「人口が減少し続ける日本において、外国人を受け入れないという姿勢は、今を守ることでしかない」 株式会社エバディ代表取締役 金明正氏

2016.07.10

グローバル化という言葉が日本でもなじみあるものとなって久しい。その中でも、人材業界はグローバル化と親和性が強い。今回は、国内外の人材紹介業をおこなう金明正氏にお話を伺い、人材という視点から見た「日本のグローバル化」に迫った。

《プロフィール|金明正氏》
米国ネバダ州立大学卒。2002年 京セラ株式会社入社、移動体通信機器事業部にて海外マーケティング・商品企画を担当。2005年、株式会社リクルートエイブリック(現株式会社リクルートキャリア)へ転職し転職希望者に対するキャリアコンサルタント、法人営業としてIT・Web業界企業に対しての採用コンサルタントなどを経験。
2010年リクルート海外法人(RGF Hong Kong limited)へ出向、香港・ベトナムにて人材紹介事業立上げ。ベトナム法人では、2年間現地法人代表を務める。 その後、シンガポールやインド支社において 業務改善プロジェクトを担当。2015年株式会社エバディを創業し、代表取締役に就任。

 

大学時代にアメリカでホテル経営学を学び、国内メーカーに就職

━ これまでの経歴を教えてください。

高校時代、将来空港やホテルなどの国際的な環境で働きたいと思い、大学で英語を専攻しようと考えていました。そんなときに家族からアメリカの大学への進学も一つの選択肢であることを提案され、その瞬間にアメリカに行くことを即決しました。アメリカに行けば、英語は話せるようにならざるを得ないし、専門的な勉強もできるので一石二鳥だと思ったんです。

最初はテキサスの大学で経営学を学び、2年が経過したところでホテルの経営に特化して学びたいと考え、当時ホテルの経営学を学べる環境として全米でも1、2を争うラスベガスの大学に転学しました。日本での就労も考えていたため、大学を半年休学し日本の就職活動のスケジュールで就職活動を行いました。

 

━ ホテル業界に興味があったんですね。その後は国内メーカーに就職されましたが、それはなぜでしょうか?

もちろん就職先を探す際、国内のホテル業界も考えていました。実際、伝統ある日系ホテルでの内定もいただけるところでしたが、自分のような人間が誰一人おらず、かつ自分が全く知らない業界で勝負したい気持ちもあり、京セラに入社することにしました。

選んだ理由としては、セラミックという会社独自の軸を持っていたということです。「あなたはどんな会社で働いているの?」と聞かれたときに、はっきりと答えられる会社だなと思ったんです。言わずもがなですが、経営思想についてもとても興味深かったというのも要因です。消費者のことを考えてモノを作り売るということは、ホテルなどのサービス業と本質的に目的は大きくは変わらないとも思えたんです。

 

リクルートで海外法人立ち上げを経験

━ なるほど。その後リクルートキャリアに転職されましたね。そこを選んだ理由は何でしょうか?そしてそこでどのようなこと経験されたのでしょうか?

きっかけは、アメリカ時代の友人から紹介されたことです。会社の雰囲気も自分に合っていると感じられたし、人材もサービス業界の一つ。これまで自分が学んだことも生かせるだろうとも思いました。

日本で5年間ほど経験したのち、社内公募制度で手を挙げ、海外出向となり海外拠点の立ち上げも経験できました。日本国内で採用コンサルタントとして働いていても、いざ海外拠点を設立しスタッフを集める時に、「さてどうやって採用したら良いんだっけ?」といった感じで。人を採用するということはこんなにも難しく、責任感を持ってやらないといけないんだなと改めて感じました。現地法人代表をしていく中で、様々なことを思い知りました。

全く何もない状態から自分一人でやっていくことは大きな経験になったと思います。知らないことや経験したことがないことなんかも、今まで以上にためらうことなくやってみようと思えるようになりましたし、実際にどうやっていくかを具体的に考え実行する力がついたと思います。海外拠点の立ち上げは今でも本当に役に立っている経験ですし、そんな経験を積ませてくれた会社に大感謝です。

 

━ 様々な経験をされた金さんですが、リクルートを退社されて独立されていますよね。現在の事業内容を教えてください。

日本国内外の人材紹介です。全業種全職種に対応していますが、ITエンジニアのご紹介が特に強みです。

弊社が特に力を入れていきたいのは、外国人の優秀な人材と日本の企業とのマッチングを一つでも多く生み出すことです。最近では、ベトナムで開発の経験を持っている優秀なエンジニアが日本に語学留学に来て日本語を習得される方の数が増加しています。

海外からの直接の問い合わせにも対応していますが、すでに日本にいらっしゃっている優秀な人材のご紹介もさせていただいており、実際に日本で就業して活躍されている方も増えています。

日本人の方が、海外での求人を探している場合も、キャリアついてのご相談に乗ることもできます。実績ある現地の人材会社と提携しているので、相談させていただいた後のつなぎの部分もしっかりしています。やはり初めて海外で働かれる日本人の方も多いので、そのような方々を現地の実績ある人材紹介会社につなぐことは必要不可欠になるかと思います。他にも面接や採用セミナーなどの代行、会社の事業戦略に合わせた人材戦略の立案のサポートも行っています。

 

もっと外国人を受け入れたほうがいい

━ 外国、特にベトナム人ITエンジニアの方々紹介が強みということですが、その方々が日本で働くとなったときに日本人との技術力などの差などはありますか?

