「カンボジアの夢と希望と勇気の象徴として国民の生活に欠かせない心の潤いとなる」 カンボジアでサッカークラブを経営する加藤明拓氏

2016.08.08

現在、東南アジア諸国において非常に高い熱を帯びているサッカーだが、経営となると収益を出すのが難しいとされている。そんなサッカービジネスを日本ではなく、カンボジアでおこなっている加藤明拓氏にサッカービジネスが国全体の経済を押し上げる理由について伺った。

《プロフィール|加藤明拓氏》
1981年生まれ。千葉県出身。明治大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。組織人事領域のコンサルティング業務に従事後、スポーツコンサルティング事業部の立ち上げ、ブランドマネジメント事業部長を経て、2013年株式会社フォワードを設立。
ブランドコンサルティング領域に関しては、国内大手企業を中心に、ブランド戦略策定~社内浸透~業務プロセス構築を支援。マーケティング領域に留まらず、ブランドを「経営」や「組織」という観点から捉えるコンサルティングを得意とする。
スポーツコンサルティング領域においては、Jリーグ、プロ野球、ラグビー、バレーボール、バスケットボールなどを中心に数十チームにおいて、選手のモチベーションマネジメントやチーム運営を支援している。

 

2日後に解散

タイガー①

カンボジアンタイガーを運営するに至っている経緯を教えてください。

経緯は2つある。1つ目は、もともと東南アジアのマーケットに注目していて、カンボジアに行った時にカンボジアンタイガー(前身トライアジアFC、以下タイガー)がつぶれかけていたんだよね。当時、そのクラブは2日後に解散って言われていたんだけど、ある日本人が「このままじゃ選手とその家族が路頭に迷うことになるから、自分が引き継ぎます」と言って、運営費を自腹で払っていた。でも彼の資金も2ヶ月で尽きることがわかっていたから、オーナーを探していたみたいで。たまたまそのことをfacebookで知って、彼に「買収額と財務状況を教えてほしい」とメッセージを送ったのが大きなきっかけかな。

2つ目は、学生の時にカンボジアでストリートチルドレンと出会ったこと。何がほしいか尋ねたら、家とか食べ物じゃなくて、「ボールが欲しい」って言われたんだよね。正直、社会人になってカンボジアはマーケットが小さいからビジネスの選択肢に無かったけれど、その出来事もタイガーを運営する後押しになったのかなと、今では思うね。

 

-もともと加藤さんはサッカーをされていたということで、クラブ経営をしようと考えていらしゃったんでしょうか?

そうだね。これもタイガーを運営するようになった経緯につながるんだけど、クラブ運営しようと思った理由は2つある。

1つ目は、Jリーグを10年以内にクラブを持ちたいという目標を、会社設立(株式会社フォワード、以下フォワード)の前から持っていた。だから今、フォワードの事業としてもサッカークラブに対してコンサルティングを行っているんだよね。でも、運営経験はないから、一度、自分でクラブ運営の経験しておきたかった。

2つ目は、実績。Jリーグを買うときにカンボジアで黒字化できていれば、Jリーグの経営もうまくやっていける可能性が高いと思ったんだよね。正直、会社創業1年でまだ先が読めてない時に、買収額500万円、年間3500万円赤字が出るような収益構造を改善できるかどうか少し不安で、20分くらい悩んだ。でも、クラブのオ-ナーに大切なのはお金の使い方とタイミングだから。この機会逃したら、正直クラブ経営できるのはいつになるかわかならいと思って、経営することにした。

 

メッシ越え、バルサ越え

-日本のJリーグにおいては、ほとんどのチームが赤字経営ですが、カンボジアンタイガーさんの運営状況はどのような状況なのでしょうか。

今年の経費が4,500万円くらいで、売り上げが1,500万円くらい。だから、3,000万円の赤字。今はフォワードの本業であるブランドコンサルティングから補てんしている。ただ、スポーツビジネスは俺の趣味でやっているのではなくて、このビジネスだけで収益上げるつもりでやっているし、20年以内にメッシ越え、バルサ越えをしてみせる。バルサって売り上げ750億、営業利益150億で、そこに到達するためにサッカービジネス以外の周辺ビジネスでも収益を上げる必要あるからスポーツを通じたハブを作ろうとしている。

 

