるを得なかったからです。

例えば、日本的な考え方であれば、目標数値があってその目標を達成するために行動をするというように、逆算式で考えます。でも現地では、成果を積上式で考える傾向にあり、実行した行動や努力に対し評価を得るという考え方でした。何より、いかに楽しく充実して仕事に取り組むかということが重要でした。当然そこでギャップが生じてしまって、ゴールを目指すためには皆でこうやっていかなきゃいけないんだと伝え続けても、理解を得られないこともありました。

 

―どのように改善していったのですか?

自然と日本人同士、タイ人同士で固まってしまい、日本人とタイ人の間に少し距離がありました。しかし、働かせてもらっている国はタイで、歴史や文化、考え方についてもっと日本人が歩み寄る必要があると感じもっとコミュニケーションをとろうと努力をしました。会話をするうちに、日本人が普通と思っていることも、タイ人にとっては普通ではない(嫌な)ことがあるとわかってきたんです。

コミュニケーションをたくさん取るようになって、どうすればお互いに歩み寄ることができるのか、integration(統合)していくことができるのかを考えて行動するようになりました。すごく難しいんですけどね。ただ間違いなく言えることは、タイ人から学ぶこと、学ばなければいけないことはたくさんあるということです

後悔に打ち勝って、今を正解にすること

ー転職を2回も経験していますが、後悔はありませんか?

それは、人間だから後悔をしそうになることもあります。だからこそ、後悔しそうになった時に、今をどうやって正解にもっていくかを常に意識しています。

例えば、高校生の時、私はボート競技を始めたのですが、本当は野球部に入るつもりだったんです。私の高校は甲子園常連校で、野球をするために高校に入ったのですが、ちょうど私が入ったころは3年間くらい甲子園からは遠ざかっていたんですね。だから、野球部に入っても甲子園には行けないかもしれないという思いもあって、私はマイナー競技で世界を目指せるボート競技を選びました。

結局、野球部は、私の在学中に甲子園に出場したんですよ。同級生が甲子園のマウンドにいて、私はメガホンをもって応援席にいる。それは野球部にすればよかったと思いそうになりました。でも、それを繰り返しても仕方がないですよね。後悔しないようには、今日1日をどのように過ごそうか、と考えて今に活かすようにしていました。

「後悔を原動力にして、今に活かす」というこの考え方は今でも変わっていません。

今いる道を究めようと全力を尽くす。その時はつらいけれど、結果的には良かったと思えるから、辛いのは乗り越えないといけないと考えて行動しています。

一歩踏み出せずにいる人へのメッセージ

―以前勤めていた旅行会社で訪れていたとはいえ、タイで働くことへの不安やハードルの高さはありませんでしたか?

正直、タイに行く前は不安でいっぱいで、タイへの転職は私にとってすごくハードルが高かったです。タイ行きの飛行機の中が、人生で一番緊張しました。「タイに行くんだ!」って覚悟を決めていたつもりでしたが、いざ直前になると「自分、なにもできないな」と痛感してしまいまして。

ただ、改めて思い返すと、タイで働くことは私が思っていたよりもはるかにハードルが低いと感じます。おそらくタイで働く目的によってもその高さは変わると思いますが、私の場合は自分を高めるために自らの意志でタイに行ったということもあり通常よりハードルが低く感じられたのかもしれないです。

そうはいっても、行ったことない、やったことないことってすごくハードルが高く感じますよね。わたしもそうでした。それでもやりたいことをやるためには成果を出さなければだめだなと思って、最初はとにかく一生懸命やって、そのうちに外から自分のやりたい話が舞い込んできたりして。実際に一生懸命やってみると、とってもハードルが高く感じたことも、案外そうでもないなって思います。

 

―タイで働くことはおすすめですか?

各自の状況と理由にも寄りますが、私はおすすめできます

タイは選択肢の幅が広くて自ら選択できる機会があるという場所だと思います。タイでは仕事でもプライベートでもできることの幅が広くて、自分をどこに置くのか、誰と付き合ってどんな仕事をするのかを自分で選択していきやすいと感じます。ワクワクする若い経営者とも公私共々関わる機会がたくさんあります。

日本は極める、奥深くまで学んで、決まった分野のプロフェッショナルになるという点ではすごく良い場所だと思うけれど、それぞれの役職で活動の領域の幅が決まっていて、自分の働いている領域を超えるのが難しいのではないでしょうか。

それはとてももったいない。私は自分の経験から、タイでは、「え、こんな人もいるの?」と驚いてしまうような人に出会うことができたり、営業マンが経営にもチャレンジできたりと、日本では得にくい発想を得ることができると考えています。

 

ーさいごにメッセージをお願いします。

海外にでると自分がぼんやりと持っていたやりたいことが、はっきりとするきっかけになるのではないかと思います。私自身、転職してタイに行ったことで自分のやりたいことを少しは明確にできました。

また、私はタイにいくことで選択肢を広げることができると考えています。人生で一番緊張する思いをしてタイで働いたおかげで、海外で働くのもいいかなと考えることができるようになりましたし、さきほど述べたように「幅」の広いタイで働いたおかげで発想も多彩になりました。

人生のなかで40年以上働くと考えたときに、選択肢が多いというのはとても強いですよ。そういう選択肢を与えてくれる、そういう機会を与えてくれる組織や地域が必要なんではないかなと思っています。

そうはいっても、タイに行けば良いというわけではない。タイに限らず、後悔だとか欲望に負けて、自分のやるべきことから逃げてしまっては、ネガティブにばかり考えてしまって、自分のやってきたことと、これからやりたいことがつながらないのではないかと思います。人生は一度きり、本気で選択をし、本気で行動し、本気で楽しみたいですね。

 

編集後記

タイで働くのは私たちが思っているよりもハードルが低いのかもしれません。自分でハードルを高くしてしまうよりも、一歩踏み出してみること、後悔を原動力に、今を正解にする努力を怠らないことが重要なのだと感じました。