2016.11.01

今、東南アジアの中心•タイで食、農業分野でイノベーションを起こそうとしている一人の起業家がいる。
東大を卒業し、外資系コンサルティング・ファーム「AT・カーニー」でキャリアを積むという華々しい経歴を持つ齋藤氏は27歳の若さで起業を決意。現在タイの首都バンコクを中心に、食•農業分野で将来イノベーションを起こすべく日々挑戦をしている。そんな熱いビジョンを持つ斎藤祐介氏に起業に至るまでの経緯、そして今後のビジョンについてインタビューをした。

《プロフィール|齋藤祐介氏》
東京大学農学部卒業。東京大学大学院 農学国際専攻を修了。農業や国際開発について学ぶかたわら、インドでのインターンや教育系スタートアップ「mana.bo」の立ち上げを経験。卒業後は、経営コンサルティング・ファーム「A.T.カーニー」で戦略コンサルタントとして活躍後、2014年8月、Empag Pte. Ltd.を石崎優氏(現COO)らとともに設立し、CEOに就任。
現在はバンコクを拠点に、産直野菜宅配サービス「EMFRESH」と、アジア農業メディア「Agri In Asia」の運営を中心に事業を展開している。

バンコクを拠点に産直野菜のデリバリーサービスを運営

ー提供しているサービス内容について教えてください。

バンコクを拠点として以下2つの事業を軸としてサービスを提供しています。

1. 産直野菜の宅配サービス「Emfresh Office」の運営

EMFRESH for Officeは、法人向けに毎週産直サラダの宅配を行うサービスです。サービスに加入すると冷蔵庫が設置され、そこに毎週2回新鮮な産直サラダが届けられます。バンコクでも注目浴びつつある健康促進の福利厚生サービスとして、様々な業態の企業に利用されています。

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2. 「Agri in Asia」という農業メディアの運営

AGRI IN ASIAは、アジアの農業の「今」を伝えるメディアです。

穀物・野菜などの価格変動や、アジアのマーケットの現況、遺伝子組み換え等のバイオテック、 農業に関連する新テクノロジー、農業に関連する新ビジネスなど アジア × 農業の「今」を幅広く伝えています。

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ー現在の事業をされている背景について教えてください。

EMFRESH for Officeは野菜不足に悩む忙しいビジネスマンのために作ったサービスです。もともとタイはあまり野菜を食べる文化ではありません。WHO (世界保健機関) が毎日400gの野菜を摂取することを進めているのに対し、タイ人は平均約100g、つまり4分の1しか摂取していません。日本は約200gの摂取しか出来ていないのですが、それでもタイの倍は食べています。

そういう背景もあって、特に日本や海外から来ている駐在員の方たちは野菜不足に悩んでいます。そういった方々に、便利に新鮮な野菜を継続して食べて頂くサービスとしてEMFRESH for Officeを提供しています。もともと知人にそういう野菜のデリバリーサービスがあればいいよね」と言われたのがサービス開始のきっかけです。自分自身も実際に社内でテスト的に使ってみて確かにいいなと思い、正式に事業としてスタートしました。

実際にスタートしてみると外国人だけでなく、タイ人にも強い需要があることがわかってきました。今タイは健康ブーム。特に若い女性の職員の方に喜んでもらっています。

さらに、今は日系企業や外資系企業だけでなく、タイの企業にも興味を持ってもらっています。企業も福利厚生サービスのなかでも、とりわけ従業員の健康促進に力を入れるようになってきました。
例えばフィットネスのディスカウントや、健康的な社食を提供している企業もあります。その中で我々は野菜の摂取にフォーカスをし、福利厚生の一つとしてサービスを提案しています。

 

ー1つ目の事業・野菜のデリバリーサービスについて、サプライヤーとなる農家とはもともとつながりがあったんですか?

いいえ、ありませんでした。

ゼロから自分たちでパートナーとなる農家を見つけました。地道にファーマーズマーケットに足を運んだり、農家の方が自身のFacebookページを辿って一軒ずつ連絡をしたりして、開拓をしています。

農家を実際に訪問し、生産者の想いや圃場の様子を理解した上で取引を開始しています。現段階では、物流の都合で取引が出来る農家が限られているのですが、少しづつ取引相手を拡大していきたいと思っています。

 

ータイで採れる野菜と日本で採れる野菜の違いはありますか?

