「ITを駆使して採用を効率化することでタイと日本に貢献したい」TalentEx代表 越陽二郎氏

2016.10.04

2014年8月の第1回目のインタビューから約2年。当時はTalentExを立ち上げたばかりの越氏だが、現在はタイの成長の乗り事業の多角化を進めているとの噂を聞きつけ、2016年9月末に再インタビューを決行。「ITを駆使して採用を効率化することでタイと日本に貢献したい」と語っていた越氏の想いに、どんな変化があったのだろうか。

《プロフィール|越陽二郎氏》
1984年生まれ。2008年東京大学卒業。2009年、株式会社日本能率協会コンサルティング入社、経営戦略コンサルタント兼アジアマーケティングチームメンバーとして従事。2011年、株式会社ノボットに入社、KDDI子会社medibaへの売却に伴い、同社の海外戦略部創設に参画。タイ拠点立ち上げリーダーとして1年の任期を終えた後、2013年3月退社。同年11月バンコクにてTalentExを創業。

前回記事|タイのオンライン採用市場を拡大する衝撃を!成功報酬型採用サイトJobTalents CEO 越陽二郎氏

IT✕人事でタイに貢献したい

—2014年8月にインタビューをさせていただいてから、約2年が経ちました。当時は完全成果報酬型の採用サイトJobTalentsを立ち上げたばかりでしたが、それ以降に事業内容に変化はありましたか?

JobTalentsが軌道に乗ってきたので、2015年5月からタイの日本語人材向けWakuWaku Job Fairを開催するようになりました。JobTalentsがわりとITのスタートアップ企業向けだったのに対し、WakuWaku Job Fairは日本の大企業向けですね。2016年1月からはウェブ上で求人サイトとしてもサービスを開始しました。

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さらに、3つ目のサービスとして、HappyHRという人事のクラウドサービスを2016年から始めました。どれも人事領域ではあるのですが、HappyHRは他の二つとはかなり性質が違います。例えば、給与計算や勤怠管理をするためのソフトウェアや、採用管理のApplicant Tracking System (ATS) を提供します。

元々市場に存在するソフトもあるのですが、クラウドの時代になり法改正への対応の即時性やモバイルや他システムとの連携による効率化、人工知能やIoTといった新技術を加えた高度化などで大幅な発展の余地が出てきました。

 

人事領域の無駄を省きたい

—なるほど、WakuWaku事業の日本語人材というマーケットは小さいのではありませんか?

一見ニッチなマーケットに見えますが、タイには日本企業が約8,000社あると言われています。それはタイにある外資系企業の中では最大規模で、同時に私の推定ではタイには数万人規模の日本語人材がいます。

ただ、残念ながら両者のニーズがうまくマッチングしているとは言い難いのが現実です。それは両者の間にある非効率性に起因しています。

まず企業側の視点としては、タイで日本語人材を探そうと思うと大きく2つあり、人材紹介会社に依頼するか、ネットで探すかですが、前者は比較的コストがかかります。

コストを抑えようと思うとネットを使う手段がありますが、Facebookグループや無料の掲示板のようなものに投稿していくのは知識が必要ですし、日本語人材以外のあらゆる職種を集めた地場の大手求人サイトもありますが応募がない場合に、登録されている人材から適格な方を一人一人探していくのは非常に手間がかかります。

ここで日本語人材の特徴が関係してくるのですが、日本語人材を探す際は大概イメージが絞れています。「社長秘書なので日本語能力試験N1の女性」や「貿易の部署の社内通訳なので業界経験がありN3の人」など。WakuWakuではこのような人材をピンポイントで性別・日本語級・大学・留学経験などからすぐに割り出せるデータベースを構築しました。

ですので今までコストもしくは手間がかかっていた部分を省き、細かくスクリーニングできるサービスを提供することに意義があると信じています。

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ルーティンワークは機械に任せて他に労力をかけてほしい

ーなるほど。人事の手間を省く、というのは第3のクラウド事業にも関係しますか?

そうですね。たとえば人事は採用以外に給与計算という業務を毎月しますがここも非効率になりやすい業務です。

一例としては、未だに20年前の給与計算ソフトを使っているような例ですね。人事が5人いて、その内3人が給与計算に従事している。給与計算はほぼルーティンワークなので、新しいソフトウェアを導入すればかなり効率化できるのですが、新しいソフトウェアを導入するよりも人件費の安いタイ人にやらせれば良いという理由で導入しないのは、たしかに企業として費用対効果を考えたら合理的な判断なのかもしれません。

しかしそのタイ人にとって、ひたすら同じ業務に従事していただけでは、高度なスキルも身につかないですし、その会社に居続けるモチベーションを持つのも、転職するための高い評価を得るのもかなり厳しくなりがちです。

だからこそ、機械でできることは機械に任せて、そういった人材をもっと高度化させるのに労力をかけてほしい。そういった想いでソフトウェアを開発してきました。
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—なるほど、「ITを駆使して採用を効率化することでタイと日本に貢献したい」という想いは2年前からぶれずに一貫しているのですね。