ないに等しいか、むしろ、ベトナムの方の方が優れているケースも多々あります。彼らは大学ですでにITを専攻していて、卒業までに実務で通用するくらいまで教育がなされています。だから技術力の問題などは特にない。

やはり、大きな壁は言語です。それはIT用語の壁ではなく、日本語特有の微妙なニュアンスとかですね。日本人は日本人にしか伝わらない話し方をしているので、表現とか使い方が難しいかな。ベトナム人エンジニアの方々も主語述語を使って、英語的な表現でシンプルにはっきりコミュニケーションをとれば、日本語でも理解はできるんですよ。日本語が伝わらないのではなくて、日本人の話し方が外国の方にとって分かりにくいということです。

例えば「これを、あそこにいつまでに終わらせておいといてね」とか、「この機能を加えたいから、いつまでにプログラミング作ってください」と言えば、わかりましたと言ってくれる。しかし、「こんな感じにしたいから、時間があったらやっといて」とか言っても、彼らは「時間があったらって納期はいつなんだろう」と受け取るし、「こんな感じってどんな感じだろう」となる。逆に言えば、日本人に伝える力がないとも思えてしまうこともあります。日本人間だけのコミュニケーションなら問題はありません。しかし、もうそういう世界ではないと思っています。

 

━ 働く側も日本と海外で大きく異なるような気がしますね。

そうですね。例えば日本の就職活動において「自己分析」って一つのキーワードになりますよね。でも海外ではする必要がない。理由は、自分が何をできるのかという軸で職を判断するからです。アジアの国々における面接でも、企業から「なぜそれをやりたいのか」といった思いや考えを聞くような質問はほとんど出てきません。欧米はもちろんですが、今では、日本以外のアジアの国々でもその考え方が主流です。

 

━ お話を伺っていくと、日本独特の就労環境・文化がどんどん国内外の人材流動化を阻害しているような気がします。

ベトナムでは日本語を必修にする流れがあるように、日本で働く人材増加の好都合な事情がありますが、それはいつまで続くかわかりません。そのためにも、日本は今からもっと外国人を受け入れ、ビジネスの本当のグローバル化に向けて準備をしておいたほうがいいと思います。就労環境や文化が異なる外国人を受け入れ、日本全体が外国人と共に働くこと、共存することに”慣れる”必要がありますね。

これまでの日本の就労環境のままでは、外国からの労働力を呼び込むことができずに衰退してしまいます。外国人の視点から、就労環境として日本よりも魅力的な国はたくさんあります。例えばシンガポールとか。日本に憧れて日本で働きたいという外国人は、すでに減少傾向にあると感じています。

それともう一つ、個人の想いとして、日本人には外国を見て経験した上で日本に戻ってきてその知識や経験を還元してほしい。外国の仕事の環境に惹かれ、戻ってこない人も大勢いるんですけど…。(笑)

各企業努力はしているのですが、日本人が外国に出向などで行って日本に戻った時に、そのキャリアや実績を正当に評価する枠組みや仕組みがまだうまくできていないように感じています。もちろん、しっかりと制度が整った企業も存在していますが。

そういった部分を良くしていくためにも、外国人をより多く受け入れることによって日本のビジネス環境をグローバル化させ、外国に飛び出した日本人が戻ってきたときに働きやすい環境を作れると良いのではないかと思っています。そうしないと日本の将来が危ないと思います。

まだまだソフトバンクの孫さんみたいに外国人にガチンコで勝てるような人材は少ないと感じますし、毎年働く人口が数十万人単位で減っている日本で、外国人を受け入れないという姿勢は、今の慣れ親しんだ環境を守ることでしかないと思います。

 

過去を振り返り、未来のイメージを持つこと

金さん_インタビュー時

━ 「毎年生産可能人口と言われている15歳〜65歳の方々が数十万人単位で減っている中で、外国人を受け入れないという姿勢は、今を守ることでしかないのです。」というお言葉がすごく刺さります。最後に、これから難しい時代を生きていく若者たちにメッセージをお願いします!

自分の経験やキャリアを振り返りしっかりと整理した上で、未来をイメージすることが大事だと思います。

過去に関しては、1年や2年単位でこれまでの軌跡を振り返ることが大事です。これまでやってきたことを踏まえて、自分が何をできるのかを見極める。これは国内外問わず、自分はこれから先どのように活躍できるかを考える時に役立つと思います。

そして、10年後20年後の夢ややりたいことに対して、5年後までにどのような位置にいる必要があるのかというイメージを持っておくことが重要だと思います。もちろん正解はありませんが、そのイメージに対するアクションを考えることが大切です。海外で働くという選択肢はもちろん自分が成長するために有効です。

しかし、その成長がこれからの人生でどのようにつながっていくかも考えてほしいと思います。そして、さらに言えば、自分で決めたことに後悔だけはして欲しくないと思いますし、だからこそ決めるときには、しっかりと将来を見据えて決定をするべきだと思います。例えば海外に行くことを決めたとして、5年後の自分がその決断をした当時の自分に対して、「おかげでこんなに成長できて、将来も明るい」と言えるように努力して欲しいと思います。

海外で働けば必ず成長できると思います。その上で、その成長は何に繋がるのか考えてほしいなと思います!

 

取材後記

お話を伺い、日本の文化と密接に関係する日系企業の問題点が浮き彫りになった。これから人口が減り、内需が先細っていく日本が成長するためには、海外の人材が国内に入ること、そして日本の人材が海外に出て行くことが必要不可欠になっていく。そのために、日系企業は外国人材を受け入れ、海外から戻ってきた日本人を正しく評価し、その方々が得た経験をしっかり活かせるようにならなければならないと感じた。それができれば、人口が減ってもまだまだ日本は世界で戦えるだろう。