もともとはタイ料理に使う野菜が多かったのですが、今は日本や西洋の野菜が市場に出てみますよ。例えばサラダに使うロメインレタスやアイスバーグ、ルッコラやビーツなどもですね。もともとサラダ用の野菜はタイには少なかったんですけれども、最近は海外から技術を学んで育てているところが増えています。

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ータイでも屋台やスーパーで野菜が売られている場面は見かけます。Empagで扱っている野菜と普通に売られている野菜の違いは何でしょうか。

屋台で売られているものは、基本的に炎天下の中運ばれ、あまり衛生的でない市場を通じて売られています。野菜は温度にあまり強くないですし、バンコク市内に輸送するまで3時間~8時間はかかっているので、生野菜として食べるには新鮮さ・安全さともに怪しい野菜が実際多いのが現状です。
もちろん、良い農家、悪い農家によって違うのですが、多くの農薬を使われていたりもします。

%e9%87%8e%e8%8f%9cバンコクでは新鮮とは言い難い野菜が陳列されていることが多い

スーパーは法人を作って自分をブランドを持って売れている比較的クオリティは保証されていますね。ただ、大量のロットを保証し、陳列するための手数料とコミッションを払わないとスーパーには置くことが出来ません。

我々は小ロットでしか作れないけれど、こだわりの野菜を作っている農家から直接仕入れることで、より美味しく、より新鮮な状態で、農家も消費者も喜んで頂ける価格帯で提供するよう努力しています。

 

インドでのインターン、外資コンサルでの勤務を経て起業!

ー農業•食分野でビジネスをするに至った経緯について教えてください。

学部時代、休学してインドへインターンに行った経験が大きいですね。インドでは貧富の差が激しく、路上生活者もたくさんいます。私が農村部を訪れた時にも、ある1人の貧しい身なりをした物乞いに出会いました。

彼は英語を話せたので言葉を交わしてみると、その時に私たちの目の前に広がっていた畑が、彼のものだと言います。それを聞いて、「こんなにしっかりした畑があるのに、なぜ物乞いをしなければならないのだろう?」と、ただただ不思議に思いました。

それが技術的問題なのか、経済的な問題なのか、はたまた社会的な問題なのか、どういった構造の問題で、その問題は数十年後に果たして解決がされているのだろうか、そういったことを知りたいと思い、大学では農業関連の勉強をすることにしました。

大学院まで行きさまざまな角度から勉強をしましたが、農業は非常に複雑で問題も根深く、正直課題を特定することは充分できたとは言えません。

ただ、新しい技術、例えばIoTや衛生技術、そしてスマホの普及など、大きな変化がある中できっとこれからの農業はまた違った形で成長をしてくだろう、その中で今まで考えていた問題の解決の一途が見えるのではと思っていました。

たしかに変革の芽は出て来ている気がする、これは実際の現場で自ら試行錯誤しなければ何もわからないと思い、農業・食分野のビジネスフィールドに実際に飛び込んで事業を起こすことにしました。

 

ータイでビジネスをされてみて難しいと感じる点はなんでしょうか。

正直、様々な場面で困難にぶつかっています(笑)。

当たり前ですが文化、消費者の嗜好も日本のそれとは全く違います。就業感も大きく異なるため、日本とは違ったマネジメントが必要です。タイに来る前にそういった異文化はある程度予想はしていたものの、現実は想像していたより違いました。「日本の経験を踏まえるときっとこうだろう」と考える仮説が覆されることがしばしば起こります。

何か仕事をする際に、どのくらいの質のものがどのくらいの時間がかかるのかが読めないことは指示を出す立場としても、自分で計画を立てて動く上でも、非常に難しいと感じます。

たとえば、XX業界の企業リストを作ってという仕事も日本だったら大体のプロセスや工数、難しさがなんとなくイメージできるので、たいていの場合予想通り終わるし、うまくいかなかったときには指導ができる。

しかし、実際はタイの市場ではそんなデータがすぐに出てくる状況ではなく、何時間かけても終わらないなんてこともあります。ちょっとやってみてこれはそもそもできなかった、別の方法でないといけないなど、方向転換をすることは日本より多い気がします。

社内のコミュニケーションそれはそれで難しいんですが、さらに外に出た時に消費者の考え、行動などもまた同様に読みづらいです。例えばタイ人の提案してきた広告やビラを、私はイケていないと感じていても、タイ人が「タイ人にはウケる!」と言っていたら、タイの文化的に本当に響くかもしれない。これは本当に今の自分では判断するのが難しく、試してみないとわからないなんてこともある。

なので、私自身、現地に溶け込んで深く文化・食習慣などを学ぶと同時に、組織としても高速でPDCAを回す文化を作り、より多く行動しより学びを得ていこうとしています

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ー一方で、アジアでビジネスをする醍醐味はなんでしょうか。