そうですね。ITで人材の分野に貢献していきたいと思っていたのと、使えるITの武器がここ2年でかなり増えてきたのも追い風です。人工知能などは数年前だと手が出せないほど高価だったものが、最近はGoogleやFacebookが無料で提供してくれるようになりました。人工知能の仕組みというのは大きく分けるとエンジンとデータに分かれるのですが、エンジンの仕組み自体の価値は下がってきていて、むしろ鍵になるのはデータです。

人材紹介会社は豊富なデータを持っているものの、エンジンに弱い。しかしGoogleやFacebookはそういった生のデータを欲しがっているので、両者の需給がマッチしているのです。

 

官民連携で日泰の関係を強めたい

—時代の流れですね。そういえば、最近はタイでスタートアップが盛り上がっているそうですね。

2016年8月31日にタイと日本の起業家4人ずつが、タイと日本の大企業や政府関係者にプレゼンをして、スタートアップ ✕ 大企業 ✕ 政府の相乗効果を狙ったEmbassy Pitchというイベントに携わらせていただきました。大使や大臣の方々も参画され、今後はEmbassy Pitchの開催や政府への政策提言などを通して両国の関係をより強くしていくことに決まったので、とても楽しみですね。

20160831142614_img_5368-01(前列右から6番目が佐渡島駐タイ日本大使、7番目がタイ政府科学技術省ピチェート大臣、10番目が越氏)

修羅場を乗り越えたからこそ見えるものがある

ー2年前のインタビュー以降に何か印象的なことはありましたか?

資金が尽きて「もうダメか・・・」と思ったことが何度かありました。今だから言える話ですが、1回目はちょうど2年前にアセナビのインタビューをしてもらっていた時です。あのときも資金調達中で、インタビュー中は笑っていましたが、裏では心配で仕方がありませんでした。

結果的には無事乗り越えましたが、以降は成長一辺倒での資金調達頼みではなく自社での売上・利益にも重点を置くスタンスに変えました。

他にも大きな案件が決まって大金が入ると思っていたら急にその案件が飛んでしまい、給与が払えない状況に追い込まれたりしました。

似たようなことは何度かありましたが、予期せぬことで危機が襲ってきますし、予期せぬことが道を切り拓くのかなと。

私はアインシュタインの「人生には2通りの生き方しかない。奇跡なんかないと思って生きる生き方と、人生はすべての瞬間が奇跡だと思って生きてる生き方と。」という言葉が好きで、それを噛み締めてやってきました。

 

タイ人が日本語を勉強してくれる理由

—今更ですが、タイ人にとって日本語を勉強する理由は何なんでしょうね?中国語やスペイン語の方が話者は圧倒的に多いのに、なぜでしょう?

単純に日本語・日本文化というのに魅力を感じてくれているからだと思います。日本の文化、アニメ、ゲーム等がきっかけで日本に興味を持ってくれているから日本語を勉強してくれるのだと思います。

ただ、残念ながら日本企業のタイ人向け給与は相対的に下がってきており、せっかく日本語が話せるのに、給与が高いタイの大手や欧米系の会社で日本語を使わずに働いている人たちがかなりいます。

私はそれが日本にとっても、その本人にとっても非常にもったいないなと思います。そんな貴重な人材を取り逃がしているということは、将来の日泰の関係を考えるとどれだけの損失になっているか・・・。

それは見過ごしてはならないと思っているので、日本語人材には日本語を活かして働き続けてもらえる環境を創り出していきたいです。そういう想いでJobTalentsも、WakuWakuもHappyHRもやってきました。

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会社はキャッシュがなくなった時でなく、経営者の心が折れた時に死ぬ

—最後に読者へのメッセージをお願いします。

2年前に言った「子供の世代に良好な関係を受け継いでいくために、東南アジアの人達に貢献し続けたい」というのは変わらないですね。

タイに来て3年経った今だから思うことは、諦めないでほしいということですね。

私が起業して最初に出資してくださった方は「会社はキャッシュがなくなった時に死ぬんじゃない。経営者の心が折れた時に死ぬんだ」と仰っていました。それは会社の経営に限った話ではなく、今やっていることが辛くて自分の想い通りにならなくても、諦めずに軸を持って努力していれば必ず道は拓けると思います。

 

ABOUTこの記事をかいた人

長田壮哉 / Masaya Osada

関西学院大学商学部ファイナンスコース5年目。ASEANデビューは高校1年の時に修学旅行で訪れたシンガポールとジョホールバル。大学1年の時に参加したインドネシアでのインターン中に「熱気」と「可能性」を感じ、その後はタイでのボランティアや、ASEANを周遊しながら現地でのインタビューを経験。さらには、ASEAN発足日である8月8日に生まれたということに運命を感じ、ASEANと日本を繋ぐ"Mr. ASEAN"になるべく、ASEAN10カ国を完全制覇。2016年7月~2017年5月にかけて、トビタテ!留学JAPAN4期生新興国コースとしてシンガポール国立大学での修行を終えたものの、2018年4月から再びシンガポールへ渡り外資系投資銀行に就職予定。将来の夢はアジア最強の名門大学を設立すること。一番好きな国は日本。