-スポーツを通じたハブというのは具体的にどのようなものなのでしょうか。

観光業に繋がるようなビジネスを考えている。今年の1,500万円の売り上げの内訳は、日本で900万円~1,000万円、カンボジアで500万円くらい。日本ではスポンサー企業と個人会員(応援会員)から、売り上げを得ていて、カンボジアはスポンサー企業と、チケット収入とグッズ販売から売り上げを得ている。あとは、サッカー協会からの分配金とサッカースクールの経営からも多少得ている。今後はハブを作るために、スポンサー企業と個人会員を増やすだけではなく、サッカークラブがあるからこそできる、観光業とかにも手を出していきたい。

 

-加藤さんがカンボジアンタイガーに関わるようになってから、資金面で大きな改善があったと思いますが、チームの成績に変化はありましたか。

カンボジアリーグは10チームあるうち、私が運営に携わる前の年は5位だった。就任1年目で3位になった。今年はまだ終わってないけど、3位から6位の間くらい。

資金面で言うと、私が来る前の年は一年間で5,000万円ほど使っていた。去年は3,700万円で今年は4,300万円くらい。そういう意味でいうと、お金をあまりかけなくても考え方とか組織の文化作りが強化されて、結果に結びついたんじゃないかな。

次のステップは、カンボジア全体としてもレベルが上がってきているから他のチームとの差別化という意味で、タイガーは観客をどう楽しませるかってことを考えているし、ポジティブな思考を国民の間に根付かせたい。

 

君たちの仕事はサッカーをすることではない。

タイガー②

-加藤さんは以前、世界初の「モチベーション」にフォーカスした経営コンサルティング会社である株式会社リンクアンドモチベーションにお勤めだったということで企業の組織変革を「モチベーション」の観点からおこなっていらっしゃったと思います。その経験を活かしてフロントスタッフや監督,コーチのモチベーションを高めるためにどのような工夫をされているのでしょうか。

組織創りは、特に力入れているよ。タイガーは『カンボジアの夢と希望と勇気の象徴として国民の生活に欠かせない心の潤いとなる』っていうミッションを掲げているのね。

ポルポト政権時代に5年間虐殺の歴史があって、教育インフラを全部壊されたから、カンボジアは他のASEAN諸国に比べて出遅れている。それが一つの原因となって、「頑張ってもしょうがないよね」って雰囲気が生まれてしまっている。これはサッカー選手においても共通していて、タイガーに来た当初は02になると、急激にやる気がなくなるような状況だった。

だからよく選手たちに、「君たちの仕事はサッカーをすることじゃないよ。国民に夢と希望と勇気を与えることが仕事だよ」と言っている。3年・5年後、タイガーは、町を歩いていたら感謝されたり、サインを求められたりするようになるからって。そのためにピッチ内でできることは、たとえ負けていたとしても最後まで頑張ること。だってテレビで応援してくれている子どもたちがテレビの前で試合を見ている時に02で負けているからって選手が諦めていたら、子供たちに夢とか希望勇気を与えられるかというと、無理だよね。

だから、選手だけじゃなくて、フロントスタッフや監督にも常にタイガーのビジョンを伝え続けている。去年はチーム全体でビジョン共有研修やっていたおかげで、行くたびに彼らが変わっている姿が見えてきたかな。例えば、Facebookにくだらないことしか挙げてなかった選手たちが、最近ではファンに向けたメッセージを発信するようになった。サッカーをする目的が、家族の生活を支えるっていうことだけではなく、自分たちを応援してくれている全ての人に夢を与えるため、と考えるようになった。

 

-素晴らしいビジョンですね。ビジョンの浸透度などを含めて、今抱えている課題はありますか。

もちろん、あるよ。2つ言うと、1つ目が、想いの差。選手の中にもフロントスタッフの中にもビジョンに対する想いに差はあるから、常にビジョンは伝え続けないといけない。いくら優秀な選手であっても、タイガーのビジョンにあまりにも適していない考え方、行動をしている場合はその選手の契約を解除する。実際、去年主力選手の契約を解除したしね。その時、監督に反対されたけど、今は文化作りの大切な時だってことを、監督にも他の選手にも説明した。このクラブは何を目指しているのかを伝えつづけているから、去年はその前の年より少ない資金でいい成績を出すことができた。

2つ目は収益だね。運営ビジョンで独立採算を掲げているけど、まだまだ届いていない。もしフォワード本体が厳しくなったら、タイガーの運営資金を補てんできなくなる。そうすると、クラブが生き残れない。でも、独立採算できてれば、クラブとして存続できるよね。そういう状態を早く作らないといけない。

独立採算にするには、やっぱり、日本の方々にもっとタイガーのことを知ってもらって個人会員を増やす必要があるし、現地に根付いた取り組みをして、現地の企業の支援も受けられるようにする。

