【タイ女性特集】「自分でも予想ができないような挑戦を」 世界最大の青年団体にて、 タイのトップに立ち、今も世界中を爆走中 AIESEC 杉本智美氏

2016.11.03

AIESECという団体をご存知だろうか? 世界126の国と地域に支部を持ち、海外インターンシップ、海外ボランティア事業を運営する、世界最大の青年団体である。
杉本智美さんは、そのAIESECの日本事務局、タイ事務局で活躍したのち、現在はアジア地域の担当として活躍している。

なぜ彼女は日本を飛び出したのか?タイをはじめアジアで奮闘するパワフルな25歳にインタビュー!

《プロフィール|杉本智美氏》
立教大学文学部卒。学生時代に海外インターンシップ事業を運営する青年団体AIESEC(アイセック)にて、立教大学支部代表、日本事務局副代表を務めた。2014年3月に大学を卒業し、AIESEC in Thailand(AIESECのタイ事務局)の副代表を務めた後、2015年7月より日本人初となる同事務局の代表を務める。2016年、現在は、AIESECのAsia Pacific Operation Cordinator for East Asia and Pacific として、アジア・太平洋の各国支部のサポートやコーチングを務めている。

AIESEC(アイセック)とは
126の国と地域で活動し、海外インターンシップ事業を運営する世界最大の青年団体。日本では1962年に東京大学にて設立され、現在では国内25の大学委員会が活動している。

AIESEC Thailand

 

「自分でも予想ができないような挑戦がしてみたい」 目の前に敷かれたレールを飛び出し、新卒を捨ててタイへ

━━ AIESECとは、自分の大学支部での活動が主で、サークルのようなイメージを持っています。海外のAIESECへアプライし、働くというのは智美さんが初めてとお聞きしました。なぜ卒業後就職ではなく、タイのAIESECへアプライしたのでしょうか?

実は4年生の時に普通に就活をして、希望する会社からの内定は頂いていました。

しかし、4年生の夏、22歳を迎えた誕生日に自分の人生について考えていた時にふと、その会社でのキャリアパスや実現できそうなことには満足はしていましたが、自分が今考えて口に出してやりたいと言っていることや、実際にやっていることには全く満足していないな、と感じたんです。

当時、「AIESECからグローバル人材を輩出するには!?」、とか「世界と日本の架け橋になりたい!」とか、議論し考えていました。しかし、自分はどれだけ世界の視点を持っているか?と振り返ると、持っていないと思ったんです。海外経験もAIESECと通した1ヶ月半のボランティアが最長でしたし。やりたいことはわかっているのに、なぜそこに挑戦しないのか?と問いかけ、内定を辞退させて頂き、思い切ってタイのAIESECにアプライしました。

タイを選んだのは、大学時代足を運んだアジアの国々の中でも、タイ人やタイの文化が好きだったのも理由のひとつ。加えて、日本人も多く、経済的にも日本との結びつきが強いタイは、世界から日本を見るには良い環境だと思いました。

 

━━ なぜ、就職よりもタイのAIESECを選んだのでしょう? 卒業し就職、というレールを外れることを、リスクには感じなかったのでしょうか?

リスクに感じなかった、と言うと嘘になりますね。でも、人生振り返ると、私はリスクを取らない人間だったんです。

例えば、学生時代にAIESECの活動の中で大学支部の代表になるときなど何回か選挙を経験したけれど、自分が通るだろうとわかっている選挙だから出馬する、とか。先を予測して、全て動いてきたんです。でも、突然それが嫌になってしまって。自分は手の届く範囲の挑戦しか、してこなかったと気づいたんです。

タイのAIESECへアプライした理由も、挑戦しない自分を変えたかったからです。内定を頂いた会社は、面接の段階で内定を頂ける感触がありましたし、自分がやりたいと言ったことができる予定でした。当時思い描いていたキャリアパスが、そのまま実現できそうだという感覚がありました。

しかし、自分の周りでは就職せず起業したり、休学したり、ぶっとんだ人がたくさんいました。当時、e-Educationの税所くんや、斎藤康太くんなど、自分と2~3歳しか変わらない人がどんどん世界で活躍していて。

自分も先が予想できない挑戦がしてみたい、変わりたいと思い、目の前に敷かれている就職というレールを思い切って外れてみようと思ったのです。

「変化を楽しめる5%の人は、日本にいる必要はないと思う」 EventCarnival CEO 斎藤康太氏

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自分の強みを見失い、なぜタイにいるかを問いていた1年目

━━ 長期で海外に滞在するのがタイが初めてということですよね。タイに来てから、辛かったり挫折しそうになったことはありましたか?