まず東南アジアは今まさに市場が誕生し大きく成長している状況なので、面白いですね。

今後のASEANは当然ですが、人口も増えますし、経済も発展していきます。農業分野に関しては、まだまだ先進国の日本に比べてインフラが整っていないこともあり、これから大きく変わっていくということが予想されます。日本と比べて、何もないないところから自分たちで小さいながらも新しい変化、産業を起こしていくことは非常にエキサイティングで醍醐味ですね。

特にタイはもともと農業国というのもあるし、様々な国や新しい食文化に寛容な国なので、経済成長に合わせた変化も大きい国だと思います。まだまだ冷蔵物流だとか衛生的な卸市場といった一般的なインフラが整っていないにも関わらず、例えばファーマーズマーケットも流行っていて、日本で最近現れたビジネスやトレンドが何もないところからいきなり生まれ始めています。

食分野を見てみると、スマホ、ITの普及によってデリバリーサービスもすごい勢いで展開しています。フードパンダや、HappyFreshなど、バンコクでは次々と新しいサービスできてきています。このような大きな変化が既存産業である食・農分野で日々起きています。そういう環境にいると、自分たちもそういった変化を起こしたいし、起こせると思ってきますね。

 

ー齋藤さんは27歳という若さにして起業をされていますが、経営者として難しいと思う点はなんでしょうか。 

価値観の異なる、考え方が異なる様々な人たちと共に、一つの物を作りあげていくことに難しさを感じています。

海外ということもあって、一人一人がこれまで生きてきた経緯、豊かさ・貧しさ、人生観などは日本と比べても相当なバラエティがあります。ただ会社としてチームとしてやっていくには同じ方向を向いて、その一つの目標に対して走っていく必要があります。

大きな目標に対して共感をしてもらうと同時に、彼らが個人として達成したいものも尊重をして周りを巻き込んでいくことを大事にしています。特に事業創業フェーズの段階は何もなくてゼロの状態、具体的なことはまだわからない状態です。本当に正しいやり方というのもわからず、日々試行錯誤が必要になります。そんな何もわからない状況でも、一緒に同じ方向を向いて汗をかいて働き考え抜いて頑張るようなチームを作るため、日々工夫をしています。

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ー経営者として組織作りにおいて工夫していることは何でしょうか。

新しいことは全て自分が率先して実行するということです。

自分が真っ先に挑戦しますし、スタッフが失敗をしてもその責任は自分が持つ、といった姿勢を大事にしています。チャレンジをし続ければ、どこかで成功するということを自分自身が証明して、チャレンジをしやすい風土を作れればと思っています。

 

アジアの食、農業分野でイノベーションを起こしたい

ー今後のビジョンについて教えてください。

10年後、20年後に今後変化していくアジアの食・農業産業において自分たちがやっている事業が、産業の中で一部でもいいので確かな爪痕を残し、それがインフラとなっているといいなと思っています。

実際にやってみて体感しているのは、農業・食分野でイノベーションを起こすのは簡単ではないこと。困難な道ですが、現在は様々なことを試行錯誤をしながら日々チャレンジをし続けたいと思っています。

 

ーインターンも募集されているんですね。

はい。Empagでは、タイ・日本オフィスともにインターンを募集中です。
アジアで、農業・食という社会の根幹を担う産業を変革することに興味がある人は、ぜひお気軽にご連絡下さい!

インターンシップ・採用の詳細はこちら:http://recruit-jp.empag.sg
連絡先はこちら:info@empag.sg

またAgri in Asia主催のイベントも11/13(日)に東京で行うため、ぜひ農業ビジネスの未来について興味のある方はご参加ください。弊社COO石崎も登壇します。

 

編集後記

バンコクでインターンを始めてからずっとお世話になっているEmpagに念願のインタビューが出来ました。
ちなみに先日、僕のインターン先のJAC RecruitmentにEmpagから野菜デリバリーが届きタイ人社員と頂いたのですが非常に好評でした。
面白いと感じたのは、野菜を起点として部署を超えたコミュニケーションが生まれたこと。こういった食のサービスはただ野菜が食べられることだけがメリットではなく、食べるときに生まれるコミュニケーションで新たな関係を作るよい契機にもなるのだな、と学びました。

またいつも等身大の目線で的確なアドバイスをくださる齋藤CEOと石崎COOからはいつも学びを得ています。

残り2ヶ月を切ったタイでのインターンですが、将来2人に恩返しが出来るよう今後も自己研鑽を積み重ねていこうと思います