 

地域ごとのアイデンティティ

カンボジアンタイガー③

-今後のビジョンについて教えてください。

来シーズン、クラブの拠点をプノンペンからシェムリアップに移す。プノンペンはカンボジアの中でもビジネスの中心だし、情報が溢れているからプレミアリーグも見ることができる。だから、カンボジア人の目がだんだん肥えてきたんだよね。そうすると、競技の質だけで観客を魅了するのは難しく、何かしらのメッセージを伝えていかないといけない。

そもそもサッカークラブの一つの大きなメッセージ訴求は、アイデンティティなのね。でもカンボジアの現状、10チーム全部がプノンペンに集中しているからアイデンティティを伝えにくい。各々のアイデンティティを出すためには、各クラブがカンボジア国内の様々な地域に分散して、各地に根付いていく必要がある。だから、その先頭をタイガーが切っていきたい。そして、地元に愛されるクラブをどうやって作るかってことを考える。観光客も来てくれるようなクラブにして、収益を増やすのもそうだし、現地の人たちに愛されるようなクラブにしたいな。

だから、今はオリンピックスタジアムっていう国立競技場みたいなところを借りてやっているんだけど、来年シェムリアップに拠点を移したらシェムリアップスタジアムの指定管理をとって、できれば自分たちのクラブで運営できるようにしていく。

 

-確かにそこの地域に根付いたチームというのは見る方々に深い感動を与えますよね。では、中長期的なビジョンも教えていただけますか。

もともと『10年以内にJリーグを持つ』って言っていたんだけど、カンボジアでクラブを持った瞬間に、『ASEANでカンボジア、タイ、ベトナム、インドネシア、そしてJリーグの5クラブを10年以内に持つ』という目標に変えた。ナイジェリアでもサッカークラブ買ったから、アフリカを含めて6クラブって最近は言っているけど(笑)

今はカンボジアのみだけど、ここだけでは収益が少し厳しい面もあるからタイやベトナム、インドネシアのサッカークラブと提携なんかも考えている。

東南アジアでサッカーの価値が高いから、うちのスポンサーをやれば、商品プロモーションできますよとか、ビジネスマッチングしますよっていう提案も色んな企業に提案できると思っている。

 

止まったまま遠くに何かを探しても輪郭は見えない

最後に海外に一歩踏み出そうと考えている若者に向けてメッセージをお願いします。

「想い描くものを人に伝えて、行動する」ってことかな。「描く」ときには、小さい方向性ではなくて大きい方向性をちゃんと描く。私だったら、「メッシ越え、バルサ越え」っていう大きい方向性を描いて取り組んでいる。あと、描いた後に発信することは実現度を高めるよ。それは無理でしょとか言う人もいるけど、応援してくれる人が増えれば増えるほど実現する可能性って高くなるでしょ。だから、思っていることがあれば、思い留めないで、色んな人に会って言った方がいいかな。

でも、描いて、方向性決めて、口で言っても動かなきゃ実現しないから次は「動く」。動き初めて方向性変わったらそれはそれでいい。だって、大きな山を登りたいなって登り始めたら、この時はこうやって登ろうとしたけど、こういう道の方がいいなとか思うこともあるでしょ。止まったまま遠くに何か探してもやっぱり、輪郭みえないから、若い人には海外行ってみるでも、なにか思いっきり頑張ってみるでもいいから「動く」ってことをしてほしいね。

 

取材後記

私も幼稚園の頃から高校までサッカーに明け暮れていた。私自身サッカーをしていたからこそ、心身ともに鍛えることができた。大学2年の夏にカンボジアに訪れた時には小学生とサッカーをしてコミュニケーションをとることができたが、サッカーを通じた人々との感情共有の素晴らしさに改めて気づくことができた。そんなサッカーの可能性に惹かれ、私もサッカー経営に今日も持ち、大学の講義でスポーツビジネスについて学んでいた。加藤氏もおっしゃっていたように東南アジアではサッカー熱が高いため今後もサッカーの可能性について注目していきたい。

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ABOUTこの記事をかいた人

井上良太

中央大学商学部経営学科卒業。大学2年の夏にカンボジアに訪れたことがきっかけでASEANや教育、国際協力に興味を抱くようになる。
3、4年次のゼミでは社会問題を事業で解決している社会的企業を専攻し、インドネシアの社会的企業とのネットワークを広げていた。
現在は株式会社パソナの社員として雇用を通じた社会貢献の方法を勉強中。
将来は国内外で社会的企業のプラットフォーム作りに関わりたいと考えている。