2016.03.08

アセナビは“海外で働く”ことを目指して、自ら海外で活動している方のインタビュー記事を配信し続けている。しかし、自分の意思だけではなく、パートナーの都合で海外生活を始める方が多くいるのも現実だ。今回インタビューした古川音さんもそのひとり。マレーシアでおいしいごはんと出会い、人の優しさにふれ、帰国後“マレーシアのごはんのおいしさ”を日本人に伝えるべく、団体を立ち上げる。マレーシア生活に至る経緯と180度人生が変わった原動力をお聞きした。

《プロフィール|古川 音氏》
2005~09年、マレーシアの首都クアラルンプールに滞在。日本人向け情報誌の編集を4年間手がける。帰国後、「マレーシアごはんの会」を立ち上げ、マレーシア人シェフのもと料理教室の開催、講習会、講演、ライター、など活動の幅を広げる。
総合情報Webサイト「All About」のマレーシア担当CREAweb「マレーシアごはん偏愛主義」連載。
マレーシア文化通信「WAU」発行人「地球の歩き方」マレーシア担当。など、多数。

人生を変えた初マレーシア

-現在はマレーシアのごはんを通じて様々な情報を発信している古川さんですが、マレーシア行きのきっかけは何だったのでしょうか?

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2005年、主人の仕事の関係で初めて駐在したのがマレーシアです。初めて住む海外だったので、観光というよりも衣食住を賄うための生活導線をどのようにすればいいのか、生活者目線で首都クアラルンプールを駆け回りました。

今では信じられないけれど、どんな国なのか何も知らなくて。第一印象は、緑が多くて都会なイメージ。「街が整備されていて住みやすそう」と感じました。一旦帰国して、日本で移転手続きや荷物の梱包などを済ませて、あっという間に3か月ほどで移住です。

 

-海外生活が始まって、古川さんはどのように過ごしていましたか?

日本にいたころは、女性誌編集に携わっていたので、マレーシアでもライターができればと思っていました。滞在していた2005年ころは、今ほどネット環境が整っていなかったので、実際に雇用の場があるのか、就職できるか難しいかも、という不安がありましたね。

そんな中、募集のあった「パノーラ」(※)の編集部に採用されました。国が違うだけで、業務はスムーズにいきましたね。飲食店取材やインタビュー、編集など、フルタイムで働くことができました。同時に英語、マレー語、中国語の勉強を開始。マレーシアは、マレー系を中心に、中華系、インド系が混在する多民族国家です。さらに英語も通用するので、語学習得はよいきっかけになりました。

※「パノーラ」マレーシアのライフスタイルを提案する日本語フリーペーパー。月刊で駐在日本人の情報源になっている。

 

-仕事で不自由なことはありましたか?

クアラルンプールは車社会です。正真正銘のペーパードライバーでしたが、仕事のために一念発起して、自分で車を運転して移動をしていました。

でも、なかなか苦手意識が消えずに、自宅マンションの駐車場にぶつけてしまったり、訪問先の駐車場への入庫がどうしてもできず、近くにいた現地の人に助けてもらったりしたこともありましたね。(笑)

 

人生を変えたマレーシアのごはん

-生活の中で、マレーシアのごはんと出会うわけですが、印象はどうでしたか?

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ローカル料理を覚えたのは、平日のランチタイムです。よく同僚と車に乗って飲食店の複合施設であるホーカーに食べに行っていました。ホーカーのよいところは、自分で好きな物を食べられるところ。食事中の会話で生活習慣や知恵を教えてもらうことが多かったです。

中国系マレーシア人から教わったこと。
・バクテー*は朝に食べて! 身体が温まるから。
・咳が出るような時は、鶏肉を食べない方がいいわ。
・暑くて体がほてっている時は、ニンニクを食べちゃだめよ。

*「バクテー」豚のスペアリブ肉を漢方入りのスープで煮込んだ料理。

など、驚きの“へー”連続!

マレーシア料理はマレー系、中国系、インド系、と種類も豊富なので全く飽きませんでしたよ。

異国の地で自分の好きな職業に就いて、マレー文化を思う存分吸収して帰国しました。

 

「自分でムーブメントを起こさなければ!」

-様々なマレーシア文化を経験してきた古川さんですが、その良さを実感したのは、実は帰国してからとのこと。古川さんの心に思い描いたことは何だったのでしょうか?

東京の生活に戻ると「日本はマレーシアに比べて窮屈な生活なのかも」と感じました。日本人は集団で物事を捉えることが多い。マレーシア人の優しさに日本人とは違う懐かしさを感じるようになりました。また、色々な人にマレーシアの話をしても、マレーシアの国自体を知らない人が多くてびっくり。改めてマレーシアの多種多様な魅力を伝えたいと思うようになりましたね。

なぜ日本人はマレーシアのおいしいごはんを知らないのだろう。もったいない!!
これは、自分でムーブメントを起こさなければ!!