今、タイに来て2年目になりますが1年目は結構つらい時期がありましたね。自信喪失していました。

タイに来る前、タイ人の友達はじめ色んな人に、「日本とタイは違う。日本の価値観をタイに持っていっちゃだめだよ」と言われていました。日本人としてSmartでいる必要はない、とにかくタイの文化を理解し、適応していくのが大事だと言われていました。

それを私は素直に受け入れ、タイで起こること全てを許容していたんです。交通渋滞はじめ、タイ人メンバーの連絡なしの遅刻、構造的ではない議論など、すべて「タイだから仕方ない」と受け入れていたんです。

そうしていたら、自分の意見が言えなくなっていたんですよね。自分が今何か言ったら、日本人だから…、日本の価値観を持ち込むなと思われる…と思われる怖さに負けて、何も言えなくなっていました。例えば議論の時など、構造立てて、筋道立てて議論をつくることが出来るのが自分の強みだったのに、それを提案することができなかったんです。言いたいことも言えなくて、ココでの自分の強みは何なのかわからず、強みを失っていく気がしましたね。

すごくテンションが落ちました。私は、今やっていることが、何のためにやっているか、大義名分がないと頑張れない人間で。タイのAIESECとして、タイの社会に何ができるか?という質問の答えがなく、何でここに来たんだろう?と思ったこともありました。

どう克服したかというと、結局吹っ切れたんです(笑) 全部タイに合せるのは疲れる!と。我慢するのをやめて、自分の言いたいことは言う。タイのこういうところは好きだけど、ここはこう改善できる、と提案していくようにしました。どう貢献できるかがわかり、自分の強みが見えて、楽になりましたね。

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多国籍なAIESECのメンバー。他国支部メンバーを一時的に受け入れるなど横の繋がりもあり、常にアジア全体のコミュニティを意識せざるを得ない環境。

周りの価値観や評価は二の次。まずは行動をしてみてほしい

━━ 最後にこれからのビジョンを教えてください!

なりたい自分として、大きくふたつの目標があります。日本を世界に発信できる、世界の文化を日本に持ち込める人になること日本を代表する女性になることです。

私は大学に入った頃ぐらいは日本が大嫌いでした。
ゆとり世代、バブル崩壊、自然災害も多く、暗いニュースは多い時代と言われてきましたし…。でも、あるきっかけで変わったのです。

大学時代、長期休みを利用して行ったバングラデシュで、1人のバングラデシュ人にお話を聞く機会がありました。彼は、英語の教育機関を22歳のときに立ち上げました。バングラデシュで初めて無料で英語教育を提供するNGOです。彼に、なぜそこまで頑張れるのかを尋ねたら、「僕がやらなかったら誰がやるの?ここは僕の国だよ」と言うのです。

教育にアクセスができないという問題は、日本ではそもそも起こり得ない問題。しかし、彼の言葉や現地の状況を知り、日本がいかに恵まれているか、にやっと気づいたんです。日本が大嫌いでしたが、改めて日本の良いところを認識しました。また、バングラデシュの彼のように、自分が母国のために何ができるか、何を貢献できるか、という視点を持つきっかけになりました。

先ほど挙げた税所くんなども、社会を良くしたいと思って活動している。私も変わらなきゃな、と思いましたね。

日本を代表する女性になる、というのは、私の生い立ちが関係しています。
私の家庭は、いわゆるTHE日本というか、女性が一歩後ろに引き男性を立てるような環境でした。女性の意見よりもまずは父親、祖父の意見が一番。なぜ女だからといって我慢しなければならないのか?と、この環境があまり好きではありませんでした。

だから、私は女性として、やりたいことができない、制限されているような人にメッセージを送れるような人になりたいです。以前友達と話していて、日本ってあまり女性が前に出てこないよね、と言われたことがあります。私の行動で、日本人てこういう人なんだ、女性も前で活躍しているんだ、と示すことができるような人になりたいですね。

私はただ一歩を踏み出しただけで、その踏み出した先の環境が本当に恵まれていました。目の前に機会があり、それをひとつひとつ全力で取り組んでいただけです。今私はこうやって取材をされていますが、されていなくて日本にいる人と何が違うか? 何も変わらないと思っています。良い環境、良い人に囲まれているだけなんです。

だからこそ、やりたいことがあるのにも関わらず、周りの評価を気にしたりしてそれを押し殺している人は、もったいないと思います。自分もそういうタイプで、挑戦することが怖かったですね。そういう人の背中を押してあげられるような女性になりたいです。

やりたいことがあっても、どうやって実行していいのかがわからないから、とりあえず何となく普通の道へ進む人や、やりたいことがわからず目の前のことをやってみるが、それが好きか嫌いかわからない人。こういう人って多いと思っていますが、私はもったいないと感じます。一度しかない人生です。周りの価値観や評価を一回抜きにして、まずは一歩出てみてください。出てみたら、見えてくることがきっとあるはずです。

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現在はAIESEC Thailandに留まらず、アジア地域担当としてアジア中を飛び回っている

(取材日時:2015年11月)

編集後記

『やりたいことがあるのにも関わらず、周りの評価を気にしたりしてそれを押し殺している人は、もったいない』
これに気付かず、いつのまにか行動せずに学生時代というモラトリアムを終えてしまう人は少なくない、と感じます。もったいないという意見に共感を覚えたし、果たして自分は行動しているのか?と問い直すきっかけにもなりました。

レールを飛び出すことは誰にでも出来ることではないし、すべての人が飛び出す必要があるかどうかもわからない。でも、自分が『やりたいこと』をやらない理由が、『周りの評価』だったり、自分の狭い視野の中にしかないのであれば、『やりたいこと』をやらない選択肢を取るメリットはないです。

智美さんの言葉は、筆者である私にとって自分なりの『やりたいこと』に向き合うきっかけと覚悟をくれました。私だけではなく、読者の方にも、自分の気持ちと向き合うきっかけ、背中を押してくれるようなメッセージになればと思っています。