帰国後すぐにライターとして、マレーシアの魅力を知ってもらうための活動を始めました。雑誌社に営業をかけて、マレーシアの企画を提案しましたが、あまりにも反応が薄くて参りましたね。知られていない国だからこそ、自分でムーブメントを起こさなければと実感。それからマレーシアつながりの友人に声をかけ「マレーシアごはんの会」を立ち上げたのです。ちなみに、この活動をしていく中で知り合ったのが、のちのマレーシアごはんの会事務局メンバーでした。

 

―仲間が増えたことで本格的に始動したわけですね。

はい、まずは、東京周辺にあるマレーシアレストランに足を運び、マレーシア人シェフと交流するようになりました。話をしていくうちに「この人たちからマレーシア料理を習って、日本人に伝えたい」と思うようになったんです。2010年2月から不定期で料理教室が始まりました。

マレーシア人シェフたちも初めての試みだったので不安はあったけれど、いざ告知してみれば、マレーシア在住経験のある日本人や旅行したことのある人たちが興味を持ってくれて徐々に輪が広がりました。日本にマレーシア好きがたくさんいたことにびっくりです。

音4(料理講師でありタレントのマシータ・ユノスさんとの料理教室)

イベントもたくさん開催しています。マレーシアの独立記念日「ムルデカ」をお祝いしたり、中国系の旧正月料理を楽しんだり、野外で行ったBBQ大会の時は100人を超える日本人と在日マレーシア人が参加して大盛り上がりでした。マレーシアごはんの会の活動は、日本人はもちろん、マレーシア人の協力が原動力になっています。

とにかくマレーシア人のコミュニケーション力がすごい! 色々なことを教えてくれるし、話を始めると止まらないんです。現地にいた時もそうでしたが、屋台の人と話をして顔なじみになると、いつも話しかけてくれる。そして同じ話を何回も。(笑)
この会話がごはんのおいしさのエッセンスだったのかもしれません。

oto(日本人、マレーシア人総勢100名が参加し、BBQやゲームを楽しんだ)

 

―最後にマレーシア人の魅力とは?

話をしている時の表情がとても素敵なんですよ。特に日本に住むマレーシア人が、思い出話をする時の顔は生き生きとしています。食べ物のことでも親からの教えについてでも。これを大人になっても忘れることなく原動力にしているのがすごい!

また、マレーシア人が外国人に対して誰にでもナチュラルに接することができる理由は、多民族国家だからでは、と思います。違う民族と接することに慣れていますし、英語が活かせることも理由のひとつにあるでしょう。本当、マレーシア人のコミュニケーション力には脱帽です!

活動を通して、マレーシアのことを、日々発見して広げていくことや日本でマレーシア人と多く知り合えたことに感謝です。

 

インタビュー後、古川さんに、おすすめのマレーシアごはんをご紹介していただきました。また、今後の活動予定もお聞きしましたので、マレーシアが好きな人、マレーシアを知ってみたいと思っている人、ぜひ参考にしてみてくださいね。

 

古川さんおすすめマレーシアごはん

大のお気に入りが「パンミー」。

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(生地をこねたあと板状に麺を伸ばすため、中国語で「板麺」と書く。中国の客家地方に祖先をもつ中国系マレーシア人の家庭料理)

パンミーは、日本食に近くて心がホッとする味です。故郷である熊本名物「だご汁」に似ています。トラブルに見舞われて落ち込んだ時は、特に故郷の味が恋しくなるので、パンミーが慰めてくれました。煮干し出汁の小麦麺で、揚げ煮干し、シイタケ、サユマニス(繊維の多い葉)の3種は必須具材です。スープ麺以外にも、甘辛のタレを絡めたドライパンミー、辛みのあるチリパンミーなど、アレンジバージョンがたくさんあります。

 

今後の活動

マレーシアごはんの会では、様々な活動を予定しています。

〇マレーシア料理教室
東京及び横浜のレストランで毎月開催される料理教室。

〇動画プロジェクト開始
現地の食文化を紹介やマレーシア人シェフによるクッキング動画など。普段マレーシア料理教室に通えない人もこの動画をみれば自宅で再現できます。

〇屋台祭り
マレーシアの“屋台文化”を体験。お客様の目の前で調理し、お客様のリクエストに応じて取り分けるスタイルのごはんイベント。

〇マレーシア4種のカレー食べ歩き旅
6月10~14日開催のマレー系、中国系、インド系、ニョニャ系のカレー食べ歩き。古川さん同行ツアー。

〇古川さん主宰マレーシアツアー
毎年秋に行われるツアー。今年は10月6~10日「イポーの旅」を開催。現地ゲストと食卓を囲み、会話や空間を楽しむ古川さんならではの文化をシェアする試み。
(マレーシアの魅力を伝えるために、年に数回マレーシアへ取材に行き情報収集)

問い合わせ:「マレーシアごはんの会」

≪取材後記≫
古川さんと筆者は、仕事で知り合い普段からも交流を重ねている。後記くらいは普段通り“音さん”と書こう。音さんは常にマレーシアのことを想い、よいアイデアが思い浮かべば即実行する行動力がハンパない。今はASEANで働くことを目標に突き進んでいる人も、ちょっとした出会いから、ビジネスキャリアアップから音さんのように地域密着型のローカルキャリアアップに移行する人もいるかもしれないと感じた。仕事に追われ過ぎず、一緒にごはんを食べている人と笑い合うと、ひょんなことから新たな道が開けるかも。これはインターンでも仕事でも、“同じ想いを共有する人がいる”ということが大切なのだ。

写真提供:古川音